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【ファンタジー小説】優しい午後の歌/第九話「ミスティの思惑」

 さりげなく、後ろを見ると、ミスティは何も言わずについてきていた。本当に何を考えているのか分からない。

「……トリア。コテント国は東西南北、他国に囲まれた国よね」
 自室に戻った途端、ミスティがいきなりそう呟いたので、僕は驚いた。

「そうだよ。小さな国。いつ攻め入られるかも分からない、ね」
「だとしたら、古くから親交のある西を信じるべきだわ。今、窓の外を見て いたけど、西の姫様の馬車が一番質素だった。あれは他国から圧力を受けて目立たないようにしているのではないかしら」

 僕はさらに驚いた。窓を見ながらそんな観察をしていたのか。
 ミスティは「ふふっ」と謎めいたいつもの笑い方をした。

「私だってお姫さまですもの。国政にはうるさいわよ」

 確かに、ミスティの言っていることは正しいかもしれない。西の姫はおっとりした性格で母国の第一王女だ。近隣には珍しく、女王の治める国でしかも女王は多産だったため、西の姫には何人もの兄弟姉妹も居る。いずれ、隣国に嫁ぐ姫たちとの繋がりも考えて悪い線ではないだろう。

「君の目的は何なんだ?」

 思わず責めるようにミスティに詰め寄ってしまう。ミスティは肩をすくめた。

「あなたを次代の王に導くことよ」

 そうはっきりと告げる。その眼差しは力強い。動機は何かしらないが、目的は明かしてくれるというわけだ。

「僕は次代の王になるよ。君に助けてもらわなくても」
「……甘いわね、鳥頭のトリア王子。私のように死にたくなければ、ここは協力するところよ」

 ミスティは幽体の透けた顔でふふっと笑う。このお化けのお姫様は僕を馬鹿にするのが趣味らしい。ムッとした僕の顔にすっと人差し指を伸ばして、ツンと鼻先をミスティは小突いた。スッと冷気を感じる。つめたいのに、僕の心は裏腹に熱くなる。今、僕の顔は真っ赤だろう。

 ミスティは僕の様子に何とも言えないように眉を下げて、スッと姿を消した。今度はご機嫌斜めなのか?僕にはミスティの思惑が読めない。あの切なげな表情は、どんなお姫さまより高貴でどんな女の子より可愛いかったのに。


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