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kirinboshi
2021年10月28日 11:08
さりげなく、後ろを見ると、ミスティは何も言わずについてきていた。本当に何を考えているのか分からない。「……トリア。コテント国は東西南北、他国に囲まれた国よね」 自室に戻った途端、ミスティがいきなりそう呟いたので、僕は驚いた。「そうだよ。小さな国。いつ攻め入られるかも分からない、ね」「だとしたら、古くから親交のある西を信じるべきだわ。今、窓の外を見て いたけど、西の姫様の馬車が一番質素
2021年10月26日 14:35
「いいなー、ラウザーは」 ミスティが口を尖らせる。「いいって何が?」僕が聴くと、 「だってトリアに触れるじゃない」と、また僕を困惑させるようなことを言ってきた。頬が紅潮するのを感じて、思わず、顔を抑えた僕は部屋を出て王宮の司書室へ向かった。 司書室はこの国の歴史書が集められた場所だ。ここでミスティの謎を解くカギを見つけてみせる。埃っぽい本の間で、ミスティは顔をしかめる。「トリア、ね
2021年10月25日 12:05
翌日、着替えて朝の食事を終え、一人になった僕の前にミスティは現れた。彼女が現れた嬉しさと困惑で僕の鼓動は自然とはやくなってしまう。「おはよう、トリア王子」「おはよう、ミスティ」 僕の周囲をふよふよと飛び回るミスティは霊体なので、捕まえることも出来ない。「今まで、どこにいたの?」「ずっと、あなたの傍にいたわよ?姿を消していただけで」 思わずせき込んでしまう。前の晩から、今までの
2021年10月22日 11:17
「つれて行けない。君がどうして……その、殺されたかを……」「……知るまで?」 僕は頷いた。彼女は首を横に振る。「とても言えないわ」「じゃあ、僕も連れていけない」 そう言うと、ミスティは不敵な笑みを浮かべた。「本当に馬鹿ね、鳥頭のトリア様。私は幽霊よ。封印が解かれた以上、ここで地縛霊をしている意味もないの。そう、もうあなたに憑りついているのよ」 全身に怖気が走る。鳥肌まで立っ
2021年10月21日 14:08
臭気と恐怖で吐き気がする。胃の中のものを戻しそうになった。 すると、ポワッと室内を照らす淡い光が満ちた。光はみるみるうちに人型になった。立ち込めていた嫌な空気はその人物が現れると完全に消え去った。あろうことか、人骨さえその光に呑まれて消えた。 光はやがてハッキリと女性の形をとった。腰まで伸びる淡いグリーンの髪は真珠のような光沢。こちらを見る瞳は海を写したような青だった。薄手の絹の服から覗く
2021年10月19日 15:39
思えば塔のことを教えてくれた庭師は他にも様々なことを教えてくれた。下町の言葉や木登り。そう、あの年取った庭師も母が僕に危ないことを教えるからと王宮を追われたのだ。なんていう理不尽だろう。 僕は、乳母や庭師が好きだった。媚びへつらうばかりでなく、対等に接してくれる、権力のない彼らが。素早く足を走らせると、塔はすぐそこだった。 何度もこの塔に近づいたことがある。その度にラウザーや他の者が
2021年10月18日 11:56
最上級のあいさつの仕方。食事作法。言葉遣い。もちろん、これまでも躾けられたことだ。しかし、ラウザーに全て、おさらいをさせられた。その上で国交のために重要な国の行儀作法まで。僕の頭の中は国と国との作法がもつれた糸のように絡まっていた。部屋のソファに倒れ込む。 ラウザーには、さっきやっと下がってもらった。こんなだらしない姿は見せられない。僕はうつろな目で窓の外を見る。王宮の贅の限りをつくした飾り窓
2021年10月15日 11:31
塔に侵入するなら、舞踏会の日だと僕は目星を付けていた。このコテント国の規模は小さい。しかし、豊かな自然が育んだ資源と鉱脈を所有している。そのおかげで交易は盛んだ。 小さい規模の国が資金を持つと、ロクなことは起こらない。外交に力を入れるため父王は頻繁に舞踏会を開く。国をあげての他国へのもてなしなので、いつも人手が足りなくて、召使いたちはてんてこ舞いだ。 従者のラウザーも例外ではない。父王は
2021年10月14日 16:07
窓から見えるのは古い石積みの塔。幼い頃から不思議だった。あの塔は何なのか。幽霊が出るという噂は本当なのか。従者のラウザーに聞いてみると、彼は呆れた顔で深いため息をついた。いつものことだ。「王子、そんなことを聞いて何をするおつもりです?」 きっと、肝試しに行く程度だろうと考えたのだろう。ラウザーの二十歳とは思えない神経質な顔がつりあがる。「何もしない……ただ、少し」「ただ、少し……?