【ファンタジー小説】優しい午後の歌/第七話「翌朝」
翌日、着替えて朝の食事を終え、一人になった僕の前にミスティは現れた。彼女が現れた嬉しさと困惑で僕の鼓動は自然とはやくなってしまう。
「おはよう、トリア王子」
「おはよう、ミスティ」
僕の周囲をふよふよと飛び回るミスティは霊体なので、捕まえることも出来ない。
「今まで、どこにいたの?」
「ずっと、あなたの傍にいたわよ?姿を消していただけで」
思わずせき込んでしまう。前の晩から、今までの自分の行動を振り返り、赤面する僕にミスティは心底、嬉しそうな微笑みを向けた。
「ふふ、だって、私はあなたに憑りついているのよ?」
そうか。あの塔から封印を解いて、ミスティは僕に憑りついたのだ。
馬鹿、馬鹿、僕の馬鹿。しかも、今夜は舞踏会。ミスティの存在を気にせずに、他国の姫君を見定める余裕なんてない。
「トリア王子、いよいよ今日が妃決めかしら?」
ミスティはそんな気も知らずに目を細めて笑う。
「君の正体を突き止めるのが先だよ!」
思わず、幽霊相手に怒鳴ってしまい、隣室のラウザーが慌てて飛び込んできた。
「王子、どうされました!?」
「ごめん、何でもないんだ」
安堵の嘆息をしたラウザーは、「今夜は頼みますよ」とトリアの美麗な装飾の正装を皺をのばすように手で払うと静かに部屋を出て行った。
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