【ファンタジー小説】優しい午後の歌/第一話「古びた塔」
窓から見えるのは古い石積みの塔。幼い頃から不思議だった。あの塔は何なのか。幽霊が出るという噂は本当なのか。従者のラウザーに聞いてみると、彼は呆れた顔で深いため息をついた。いつものことだ。
「王子、そんなことを聞いて何をするおつもりです?」
きっと、肝試しに行く程度だろうと考えたのだろう。ラウザーの二十歳とは思えない神経質な顔がつりあがる。
「何もしない……ただ、少し」
「ただ、少し……?」
時折、あの塔から歌が聴こえてくるような気がするのだ。返事をイライラと待つラウザーに僕は頭を振った。
「何でもない。ごめん。……お茶を淹れてくれ」
ラウザーを追い払うと、僕はため息をつく。話してもきっと通じない。見えないものが見えたり、聞こえないものが聞こえたり。僕は霊感というものが強いらしい。
あの塔から聴こえる歌もきっとその類だ。ラウザーには理解してもらえないだろう。それにあの歌声は自分だけの秘密にして置きたかった。綺麗で透き通っていて、まるで亡き乳母の子守歌のように優しい歌声。
そうだ。一人だけであの塔の正体をあばこう。
僕は夕陽に照らされた塔を見つめた。ほのかにあの歌声がまた聴こえる気がして、そっと瞳を閉じて耳をそばだてた。
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