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27の北欧旅行記

27歳のとある青年が10日間の北欧旅行を綴った記録

第1話 【0日目-2020年2月7日(金)】

第1話 「日々」

朝、7時18分の電車に乗る。
崩れることのない平日のリズム。

射し込む光は淡い、強くも弱くも感じた。
人の声はほとんど聞こえない。
時折流れるアナウンス、揺られる体、線路の鳴り、一瞬で過ぎ去る踏切の音、どれも不快ではなかった。

この時間が心地よくて、買い溜めた本を開いては物語に入り込んだ。
ほんの少しの贅沢な時間にさえ思うが、いつも決まって妨げられてしまう。

降車駅のアナウンスだけが、強くはっきりと聞こえるのはなぜだろう。
その声がこだましていく頭の中には、最後に不安だけが残った。

そして、そこから一日が始まっていく。

毎日が慌ただしく、最小単位の如く、秒速で流れた。
一日の限られた時間を無駄にすることなく使っているけど圧倒的に足りていない。
同じ時間を有効に使えている人たちがいることを考えると、じぶんがうまく使えていないだけということに気づく。

「おはよう」「お疲れさま」
毎日のハローグッバイに合間見る物語には、喜怒哀楽があり、無駄な日は一日もない。
思うことや気づきも積み重なっていく。

少しだけ… 少しだけ、不安と物足りなさが残るこの毎日はなんだろうか。

そんな日常。そんな日々。

「やべえ、全然準備してねえ」
「まあ、なんとかなるっしょ」
この二つの声の主は紛れもなくじぶんの心の声だ。
ついに、北欧旅行への出発日が明日へと迫ってきているが、全く準備をしていなかった。

一年に一度の連続休暇、平日5日の連続休みの前後には土日がある。
さらに、今年は祝日のおかげで、合計10日連続で休みになるシステム。
今年は海外に行こうと決めていた。

散々どこへ行こうか迷ったあげく、2018年のアイスランドがよかったからか、なんとなく北欧へ行くことにした。
人に聞かれても答えられないくらい、決め手が曖昧。
強いて言えば、オーロラリベンジと街並みと広大な自然くらい。

「ウユニ塩湖の景色を眺めてみたい。水面が鏡となり、空を映す光景を自分の目で見てみたかった。」
でも、なぜか行く決意ができずにここまできた。なぜだろう。

・パスポート・財布・地球の歩き方・eチケット・iPhone・iPad・Apple Watch・カメラ・充電器・電源の変換・日用品・化粧品・衣類・本

古びた見た目からは想像できない頑丈で頼もしい45リットルのザック、身体の一部になる心強いボディバックに、用意した物を詰め込む。
「足りなければ買えばいいや」楽観的な精神に助けられて、なんとか準備を終わらせた。
時計の針は26時16分を指していた。

5時40分に地元の駅を出発するJRに乗るためには、5時前に起きねばならない。
荷物を最終チェックして、まずはスタートを切ることを念頭に、そして安全に楽しんで帰ってこるように。

「今日はおやすみ。」
いつもは3秒で眠りにつくが、今宵は3分かけて眠りについた。

2020年2月7日

第2話 「出国」

突き刺さるような冷たさで全身に力が入った。
辺りはまだ暗く閑散としている。
通勤のために買って使っている水色のYAMAHA Vinoに乗って駅へと向かった。

5時40分の列車に乗る人々。
土曜日の始発は旅行便のような気さえした。
それは平日の7時18分の電車とは、明らかに乗客の表情が違うからだ。

1時間30分ほど電車に揺られて大きな駅へ向かった。
やりたいことが溜まっていて、暇つぶしは得意なので移動時間も苦に感じない。
言い換えると、暇ではない。
後輩におすすめしてもらった「テセウスの船」をみて過ごした。
なんとも興味深い展開が魅力的なドラマで、予想する真犯人が変わっていくが、真相が全く掴めない。
主人公達の感情を察すると感情移入して他人事とは思えなくなりそうだった。
最新話は日曜日にTVerで見逃さないことを心に誓った。

大きな駅へ着くとバスターミナルで空港行きのバスへ乗り換える。
予約済みであったモバイルチケットを提示して乗り込む時、学生時代にネットで高速バスを予約していた光景が蘇った。
学割の効く交通手段だったから、かかる時間や歩く距離よりも、安さが最優先。
今でもその感覚を忘れたくないが、優先順位の比重が少しずつ変わっているのはじぶんでもよく分かる。

空港のターミナルを間違えずに下車すると、いよいよ旅の玄関が待ち構えていた。
3階の搭乗手続きフロアへ向かい、案内版の表示通りチェックインに向かう。
手続きを済ませて古びた45リットルのザックを預けてからは、時間を潰すためにショッピング街を歩いた。
特に買いたいものがなかったが、通りかかった無印両品でネックレストを購入している人に触発されて、気づけばレジにいた。

出国の2時間前には到着していたこともあり、時間があり余ったが、早々に検疫へ向かうことにした。
荷物をトレイに入れてチェックをしてもらう。
悪いことをしていなくても、心配になるこの心理に名前はあるのだろうか。
運転中にパトカーを見かけると身が引き締まって、声をかけられないか不安になる心理あるある。
無事に関門を通過すれば、時間がくるまではゲートで待つだけだった。
一応家族に出国の報告をする。
心配をかけている事実はあるし、最低限の報告は義務であるとも思う。

アナウンスと共に最後のチェックを通過して、飛行機へと乗り込んだ。
JALとFINAIRの運航協同便、11:55セントレア発-15:10ヘルシンキ着。
飛行機に搭載されたライブビューカメラから映し出された離陸の様子には見入ってしまった。
透き通った水と空気のグラデーション、丸かったことを思い出させる大地、Googleマップでしか見ることがない高度から見下ろす街。
10時間の空の旅が始まった。

まずは映画をみた。
残された余命で夢だったオーロラを観ること、そして恋をしたことが綴られていた「雪の華」。
舞台は今まさに目掛けているフィンランドだった。

先週たまたま見かけたテレビで見入ってしまった「結婚式の旅」が思い出された。
約束した大曲の花火大会当日、悲劇は起きた。
会場で激しい腹痛に見舞われて病院へと向かう。
異常に苦しむ様子とは裏腹に下されなかった病気の診断、続く異変と腹痛の先に迎えていたセカンドオピニオンは「大腸ガン-ステージ2」だった。
彼氏の支えの上で決意した手術、待ち構えていた運命は残酷なものであった。
祈りは届かない。
お腹を切開すると「大腸ガン-ステージ4」であり、なす術がなかった。

それでも、2人は結婚を決めた。
2年越しの花火大会で花火を見る夢を叶えた。
「あと何回この花火を見られるんだろう」彼女の言葉のため存在するかのように、米津玄師の打上げ花火が流れた。

"あと何度君と同じ花火を見られるかなって
笑う顔に何ができるだろうか

パッと光って咲いた 花火を見てた
きっとまだ終わらない夏が
曖昧な心を 解かして繋いだ
この夜が続いて欲しかった"

そして、彼氏はプロポーズした。
2人は結婚した。その密着番組だった。

素敵な2人だなと思った。

あとは、寝て体が痛くなって起きて、小説を読んだり、iPadでプライムビデオを見たりして過ごした。
時は過ぎると早いものだ、いよいよヘルシンキに到着する。

一瞬で空気が変わったような感覚と共に、ターミナル内へ向かう。
乗客は目的によって足取りが違うように見えた。
日本からのガイド付き集団ツアー客、ガイドなしのカップル客、日本旅行から帰国した人、仕事っぽい人、よくわかんない人。

荷物を受け取り、入国審査を済ませる。
聞かれたことは、この旅の滞在期間、旅先の場所、目的、だったと思う。

ヘルシンキ国際空港に入ってからは売店でパンを買って食べた。
0.25€の意味分からなそうなパンの味は食べても意味分からなかった。

明日は12:35発ノルウェイジアン航空(現地の格安LCC)を使って、ノルウェーのオスロへ向かう。
10時間の空の旅と共に時刻はタイムスリップして、時計の針は15時26分を指していた。
空港での時間が長く、空港ゲート内のカプセルホテルを予約していたため、またもや出国手続きを済ます。
搭乗の24時間以内からチェックインが可能で、手荷物も自動機で手放した。

28番,29番ゲートの間にある、GoSleep-Helsinkiにチェックして、寝床に倒れ込むと3秒で眠りに落ちた。

明日は少し余裕があるはず。

2020年2月8日

第3話 「ノルウェーの森」

目覚めてから状況を理解するまでに時間は掛からなかった。

ヘルシンキ空港のゲート内カプセルホテルで泥のように眠ったが、頭の中は完全に気を休めていなかったのだろうと思う。
辺りは明るくなかったけれど、多くの人が行き交う気配を感じて時計をみると、6時18分。
慌ただしい空港の一日はとっくに始まっていた。

今日のノルウェイジアン航空のオスロ行きは12:35分、随分と時間があったけどゲート内でやることはないので、もうしばらくゴロゴロすることにした。
完全に目を覚ましていたので、iPadでプライムビデオを見て過ごす。

昨日から見始めたのは、「銀のさじ」これもおすすめしてもらったものだけど、見入ってしまう。
冒頭こそ、おもしろいのか疑問を覚えたが、それを撤回するまでに時間は掛からなかった。
物語は夢のない主人公が農業高校生活をスタートするもので、主人公が体験して感じることの1つひとつがじぶんにとっても新しく共に考えさせれるものだった。

特に、養豚であるのに「豚丼」と名付けてしまった赤ちゃんブタをペットのように愛情を注ぐが、家畜である現実に割り切れず苦しむ様子には胸が痛んだ。
エピソード2まで各10話しかないのに、すでにエピソード1、つまり半分まで見てしまったので一旦見るのを止めた。

カプセルホテルにいたことを忘れていたが、とりあえず受付でチェックアウトを済ませて、インフォメーションを確認した。
目的地へのフライトは17番ゲートだったので向かうことにした。

この時まだ2時間以上あったので持ってきていた小説を読むことにした。
タイトルは村上春樹の「ノルウェーの森」これまた知り合いの紹介、文章における表現力の豊かさが勉強になるとのこと。
読み初めは物語の状況を掴むことに苦労したせいか眠ってしまった。

ここ1,2年で、これまで全く本を読まなかった人生を取り戻すかのように本を読み始めた。
ジャンルは問わない、小説、エッセイ、自己啓発、教本、心理学書、哲学書、なんでも興味深かった。
もちろん評価されているタイトルを選んでいるのでハズレを引いてないだけかもしれないが、どれも読んでよかった。

話を戻すと、最近本を読むようになったが、眠い時に本を読むと、物語と夢を混ぜてしまう。
つまり、読んでいる物語の延長を夢で作ってしまうのだ。
リアルな夢で現実との区別がつかなくなることは誰にでもあると思うが、読書中の夢は高確率でこれが起こる。

話を引っ張ってしまったが、とにもかくにも本は眠くならない時間帯に集中して読みたい、ゾーンに入ってしまえばこっちのものだ。

そうこうしていると、アナウンスが流れてきた。
まずはじめに、フィンランド語が流れているのが分かる。
いわゆる巻き舌を使う発音が多い様で、「る゛」みたいなのがよく聞こえて、そのうち英語に変わるのでなんとかそれを聞き取る。
グループBが搭乗開始ですの声に合わせて、そろそろと動き出し、昨晩に自動チェックイン機で発行してあった航空券を機械にかざして搭乗する。

飛行機内ではずっとノルウェーの森を読んでいた。
仲間が分かってくるとページを開く手が止まらなくなる。
表現力の高い文章は情景を鮮明に想像させるため、物語に引き込まれていく。
どれほど時間が経ったか分からないまま、ノルウェーのオスロ空港へ到着した。
13時10分に到着、移動している間に1時間の時を戻していたらしい。

空港から中心街へは国鉄を利用した。
切符の自販機はまるで何が書いてあるか分からなかったが、英語表記にしてなんとか理解した。
オスロ空港駅からオスロ中央駅まで、109NOKで23分、実際に時間通りの運行で少し驚いた。

駅から外に出ると、雨が降っていたが、9割の人は傘をさしていない信じがたい光景だった。
「北欧はこの時期雪じゃないのかよ」傘は持っていなかったので濡れながらホステルへ向かった。
色とりどりの建造物は全てが美しかった、新くも古くもある、現代と過去が共存している雨の街並みは静かに受け入れてくれた気がした。

ホステルの入り口に迷っていると、同じく旅人のアジア系の人が案内してくれたおかげで、無事にロビーへ到着してチェックインを済ませた。
一部屋に8ベッド備えられている共同ドミトリー、15時頃到着した時には先客が一人寝ていただけだった。

夕食を兼ねて道中に見つけたパン屋で過ごそうと考えてホステルを出た。
辺りはまだ明るさが残り、相変わらず降り続く雨が街を濡らし続けていた。
行き交う人々は撥水性のマウンテンパーカーのフードを被っているようで、傘を買わずにこのように過ごすのが文化なのかもしれないと思った。

パン屋に着いて、野菜がのったフォッカチオとコーヒーを購入して席についた。
読み途中のノルウェーの森を開くと、最終ページを閉じる頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。
薄々勘付いていたが、この小説は上下の2部作にになっていたのに上巻しか持ち合わせていないものだから、続きが気になり悶々としながらAmazonで下巻を発注した。

暗くなった街を少し歩いてコンビニで水を買ってホステルへ戻った。
シャワーをすぐに浴びようとするが、いつもここで問題が起こる。
それぞれの国や地域によって、使い方が違って分からないことが多々ある。
「お湯が出ねえ」、長時間格闘の上なんとかお湯を出すことができたがぬるい。
あったまらないままシャワーを済ませて、すぐに寝床についた。
携帯やらをいじりに、明日の支度を済ませて寝ることにした。

明日は8時25分にベルゲン鉄道でベルゲンへ向かう。
その間、フィヨルド周遊観光を楽しむ。
日本で言うところの、立山黒部アルペンルートのような観光。

おやすみ。

2020年2月9日

第4話 「アナと雪の女王」

朝5時頃、物音で目が覚めた。
すでに今日を動き始めた人がいるようだった。
8ベッドのドミトリーだったので仕方がない、早い時間のフライトがあるのだろう。
一度は目覚めたものの、二度寝は得意だから問題なかった。

二度寝に落ちると、次に起きたのは6時。
8時25分の電車までは時間があったが、余裕を持つために起きることにした。
上のベッドの旅人も起きらしく、話しかけられたので少し会話した。
駅まで一緒に行こうと誘ってもらったので共に駅へ向かう。
彼はウズベキスタンの大学4年生で世界旅行中、これからドイツに向かうために空港へ行くとのこと。
朝ごはんで一緒にクロワッサンを食べた時、高い物価に嘆いており、心の底から強く共感しておいた。
Instagramで友達になり、記念撮影してさよならした。

オスロ中央駅はまだ7時だというのに、たくさんの人が行き来していた。
月曜日なので勤め人の出勤なのか、はたまた旅人達なのかよく分からなかった。
日本であればスーツを着ているので分かるが、ここではスーツを着ている人はおらず、さらにアウターも自由なので見当もつかなかった。

インフォメーションでベルゲン鉄道ミュルダール行き8:25を探すと3番線であることがわかった。
その時発車まで20分ほどあったが、すでに乗車することができた。
本日のフィヨルド周遊はこのような旅程。

08:25オスロ-12:57ミュルダール ベルゲン鉄道
13:05ミュルダール-13:55フロム フロム鉄道
15:00フロム-17:00グドヴァンゲン フィヨルドクルーズ
17:25グドヴァンゲン-18:20ヴォス バス
18:38ヴォス-19:57ベルゲン ベルゲン鉄道

フィヨルドはアナ雪の舞台としてもその名を轟かせている観光スポットで、とても自然がきれいなところである。
列車、バス、船で自然を満喫できる観光であり、日本でいうところの立山黒部アルペンルートに近い感覚。

時間になると列車は動き始めた。
向かい合う4席の指定席であり、通路側に座った。
窓際にはイギリス系の男子2人組が旅を楽しんでいた。
乗り換えまで4時間半もあるが、静岡から名古屋までJRの鈍行でも4時間を切るくらいなので、どれだけ長いかがよく分かる。

その長い時間は外の景色を眺めたり、寝たりしながら過ごした。
それでも時間は経つもので、ほぼ時間ぴったりにベルゲン鉄道からフロム鉄道へと乗り換えた。

ベルゲン鉄道の方が公共性が強く、フロム鉄道の方が観光性が高い。
道中はモニターとアナウンスによる解説付きでゆっくりと列車は乗客を運んだ。
フィヨルドは氷河の融解によって大地を削り形成された地形であり、断崖絶壁で広大な様子を望むことができる。
これはカリフォルニアのヨセミテ国立公園で学んだことであり、もちろんアナウンスは呪文にしか聞こえなかった。
一度5分間の下車タイムがあり、写真を撮ることができた。
その後もゆっくりと進みフロム駅へ向かう。

フロム駅へ着く頃には辺りの雰囲気はがらりと変わり、フィヨルド地域特有の様子で出迎えてくれた。
左右の断崖絶壁に挟まれるように透き通った川が流れており、その岸から崖までは冬なのにも関わらず青々とした芝が一面を覆っていた。
そこに鮮やかな軒が集まるようにして並んでいた。

1時間後に船に乗船してフィヨルドクルーズを楽しむ。
天気はあいにくの雨であるが、自然には逆らえないので仕方あるまい。
待ち時間のコーヒーは体を温めてくれた。
といっても、この旅は想定よりも暖かく、その日も3度ほどあった。

Eチケットをみせて乗船。
3階建の構造になっていて、最上階から眺める港町の景色は一段と美しく見えた。
時間になると汽笛を上げて港を出た。
遠ざかり小さくなっていく街、全体が見えてくると背景にそびえる絶壁は真の偉大さを見せるようだった。

外気温が何度を指しているかは分からなかったが、さすがに風が冷たかった。
それでも、しばらくフィヨルドを眺めていた。
感動する眺めが続くが2時間もあるといろいろなことを考える。
冒頭にも書いたように、日常についても考えてみた。
今は完全に非日常にいるので、日常についてはかなり俯瞰して思考を巡らせることができるが、だんだんどうでもよくなってくる。
そもそも、悩みとかはないので、漠然とした不安感について、どうやって考えていいかも分からなかった。

グドヴァンゲンの港に着いたのは17時頃、辺りはすっかり暗くなり始めていた。
そこからはバスに乗り、ヴォスでベルゲン鉄道に乗り換えてベルゲンに到着したのは20時になっていた。

駅の徒歩10分以内のゲストハウスを予約していたのですぐに向かった。
夕方にゲストハウスよりメールが入っていた。

「あたなが到着する頃には私はいないので、隣のビリヤードバーの受付に鍵を預けてあるから、鍵を受けとって自由に入ってくれ」

とまあ、このような感じであったが、じぶん的にはかなり難易度が高い要求であったがやむを得ない。
幸いにもバーはすぐにわかったし、受付で名乗るとすぐに鍵をくれたので助かった。

ゲストハウスに入り、部屋に向かうと同じ部屋のものは既に眠りについていた。
長い一日で完全に疲れ切っていたので、シャワーを浴びてすぐに眠りについた。

「おやすみ」

2020年2月10日

第5話 「鮮やかな街」

4日目の朝、ここはノルウェー・ベルゲンのゲストハウス。
高い建物が並ぶ街角にある宿泊施設、もちろんドミトリー。
4人用の部屋であったが利用者はもう1人、後にジェームスと名乗る寝ぼけたおっさんのみ。
外国の朝は日本よりも動き始めがちょっと遅めなので、朝は少しゆっくりできた。

いよいよ、出発の準備を始めると寝ぼけたおっさんも起きてきて支度を始めたようだった。
寝ぼけたおっさんは、自らをジェームスと名乗り、何やら、紙袋に入った「黒い変なもの」を食べながらどうぞと差し出してきた。
受け取った変わりに、柿の種を一袋あげた。
そして、その「黒い変なもの」はアメリカでももらった経験があるので、変なのではないと思うのだが、見た目的にはタイヤの切れ端に砂糖のようなものがまぶしてあり、今回も勇気がでずに食べれなかった。すまん。
寝ぼけたおっさんと表現するのは、言わずもがな寝ぼけた感じだからだ。

チェックアウトを済ますと、ベルゲンの町に繰り出した。
まずは「ブリッゲン」に向かった。
海岸沿いに立ち並ぶの木造家屋は500年の歴史があり、世界遺産にも登録されている。
カモメは万国共通、一年のうち2/3が雨なのはベルゲン特有、北欧の人たちの幸福度は世界有数。

ブリッゲンにつくと、連なる木造家屋はきれいに立ち並んでいたが、よく見るとかなり部分的に歪んでいた。
耐震強度的には余裕でアウトなのが容易に想像できるくらいにはあちこち斜めっていて、建物同士が支えているように同化していた。
「支え合っている気がする」という、よくわからない感想を胸にしまい、街を散策することにした。

フロイエン山はケーブルカーで登ると街を一望できるの人気観光スポット。
往復で95NOK、日本円で1200円。物価が高い割には優しい値段であったが、ランチで行ってみたいところがあったので節約、フロイエン山は途中まで歩いて景色を眺めることにした。ケーブルカーの駅裏を歩いて登って行くと、途中までは家々があり、路地を歩いて行く様な形。完全に一般市民の生活圏の一面をみることができたので、歩くことで経験できた発見だった。20分ほど歩いただけでも十分に街を見渡すことができた。
色とりどりの木造家屋、船をいくつも停めている港、どこまでも続く海は街を鮮やかに染めていた。

ランチはフィッシュバーガーとフィッシュスープを飲むと決めていた。
あらかじめ調べてあったお目当てのお店へ入ると、思ったよりたくさんのメニューがあったが、迷わずお目当てを注文した。
愛想がない様子はちょっと切なかったが、そんなのはまあよい。間も無くして完成したので頂いた。
フィッシュといっても、マクドナルドのフィレオフィッシュのようなものではなく、魚の練り物がバーガーにもスープにも入っていた。
味も申し分はなく美味しく、ボリュームもあったので満足。

夕方のストックホルムへのフライトに合わせて空港へむか予定があるが、それまでは時間があったので遠回りに散歩しながら駅へと向かった。
空港までは電車を予定していたが、駅についてから詳しく調べてみると、どうやら路線バスでは半額以下で行けるらしい。
なんとか調べることができたので、私鉄の路線バスで空港へ向かった。
1時間ほどバスに揺られる最中にいくつものバス停で様々な乗客を乗せた。
バスは中央に座席のないスペースがあり、スムーズにベビーカーを乗せる主婦がいたり、大型犬と一緒に乗り込む人もいた。
優しく自由なシステムであり日本よりも優しい気さえした。

ベルゲン空港からはストックホルムへ直行便が数少ないため、オスロ経由でストックホルムへ向かった。今回の旅行でも飛行機に乗るには3回目なのでそろそろ慣れてきた。
これまで特にトラブルもないが、早めに行って、早めにチェックインして、早めにゲート内で待つに限る。

空港からストックホルムへは直行バスでのアクセスが主流であるが、またもや半額以下の路線バスを見つけた。
乗車すると1時間ほどかけてストックホルム駅近くの停留所へ停まる。

ベルゲンやオスロが神戸のようなイメージであったのに対して、ストックホルムは仙台のようであった。
バックパッカーズホステルへ歩いて5分ほど、フロントで案内されて部屋へ向かった。
今日は8人のドミトリーで、ほとんどの人がチェックイン済み。

荷物を下ろす頃には21時を回っていたのですぐにシャワーへ。
するとそこへ女子!基本的には全て共同なので当たり前であるが、わたくし日本人は全く耐性がないのでとても構える。
タオル一枚で挨拶してくるほどの余裕を見せてくるこのグルーバル感。
さっとシャワー室に逃げ込む生粋の小心日本人魂でシャワーを浴びて部屋に戻ると完全に眠たくなっていたのですぐに寝た。
明日はストックホルムの街を散策。

2020年2月11日

第6話 「ヘルシンキと同期」

昨日は少し遅く寝たにも関わらず、しっかりと6時には目が覚めた。
今まで気にならなかったが、船がなかなかにうるさい。
船の中では基本的に携帯の電波は届かない。
共通スペースであれば、Wi-Fiもあるのだけど、なかなか不安定で時間帯によっては使いものにならなかった。
朝食はお馴染みのカフェスペースでチーズとハムのパンを選んでみた。
窓際の席に座りゆっくりパンを食べながら今日の予定を立てる。
夕方にロヴァニエミへ向かう列車に合わせて、それまでの間は市内観光。
といっても、ストックホルムと比べて見所が少なそうだ。

9時30分ごろまでカフェスペースで過ごして、10時30分の到着に合わせてチェックアウトの準備を済ませる。
アナウンスが出発予定の45分前に聞こえて、おそらく準備しておけというような内容であったと思う。

10時30分ぴったりに出ると、すでにチェックアウトは始まっていた。
出口でパスポートの確認があり、ヘルシンキへ上陸した。

港から駅は30分ほどであり遠くなかったので、またもや歩くことにした。
道中にマーケットプレイスとヘルシンキ大聖堂があるのでもちろん寄ってみる。
大聖堂は中に入ることができて、小学生くらいの子たちが課外授業で牧師さんの話を聞いていた。
街を歩いていると小学生集団と先生をよく見かけたので、課外授業などが多いのかもしれない。

海辺のマーケットプレイスは全然賑わっていなかった。
というのも、休日が栄えているらしく、何やら出店がある程度だった。

それから、ほど距離ある場所にある石の教会を訪れてみた。
入場料は3€、完全に観光向けっぽいが構わない。
石の教会はその名の通り、石を削って作られていたように、外観はもろに岩石、内観は岩石と建築デザインが調和しており、パイプオルガンの音色が優しく教会内を包み込むと穏やかな気持ちになった。
椅子に座るとすごく落ち着くので、しばらくゆったりしていた。
お昼も近づいていたのでカフェで昼食をとることにして、あてを探してみる。
徒歩3分圏内にスペシャリティコーヒーの店があったので迷わずそこに決めた。

サーモンのサンドウィッチとカプチーノを頼んだ。
外観も内観もおしゃれ、さらにコーヒー豆や道具の販売もしていた。
ハリオ製品が多くあり、日本製品が支持されている様子を見ると単純にも嬉しく感じた。

実は職場の結婚した同期が新婚旅行でヘルシンキに来ているとのことで、情報交換の連絡をしていたところ、都合が合うようで晩ご飯を一緒に過ごすことになった。
こんな遠くにまで来てわざわざ会うのはどうなのかという異論は認めない。
この上なく嬉しい。

夕方までまだ時間があったので、街を散策しながら夕食場所を探してみることに。
暇だったので夕食場所を探す係に立候補したが、パン以外のリクエストに答えるのは困難であった。
ショピングセンターへ入ってみたところ、無印良品があったので興味本位で立ち寄ってみると、ワンフロア独占しており、かなり充実している様子だった。
そして、日本人のグループが催しで音楽や民謡を披露していた。
無印良品の商品は表記こそ英語や現地の言語が記載されていたものの、日本と同じものばかりで驚きを隠せなかった。
なんといっても今着ている服が無印良品のノーカラーシャツで、まさに展示されていたので勝手に気まずくなってその場を立ち去った。

同期の友人のホテル到着に合わせて近くのカフェでエスプレッソを飲みながら待った。
エスプレッソなのにサードウェーブだったが、やはり世界的に流行っているのだろうか。
ざっくり言うとサードウェーブはコーヒーの味の話なのだが、焙煎を浅くしてかなり酸っぱいようなコーヒーを言う。
日本ではブルーボトルというカフェを中心に一昨年くらいから流行っているが、個人的にはサードウェーブは好みではない。
そうこうしているうちに、同期がホテルへ到着してチェックインを済ませてくるとのことであり、ホテルへ迎えに向かった。

ホテルの通りに出るとすぐに彼らを見つけることができて、まだ距離があるのに笑みが溢れた。
彼らは明日日本に帰るとのことでヘルシンキに戻り、一泊して空港へ向かうと言う。
大聖堂にだけ寄って行きたいとのことで、案内をした。
2人の旅の話を聞いた。
毎日曇っていてオーロラは見れなかったこと、記録的暖冬で寒くなかったこと、他のツアー客のおもしろかったこと、全然やることがなかったらこと、たくさんの話を聞いた。
それぞれ違う旅の形を共有。

大聖堂について写真をいくつか撮って後日渡すことにした。
彼ら、ではなく彼は、ふざけたキャラで愛されており、レンズを向けると新婚旅行とは思えないポーズや顔をする。
末長くお幸せに。

日が暮れ始めてたヘルシンキの街を一望しながら、3人はお腹を空かせて駅方面へ向かった。
飲食店を探し寺歩き回ったが程度のいいお店が見つからない。
散々探したあげくピザハットの座席に腰を掛けた。
店員さんが美人で盛り上がった。
ピッチャーで頼んだペプシコーラは、ホームパーティーの翌日に残されたペットボトルのコーラよりも炭酸がなかった。
頼んだトマトパスタの感想も控えておく。
お会計は貨幣の都合の関係でお願いしてしまったので、この仮はちゃんと形にして近いうちに返そうと思う。

ロヴァニエミ行きの寝台列車の時間まで30分、ヘルシンキ中央駅まで見送りをしてくれた。
さみしさがこみあげる。
彼らには何回か「帰りてえ」と笑って伝えた。 

寝台列車に乗るとほぼ時間通りに発車した。
この車両は貨物列車並みに長く、フィンランドの北南を結ぶ列車。
しばらくすると、地元のおじさんが同じ寝台の部屋に乗ってきた。
1人だと思ったのに残念。
すぐに眠ってくれたのでラッキーだと感じたのも束の間。
爆音いびきノイジー野郎、殺意で2020年最大のストレスを感じた。
どこでも寝れるタイプのに、2020年はじめて眠れなかった。

こうして、夜を過ごした。

2020年2月13日

第7話 「モイモイ号のオーロラツアー in ロヴァニエミ」

昨晩は最悪だった。
殺意が芽生えたことを改めて書くことになるが、睡眠時間を奪われたのは相当なストレス。世の夫婦で起こっている夫のいびきうるさい問題はかなり深刻であることがわかった。
もしも毎日このような状況に悩まされるとしたら、精神が崩壊してもおかしくない。
絶対に別の部屋で寝るようになること間違いなし。
世の中の夫のいびきに苦しむ奥様同情致します。
もちろん、その逆の状況もしかり。
とまあ、それほどには苦しんで気づいたら眠りに落ちて朝を迎えたのだが、既にいびきノイジー野郎はいなかった。
ちゃんと眠れていたのは、彼がいなくなったかららしい。

起きたのは遅めで7時過ぎだった。
ロヴァニエミへの到着予定は7:32、GoogleマップでGPSを見てみると、どうやら遅れているらしい。
ネットでVR(乗っている列車)の情報を調べてみると、時間通りの運行実績は57%らしい。
なるほど、そういうものかとゆっくりしてた。

7:32の本来到着時間過ぎににGPSをみると動いている様子がない…そんなはずはないと、飛び起きて外をみてみると「ロヴァニエミ駅」と書いてある。
やばい!と、すべての荷物をごっちゃごちゃにリュックへ積み込んで電車から飛び降りた。

駅は待合室があったので、荷物をまとめ直したりすることができたので助かった。
気温は-3℃、でも体感はそれほど寒くない感じがする。
天気予報をみると今日だけ夜の天気がよくなるらしく、温度も-11℃まで冷え込むとのこと。
北欧を広く回りたかったので、オーロラチャンスは今日のみ。
奇跡的に連日の悪天を避けられる可能性が高い。

とりあえず、街へと向かう。
今日と明日の旅程を全く考えておらず、なんとなくの行動イメージしかなかったので、カフェに入ることにした。
天気が悪いことが予想されていたので、オーロラ観光の予約などは特にしていなかった。
ロヴァニエミには日本のツムラという旅行代理店のオフィスがあるらしく、そこから現地のオプショナルツアーを申込むことができるらしく、そこを訪れることにした。
同時に昼間にサンタクロース村へ行くためのバスについても調べておいた。

まずは、オプショナルツアーの予約へ向かう。カフェからオフィスまでは目と鼻の先だったのですぐに到着した。
オフィスには日本人女性とフィンランド人女性が日本語で出迎えてくれた。モイモイ号という、日本のオーロラツアーがあるとのことでそれを申込んだ。
11月からずっと曇っているらしく、今日が久しぶりのチャンスであるというから期待を大きく持った。
明日最後のアクティビティとしてハスキー犬の犬ぞりも同時に申し込んだ。
フィンランド人女性は流暢に日本語を話しており、日本が好きであること、フィンランド人と考え方が似ていること(思いやりや礼儀)、北海道へ1年留学していたことを話してくれた。

オフィスを出るとそのままバス停へ向かった。バスは市バスとサンタエクスプレスの2種類あり、停留ポイントが違うのみで、価格は変わらなかった。
すぐにバスに乗ることができて、乗車時にカード決済となる。
10分程度でサンタクロース村へ到着した。
うすうす感じてはいたが、結構に日本人観光客がいるようだった。
サンタクロース村といっても結構すっきりとしており、所要時間は2時間程度。
一通りの建物に入ってみたが、分かってはいたが男一人で来る場所ではない。
お金を払うとサンタクロースに会って写真を撮れるのだが、もちろんそんなのは知らん。
あとは、クリスマスもしくは即日、指定の宛先にポストカードなどを送ることができるのだが送る宛もないので関係はない。

その頃お昼を迎えた頃でお腹が空いたのでGoogleマップでレストランを探してみる。
近くのホテルのランチビッフェがリーズナブルでおいしそうだったので、5分ほど歩いて向かった。
雰囲気もよく上品なホテルで完全に当たりだった。
ビュッフェのメニューこそ少ないものの、十分なメニューで味もおいしかったので満足。
ここでも時間を存分に使ってゆっくりした。

今宵のオーロラツアーは20:15に集合なので、それまでずいぶん時間があったが、ホステルへチェックインして待つことにした。
バスで戻ってホステルへ着くと若い女性が受付をしてくれた。
かなり丁寧に案内してくれたのだが、丁寧なほど英語の理解に苦しむ。
と思いきや、結構理解できた。
その女性は親日家であったらしく、ペットには柴犬を飼っているとのことで、たくさん写真を嬉しそうに見せてくれた。

同じ部屋の同時刻についたドイツの人も親日らしく出会いを喜んでくれた。
旅をしていると温かい人にたくさん出会う。

この時まだ15時くらい。
オーロラツアーの時間までの時間をホステル内で過ごした。
iPhoneやiPad、Macの「メモ」をよく使っていて、基本的にwebサイトや記事などでさえもすべてメモに入れている。
すでにメモの数が500を超えていて、定期的に整理をしないと大変なことになるので手をつけることにした。
メモを使う理由は、フォルダ分けができる、iCloudからどこでもアクセス可能、すべての端末でクラウド共有できる、Spotlightで単語レベルから検索をかけて探すことができる。
手書きメモ、ボイスメモ、画像メモなどなど、機能的で動作も軽やかなのでevernoteを手放した過去がある。

作業がひと段落したところで集合時間の15分前になっており、ホステルを出ることにした。
ちょうど玄関で日本人と出会った。
先ほど軽くあいさつだけしていた彼は、じぶんの友達と羽生結弦を足して割った感じの爽やかな青年だった。
同じオーロラツアーに参加するとのことで、一緒に向かうことにした。
彼は大学4年生、保育園を経営する法人への就職が決まっており、最後に1人旅しておこうとフィンランドに来たらしい。

集合場所につくと久しぶりにたくさんの日本人を見た。
みんなでオーロラ観測に向かう。
バスで揺られること30分ちょっと北へ、湖の辺りに休憩場所と観測スポットがある。

天気は快晴、同期の話によると11月から毎日曇りだったらしいので、こんなに幸運なことはない。
そして、到着したところ既にオーロラが出現していた。
目を凝らすと北にアーチ状のオーロラが、緑色というよりは雲に近いもやもやしたものであり、オーロラと認識するには難しい。
オーロラにはレベルがあり、太陽活動によってその強さは変わるので、すべて好条件な環境になるとオーロラ爆発(爆発はしない、素晴らしい様子)が起こる。
今宵のオーロラはレベル2/10、レベルこそ残念ではあるものの、少しでも見ることができてよかった。

持ってきていた一眼カメラで撮影すると、その姿形を鮮明に映し出した。
そしてなにより、星がめちゃめちゃにきれい。
オーロラより星に感動していた人も多いくらい。

大学の時には文系なのにも関わらず、「変光星を一眼で観測(ビジュアル的にではなく学問的に)する」研究をしていた。
星のほとんどは毎日明るさが変わり、その周期や変更の様子から物理的特徴を捉えることができるので、その星の性質や質量、距離や年齢を推定することに役立つ。
当時は岐阜や長野によく星を見に行った。
山に登っても星を見ることがあった。
その経験を踏まえても、トップレベルにきれいに見えてた気がする。

一眼の取り回しができずに困っていた家族を手伝うと、オーロラを写真に残せたことを感謝された。
やはり、写真はいいなと思う。
どんなに楽しかったことも、素晴らしかった景色も、時間が経つと記憶は弱まり思い出せなくなっていく。
それでも、写真を見返すと脳の記憶の引き出しから、写真以上の情報を蘇らせてくれる。
写真に写っていることはもちろん、その前後に起こったことやその他の街の様子まで確かに思い出せるようになる。
写真を撮るのは一眼カメラでも、コンデジでも、スマホでもなんでもいいと思う。
写真が人生や旅を豊かにするのは間違いない。

一緒にツアーに参加していた彼はカメラについてすごく興味を持ってくれた。
オーロラの写真も星の写真も喜んでくれた。

撮影を終えて、休憩小屋に向かうとホットベリージュースやクッキー、ソーセージをもらった。
気温は予報通りに-10℃以下になっていたので、体の芯まで冷え切っていたので、暖かい飲み物が体に染みた。

しばらく体を温めてから、オーロラと星を眺めにいく。
これを何度か繰り返す、それが楽しかった。

0:30集合場所に帰ってきて、オーロラ観測証的なやつをもらって解散。
ホステルへ帰る途中、シャボン玉を持ってきていた彼が吹いてみると、宙に舞ったシャボン玉にはその壁面に結晶が現れて少し凍った。
温度が若干足りなかったが、日本からはるばるシャボン玉を持ってきた彼を称えたい。

明日の朝9時に一緒に朝食を食べに出かける約束をして、それぞれの部屋に戻った。
もう寝る準備はしておいたから、すぐに寝れた。

2020年2月14日

第8話 「ロヴァニエミとお別れ」

目を覚ますと6時過ぎだった。
昨日はオーロラツアーから帰ってきたのが深夜1時前くらいだったので、今日は睡眠時間が少なかったが早い起床だった。
二度寝をするような気分ではなかったので、昨日の写真の整理でもすることにした。

ホステルにはだいたい共有スペースがあり、ソファなどもあるので快適に過ごせる。
早い時間帯に起きてくる人はいないようで、共有スペースには一人だった。
カメラのSDからiPadに写真を取り込み、Lightroomで開いてみると、オーロラの写真や星の写真はしっかりと写っていで安心した。
一緒に見た彼に写真をあげる約束をしているので、もはや自分だけの写真ではなかった。
写真を見るとやっぱり感動が蘇ってくる。
写真の加工がどうのこうのと叫ばれる世の中であるが、そんなことはどうでもよくて、じぶんの写真であれば記憶や思い出を蘇らせるトリガーに、誰かの写真であれば行動や感動が起きるトリガーであればいいと思う。

最近の写真現像ツールは有能で自動をポチッと押すとほぼほぼきれいに仕上がり(天体写真はむり)、あとは調整するだけなのでかなり時短になる。
1時間もかからずに全ての現像を終えても時間があったので、もう一度寝ることにした。

次に起きたのは念のためセットしておいたiPhoneのアラームが8時50分をお知らせしたところだった。
簡単に着替えてちょっとした荷物をまとめて部屋を出ると、すでに彼は準備を終えて待っていた。
外は寒いので行き先を決めてからホステルを出ることに。
しかし、この日は土曜日であり、土曜日や日曜日は飲食店をはじめとしたお店は開店がお遅い。
早い店で10時だった。
開店していそうな思い当たる店がったので向かってみるが、案の定まだ営業は始まっておらずに、時間を潰して過ごした。

10時になると飛び込むようにカフェへ入った。
昨日と同じカフェであったが、朝食も兼ねていたので、今回はカプチーノと一緒にサラミのベーグルも食べてみた。
彼はクロワッサンと果物のスムージー。

彼の4月から働くことになる就職先の話や決め手など話を聞いた。
保育園を経営する会社に就職をするという話は昨日にしたが、それに至った背景として、親が保育士であること、保育士の興味を持ったが低賃金を理由に親に反対されて断念したことを教えてくれた。
じぶんも中学生のころ、今後の進路を考える時に、当時保育士などに興味を持ったが親に反対された敬意があって、同じ境遇だったことを話した。
共通点が多かったことから意気投合したのだと思う。

食事を済ませて一息ついたところでホステルへ戻ることになった。
彼の一人旅は今回が初めてらしい、荷物についてたくさん質問された。
基本的にはキャリーバックは持たない。
ツアーなどのホテルを拠点とした移動、ツアーバスでの移動であれば問題が、移動が多くてその際に観光を兼ねる旅スタイルではキャリーバックは困難。
50リットル前後にバックパックが楽でおすすめであることを話した。
そんなこんなでいろんな話をしているうちにお昼近くになった。

彼は今日の夜もオーロラツアーを予約しているため夜まで暇であるらしいが、じぶんは犬ぞりツアーを予約していたため、そろそろ向かうと話すと見送りについてきてくれるとのこと。
10分程で集合場所に到着して本当のお別れとなり、お互い楽しかったことを伝えて手を振った。

ツアー会社では時間通りに案内が始まり、用意されている防寒具へ着替えを行った。
ものすごく厚手の防寒具に、極厚のブーツと手袋。
着替えると専用のバスに乗ってハスキーサファリへ向かう。
20分程で到着すると、ハスキーやコリーがものすごくたくさんいた。
聞き間違えでなければ、何百頭も飼っているらしい。

犬ぞりの操作方法や注意点についてデモンストレーションがあり、指示を受けて準備をした。
一人で参加したため、おそらくアメリカ人のモニカというおば様とペアになった。
「先に運転してね!」と多分言われて、人間の興奮を超えるように犬のテンションがぶち上がっていて、今すぐ発進してくれと言わんばかりにこちらの顔を見てジタバタしていた。
いざ、出発の合図をすると物凄い勢いで走り出した。
ひとつのソリに対して5,6等の犬で引っ張っていく。
ブレーキや停止、発進など、コントロールは自由自在。
よく訓練されている。

辺り一面白銀の世界に白樺の木々をすり抜けるように走っていく。
粉雪が舞い散る中、寒いことも忘れて爽快な走りを楽しんでいた。

ところが、物凄いことが起きている。
この犬たち、走りながらめちゃおしっこをするのだ。
一匹だけ止まることはできないので、うまく走りながらするのだ、しかもちゃんとサイドに。
そして、極つきにはうんこもするのだ、走りながらうんこだ。
先頭のやつがうんこを自身にはつかないようにするのだが、その後ろを走るお犬たちがそれをくらっていくのだ!
これは本当にすごい光景だった。
犬ぞりは決してきれいなものではなかった…
衝撃的すぎた…

犬ぞりを長いこと楽しんだあとは、恒例の休憩所で暖かいベリージュースを頂いた。
昨日食べて美味しかったジンジャークッキーもあり、お土産屋さんで買えるのか質問したところ、スーパーになら売ってることを教えてもらったので、帰りに買っていくことにした。

帰りにのバスに拾われて街へ到着、スーパーに寄って寝台列車が待つ駅へ向うところ、放浪していた彼を再度発見!
暇つぶしに、出かけるところだったという偶然。
彼がバスに乗るまで話こんで彼を見送ることにした。
今からサンタクロース村へ行くとのこと、もし帰ってきて時間があれば、またもや駅まで見送りにくるとのこと。
付き合いたてのかっぷるばりに見送り見送られて、またお別れした。

スーパーへ行くとジンジャークッキーを見るけることができたので、夜ご飯を同時に購入して駅へ向かった。
なんだかんだと時間が立って駅で待ちぼうけしているところ、かなり早めに電車がきたので荷物をじぶんの寝台へ積み込んだ。
そこへ彼から連絡があり向うとのこと。
時間もあったので駅で待っていると本当にやってきた。

東京でまたそのうち会おうと約束をして、最後に本当のお別れをした。
ちょうど寂しくなってきた頃合い、そろそろ日本に帰りたいなと思っていた矢先の出会いだったので、とても嬉しく楽しかった。
彼に感謝しつつ、寝台列車に揺られながら、明日のヘルシンキへと向かった。
そう、明日は最終日。

2020年2月15日

第9話 「北欧の旅 最終日のこと」

ヘルシンキの朝、予定通り6時27分、到着と共に目をやると予定通りの時間だった。
計画通りにうまくいかないこともあるのだろうと思っていたが、最終日までなんのトラブルもなく、予定通りにコトが運ばれていった。

今日は日本に帰る日。
最終日ヘルシンキ。

北欧の日曜日は遅い、大体のお店が午前中はやっていないか、開始が遅い。
早朝に駅に着いたが、お店などはやっていないので、駅で時間を潰すしかなかった。
小説もドラマも全て見てしまったので、カフェが開くまでの間、ひたすらぼーっとしたり、目をつむっていたりした。
最終日も雨だった。
雨が空から降っていると言うよりは、街全体が湿って濡れているような感覚。
満遍なく空気中から溢れているような。

10時に一番早く開くカフェを待って、オープンと同時にお邪魔することにした。
北欧の旅ではたくさんのカフェに立ち寄ったが、これで最後。
カプチーノを頼んだ。

お昼になる頃には、気づくとお店の中はお客さんでたくさんになっていた。
今日は空港に行く前に買い物にいきたいところがあった。
オープンはお昼、そのために時間を潰していたようなものであったので、そろそろお店を出る。

歩いて十分ほど、アウトドア専門店の前に到着した。
お目当てはフェールラーベンのリュック。
スウェーデンのメーカーであり、思い出としても記念になるし、カジュアル用にいいなと思っていた。

物価の高い北欧であったが、フェールラーベンのリュックは日本で購入するよりも安く買うことができたので満足。
さらに、免税手続きもしてもらったので、すごくお得に購入できた。

思い残すことはない。
17時15分のフライトにはまだ早いが、空港へ向かうために駅へと向かった。

北欧で電車に乗るのも慣れたものだ。
初日に驚いた改札のない列車の駅、あらかじめ空港までの切符を購入して、インフォメーションで空港行きの列車の時間を確認する。

1番線空港行き。
10分ほど待って、列車に乗り込んだ。
人は多くないので、ゆったりと座ることができた。
最終日はお土産もあったので、荷物が少し多かった。
40分くらいかけて、空港へと揺られながらいく。

車中にはいろんな人がいた。
空港へ向かう旅人、現地の大学生、休日の家族、日常と非日常が混ざっている中で、ふと思った。
じぶんにとってこの場所は非日常であるけど、気持ちはそこまで特別ではなかった。
もちろん、新鮮な気持ちや旅のワクワク感はあるけれど、これまでの旅を経験してきた中で、既視的な感覚もあるし旅そのものが日常の一部としての感覚があった。
それでも帰国したら次の日仕事であることを考えると、仕事に追われる日常に戻っていく感覚があって、つまり今が非日常であると認識させられる。
そうして結論的に思うのは、日常と非日常に大きな壁を作ることなく、日々の中で自由に日常と非日常を行ったり来たりできるように、軽い腰を持てると経験はどんどん豊かになっていくよなと思った。

空港に着くと帰る実感が湧く。
搭乗手続きにもう不安はなかった。
搭乗券を発行してから、免税手続きを済ませると、早々にゲートへ向かう。

ゲートには日本人がたくさんいた。
フィンエア、名古屋行き。
旅の終わり、ゆっくり写真を見て旅を振り返る。
途中で帰りたくもなったが、時間は過ぎてみるとあっという間。
ちょっと無茶な10日間の旅はもうしないかもしれない。
分からないけど。
でも、やっぱり思うのは、やらないで後悔するならやっておこうと思う。
実際になすことは大変だけど、終わってみると意外に大したことない感覚がある。
それは、慣れなのか、成長なのか、分からないけれど、大体のことはやってよかったと思う。

北欧の旅も行ってよかったと思う。

2020年2月16日

終わり

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