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しあわせの青い鳥 2/2
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ゆくりなくもその日はやってきました。
春休みが終わり、四年生に進級した初日のことです。始業式が終わると、私は新鮮な雰囲気の教室をひとりぬけだして一目散に家路につきました。「淫売の子」というレッテルがはられてからというもの、私は学校中の除け者でしたし、ルリをお迎えしてからは私自身も学校の友人を必要としていなかったのです。
M広小学校の正門から出て体育館の裏手に回り、そのまま幅員四Mほどの道
しあわせの青い鳥 1/2
春の霞がたなびく夕映えの坂道を自転車でゆっくりとくだってゆく母の背後(うしろ)姿。・・・・・
——母について憶えていることはほとんどありませんが、夕日の中に消えていく母の背中は、淡い色彩を暈した背景をともなって今も私の眼裏(まなうら)によみがえります。
母の背中がおぼろに霞んで見えるのは、うっすらとした春霞が夕景色を包んでいたばかりではなく、しだいに遠ざかり行く母を、薄い涙の膜を透かして見送ってい
ハラキリ奇譚 2/4
私たちは和室応接室に通されました。
応接室には既に十人ほど待機していました。
やはりみんな中年でどことなく陰湿な感じのする人たちでした。何人か女性も混じっていたと記憶しています。
その応接室は数奇屋風の作りで、仔細に見ると書院の欄間には近江八景を透かし彫りで現していました。
部屋の隅で控えている私たちを案内した江戸小紋の着物の女性に、御手洗いの所在を尋ねると、「ご案内いたします」と、スッと立ち上