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「小児の急性肝炎、新型コロナウイルスのスーパー抗原が関与との仮説も」

TONOZUKAです。


小児の急性肝炎、新型コロナウイルスのスーパー抗原が関与との仮説も

以下引用

欧米などを中心に、原因不明の小児の急性肝炎の可能性例が多発し、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)やアデノウイルス感染との関係が指摘されている。日本でも、複数の可能性例が報告されている。なぜ、原因不明の小児の急性肝炎が起きるのか。現在までに示されている仮説について、2022年6月1日、小児の肝臓専門医であり、筑波大学名誉教授で茨城県立こども病院名誉院長の須磨崎亮氏に話を聞いたインタビューの後編です(前編はこちら:「小児の急性肝炎、欧米は異常事態、日本も同様か見極めが必要」、前編にはこれまでの経緯も紹介しています)。



──少なくとも欧米では異常な事態が起きている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との関連も指摘されているが、どう考えているか。

須磨崎 あくまで個人的な見解だが、欧米や日本以外のアジアで原因不明の小児の急性肝炎が増えている現象は、COVID-19と無関係とは考えにくい。その場合、直接的または間接的に影響している可能性が考えられる。

 直接的というのは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が原因となって、何らかの機序で、急性肝炎を引き起こしているという考え方だ。小児は様々な病原体に感染し、年中熱を出し、自然に免疫を獲得しながら成長していくのが普通である。間接的というのはCOVID-19の感染予防によってインフルエンザが流行しなくなるなど、感染状況が大きく変化したことによって免疫が敏感になり、何らかの引き金によって急性肝炎が引き起こされるという考え方だ。

 可能性例については最近、COVID-19の感染から2~6週間後に急性肝炎を発症したという報告が出ている。この発症時期からすると、仮にSARS-CoV-2が直接的に急性肝炎を引き起こすとしても、肺炎などを起こしやすい急性期ではなく、しばらく後の亜急性期に急性肝炎を起こすということだ。小児では、COVID-19に罹患後、亜急性期(急性肝炎と同じ頃)に川崎病と類似したCOVID-19関連多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)を発症することが報告されている。それと同じような時期に、急性肝炎を続発している可能性がある。

 現在、原因不明の小児の急性肝炎については、COVID-19やアデノウイルスへの感染を調べるため、SARS-CoV-2のPCR検査とアデノウイルスのPCR検査が実施されている。ただ、COVID-19感染後時間が経過していると、PCR検査では検出できない場合もある。家族を含め、SARS-CoV-2の感染歴やワクチン接種歴を確認した上で、PCR検査だけではなく、SARS-CoV-2の抗体検査を実施する必要があるだろう。

──欧米では異常事態が起きているとされるが、日本ではそこまで深刻な事態になっていないのはなぜか。

須磨崎 肝炎の原因が不明なので確実なことは分からないが、1つの可能性として、外国に比べて日本の小児ではSARS-CoV-2への感染頻度が圧倒的に低いため、という考え方はできるかもしれない。京都大学大学院医学研究科環境衛生学分野の西浦博教授らの研究グループもオミクロン株の流行状況と原因不明の小児肝炎の発生頻度が関連している可能性を報告している。さらに、欧米からは、COVID-19の患者が減少するに伴って、急性肝炎も減る傾向にあるかもしれない、という報告も出始めた。

──欧米では、アデノウイルス感染との関連も指摘されている。英国では、197例中170例に対してアデノウイルスの検査が実施され、116例(68%)でアデノウイルスが陽性となり、そのうち35例で遺伝子型を調べたところ、27例(77%)でアデノウイルス41型が検出された。

須磨崎 SARS-CoV-2は感染後、長期間にわたり腸管にウイルスが残存することが分かっている。英Imperial College Londonの研究グループ(小児免疫学)は、2022年5月13日、The Lancet Gastroenterology & Hepatology誌(オンライン版)で、急性肝炎を起こした小児について、SARS-CoV-2に感染後、腸管アデノウイルスであるアデノウイルス41型にさらに感染し、それが引き金になって肝炎を発症しているのではないかと指摘している。

 つまり、SARS-CoV-2のスパイク蛋白質由来のスーパー抗原活性によって、非特異的に免疫細胞(T細胞やB細胞)が活性化されているところに、さらにアデノウイルス41型の感染が上乗せされ、免疫の過剰な活性化が起きるという仮説だ。もしそうであれば、アデノウイルス以外の病原体であっても、スーパー抗原を介して過剰な免疫を引き起こす可能性があるし、そうであれば、引き金となるのはその時流行しているウイルスとなり、1種類の病原体だけではないのかもしれない。

 成人では、COVID-19は急性期と、慢性期の後遺症に分けられているが、小児ではその中間、亜急性期に急性肝炎やMIS-C/PIMSが起きるのかもしれない。新型コロナウイルスのスーパー抗原を介した免疫の活性化という仮説は、そうした現状にもよく合致している。

──スーパー抗原を介した免疫の活性化という仮説が正しいとして、なぜ肝炎なのか。アデノウイルスなどの病原体は肝臓に感染するのか。

須磨崎 免疫不全状態では、アデノウイルス によって肝炎が生じることが知られており、実際にウイルスの抗原が肝臓に検出されたという報告もある。1型、2型、5型、6型などC種のアデノウイルスが多いとされている。一方、英国の原因不明肝炎で多く検出されているアデノウイルスは41型(F種)で腸管に感染し、胃腸炎のウイルスとして知られている。腸管は肝臓への影響も大きいので、一部のウイルスは肝臓に行くのかもしれない。ただし、今回の原因不明の急性肝炎の症例については、肝臓からアデノウイルスの抗原は検出されなかったと報告されている。さらに、EBウイルスやサイトメガロウイルス(CMV)も肝臓に感染する。思春期や青年期にそれらのウイルスに初感染すると、発熱や咽頭扁桃炎、リンパ節腫脹、肝機能異常、肝脾腫などを来す伝染性単核症を起こす。

 肝細胞に感染・増殖するウイルスとしては、肝炎ウイルスが有名だ。一方、それ以外のウイルスは肝臓だけを標的にしているわけではない。前編で説明した通り、小児では、肝炎ウイルス以外のウイルスによって肝障害が引き起こされる例が多い。これらの肝炎では、B型肝炎やC型肝炎のように肝炎が慢性化したり、肝臓がんにつながったりするわけではない。このような肝炎がなぜ起きるかについては、これまであまり研究されてこなかった。今回、原因不明の急性肝炎についての研究が進展すれば、肝炎ウイルス以外のウイルスによって肝障害が生じるメカニズムが明らかになり、治療法が開発される可能性もあると期待している。このような広い視野で考えることも大切だと思う。

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