キム・ヒョン

シカゴ・ホワイトソックスのマイナーリーグでアスレチックトレーナーをしてます。2004年…

キム・ヒョン

シカゴ・ホワイトソックスのマイナーリーグでアスレチックトレーナーをしてます。2004年に渡米して大学&大学院を卒業。大学、高校、病院、リハビリクリニック勤務を経て今に至ります。スポーツ医療&科学に興味があり、自分の勉強のために論文の解釈などをメインに書いてます。

最近の記事

メジャーリーグおよびマイナーリーグの投手における尺骨側副靭帯再建手術の疫学

米国の野球界では有名なCamp氏らによるこの報告書は、プロ野球における尺骨側副靭帯(トミージョン靭帯)再建手術に関する疫学情報を提供することで、特にその手術の結果と選手としての活動”生存率”に焦点を当てています。 MLBの傷害管理システムを含む3つのリソースを組み合わせ、1974年から2016年までにトミージョン手術を受けたすべての投手を照合しました。そしてそれぞれのケースの負傷日、手術日、復帰率、欠場期間、および再手術の有無が含まれました。 手術を受ける直前のプレーレベ

    • 肩の腱板の部分断裂が肩の痛みと筋力に及ぼす影響の可能性について

      肩の腱板(ローテーターカフ)の断裂は野球選手において一般的な肩の怪我の一つです。いくつかの重度の部分断裂(腱の厚さの50%以上の断裂)では、保存的治療がうまくいかず、競技復帰を確実にするために外科的治療が選ばれることがあります。 また対照的に一部のローテーターカフの部分断裂は、投球動作中であっても肩の症状を引き起こさないことが多々あります。今回要約したmihata氏らによる論文ではローテーターカフの部分断裂が野球選手に肩の痛みや筋力の低下を引き起こすかどうかを評価しています

      • メジャーリーグ選手における負荷が及ぼす尺側側副靭帯の反応について

        コロナ禍に行われたZoomカンファレンスで、Chalmers氏が話しいていた論文を見つけたので、簡単に要約してみました。 この研究はMLB投手の尺側側副靭帯(UCL)がシーズンを通して投球を続けた後、更にはオフシーズン中の休養後にどのような反応をするかを調べることです。 これはMLBのサポートを受けた研究で、匿名のチームの全投手が対象となりました。靭帯の超音波検査は同じ超音波検査技師によって以下の時期に行われました。 シーズンの開始時(T1) シーズン終了時(T2) 次

        • 骨格的に成熟した野球選手における両側の上腕骨後捻角と野球開始年齢との関係

          今回はTakenaga氏らによる『骨格的に成熟した野球選手における両側の上腕骨後捻角と野球開始年齢との関係』について調べた論文を要約してみました。 一般的にまだ身体が成熟しきっていない幼少期に野球のピッチング動作を繰り返し行うと、上腕骨後捻角が増すと考えられています。過去の研究では野球選手の上腕骨後捻角の左右差は9歳〜11歳の間に生じると報告されています。この研究では骨格的に成熟した野球選手における両側の上腕骨後捻角と野球を始めた年齢との関係を調査しています。 研究方法と

        メジャーリーグおよびマイナーリーグの投手における尺骨側副靭帯再建手術の疫学

          マイナーリーグでのアスレチック・トレーナーの役割(番外編)

          僕がホワイトソックのマイナーリーグでアスレチック・トレーナー(ATC)になってから今年で7年目になります。現在の職に至るまで大学、高校、リハビリクリニック、病院、イベントトレーナー、パーソナルトレーナーなど、米国で一般的にATCが勤める環境はほぼ全て経験しました。結局はプロスポーツで仕事がしたいと思い今の職に就いたのですが、今回はマイナーリーグにおけるATCの役割に関して書いてみたいと思います。 一般的にATCと言えば、怪我の応急処置、リハビリ、予防など、現場にいない医師や

          マイナーリーグでのアスレチック・トレーナーの役割(番外編)

          プロ野球選手におけるシーズンを通じての上肢および股関節の可動域の変化について

          プロ野球選手にとって上肢および下肢の可動域(ROM)の減少は、一般的には怪我のリスク要因になります。ここで出てくるROMはRange of Motionの略です。今回はChan氏らによる論文の要約をしたいと思います。 この研究の目的はプロ野球選手のシーズン、およびキャリアを通じた上肢と下肢の可動域の変化を明らかにすることです。著者達はこの研究を行う上で、選手がシーズン&キャリアを通じて、肩の総合可動域(TROM=Total Range of Motion)、および股関節の内

          プロ野球選手におけるシーズンを通じての上肢および股関節の可動域の変化について

          「メジャーリーグおよびマイナーリーグの野球選手における有鈎骨鉤骨折」

          今回要約する論文は米国のMLB/MiLB(マイナーリーグ)の選手における有鈎骨鉤骨折の外科的処置と管理について調査したものです。主な項目として患者の人口統計、傷害のメカニズム、診断方法、手術手順、術後の合併症、および競技復帰までのタイムラインを分析しています。結果から言うと、折れた有鈎骨鉤の外科的切除は、合併症が少なく選手が比較的早く野球活動に復帰できる効果的な方法であることが判明しました。この論文の主要なポイントを簡単にまとめてみました。 研究デザインと対象集団: 20

          「メジャーリーグおよびマイナーリーグの野球選手における有鈎骨鉤骨折」

          『加圧トレーニング』がよる筋力UPと筋肉の断面積の変化について

          日本で1960年代に発案され、その後アメリカでも流行っている『加圧トレーニング』という単語を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。現在アメリカの理学療法界でもよく使われており、それは野球界でも同じです。 アメリカで加圧トレーニングはBFRと呼ばれ、これはBlood Flow Restriction Trainingの略称です。そもそも加圧トレーニングとは、腕と脚の付け根に専用のベルトで圧力をかけて、血流を制限して行う筋力トレーニングのことです。 血流を制限することで

          『加圧トレーニング』がよる筋力UPと筋肉の断面積の変化について

          小中学生野球選手における投球動作が及ぼす内側肘関節の間隙拡大の影響について

          今回はMatsuo氏らによって書かれた論文を要約してみました。 一般的に野球の投球動作は肘の外反ストレスを生じさせ、肘関節の内側の隙間が拡大する要因となります。小中学生の野球選手の身体は成人に比べ未熟ではありますが、野球のピッチングが成人の選手達と比べてどのような影響が出るか調べた研究は今までありませんでした。この研究では成人の選手と比較して小中学生の野球選手の”投球数”に基づく内側肘関節の間隙の違いを調査しました。 この研究ではサンプルとして健康な小中学生の野球選手11

          小中学生野球選手における投球動作が及ぼす内側肘関節の間隙拡大の影響について

          運動負荷のデータに基づく野球投手のためのインターバル投球プログラム

          今回は元ボストン・レッドソックスのヘッドトレーナーであり、現シカゴ・ホワイトソックスのシニアメディカルアドバイザーであるMike Reinold氏らによる野球投手のリハビリテーションと運動負荷の管理に基づいたインターバルスローイングプログラムについての研究論文「An Interval Throwing Program for Baseball Pitchers Based upon Workload Data」(運動負荷のデータに基づく野球投手のためのインターバル投球プログラ

          運動負荷のデータに基づく野球投手のためのインターバル投球プログラム

          スポーツメディスンチームの構成

          先週MLBに続きついにトリプルAのシーズンも開幕しました。 僕の所属するシャーロット・ナイツはセントルイス・カージナルス傘下のメンフィス・レッドバーズとアウェーでシーズン開幕を迎えました。米国でメンフィスといえばエルヴィス・プレスリーの聖地として観光都市としても有名ですが、球場近辺は夜になると治安面で結構ヤバい雰囲気が漂います。そのようなこともあって去年までは球場の真横のホテルに泊まっていましたが、今年からはビジターは20分ほど郊外に泊まることになりました。 前回のブログで

          スポーツメディスンチームの構成

          2024年スプリングトレーニング

          今年のMLBスプリングトレーニング(プロ野球でいう春季キャンプ)も残すところあと1週間を切りました。あまり話題にはなりませんが、メジャーのキャンプと2週間ほど間隔を開けて、マイナーリーグのキャンプも同じ場所で行われています。メジャーのキャンプは大谷選手や山本選手のおかげで日本でも少しずつ知名度があがってきているのではないでしょうか。 今回はMLBのスプリングトレーニングについて少し書いてみようと思います。 MLB全30球団はアメリカ国内でキャンプを行います。15球団はフロ

          2024年スプリングトレーニング

          筋骨格障害のマネージメントにおける多血小板血漿投与に関するアップデート

          近年MLBでも筋骨格障害の治療オプションとして定着してきたPRP(多血小板血漿)注射ですが、今回はO'Dowd氏によるPRP注射に関したシステマティックレビューを簡単にまとめてみました。 近年、筋骨格系軟組織損傷のマネージメントにおける多血小板血漿(PRP)の使用が一般的になってきました。PRPは損傷した組織に高濃度の自己血小板を注射することによって、身体の組織の治癒を促進するために使用されます。しかしながら腱障害の治療におけるPRPの使用には議論の余地があります。 一部の

          筋骨格障害のマネージメントにおける多血小板血漿投与に関するアップデート

          MRIで見るエクセサイズ後に起きるハムストリングの変化

          ハムストリングの肉離れが厄介な理由サッカー選手にとって一番多い怪我の一つはハムストリングの肉離れです。再発率も高いこともあって、選手だけでなくチームにも経済的打撃が大きいのがこの怪我の特徴です。なのでチーム組織としてはいかにこの怪我の予防、または再発防止のためのリハビリプロトコルを開発するかがチーム運営にとって重要な要素となります。 通常ハムストリングの怪我が起きやすいメカニズムは高速スプリント、そのための加速動作、またはハイキックやスプリットムーブなどの筋肉の伸長収縮が起

          MRIで見るエクセサイズ後に起きるハムストリングの変化

          メジャーリーグにおける肘の内側側副靱帯損傷の過去と現在

          今回はホワイトソックスのヘッドチームドクターでもあるDr. Verma氏らによるMLBにおける肘の内側側副靱帯損傷に関する統計をまとめた論文を紹介しようと思います。 野球と内側側副靱帯損傷の関係肘の内側側副靱帯(以後UCL)はオーバーヘッドスローを行うスポーツをする際に最も重要な役目を果たす組織です。なので普段生活する上でこの靭帯に過度な負荷はかかりませんが、野球の投球動作の際、肘の屈曲が高まるにつれてUCL前方束後部にかなりの負荷がかかります。 本来成人男性の投手が投げ

          メジャーリーグにおける肘の内側側副靱帯損傷の過去と現在

          MLB/MiLBで2011年~2016年に起きた怪我の頻度トップ50

          HITSデータを使った最新の統計本来MLBで使われていた怪我の記録システムは、怪我を詳細をトラッキングするものではなく、ロースターを管理するものとして作られたものでした。なので怪我の箇所やメカニズムなどは記録されても、正確な診断結果が記録されることはあまりありませんでした。さらにマイナーリーグでは選手の多さとチームあたりに所属するメディカルスタッフの少なさもあって更に雑になることも珍しくありませんでした。 2010年に導入されたHealth and Injury Track

          MLB/MiLBで2011年~2016年に起きた怪我の頻度トップ50