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MRIで見るエクセサイズ後に起きるハムストリングの変化

ハムストリングの肉離れが厄介な理由

サッカー選手にとって一番多い怪我の一つはハムストリングの肉離れです。再発率も高いこともあって、選手だけでなくチームにも経済的打撃が大きいのがこの怪我の特徴です。なのでチーム組織としてはいかにこの怪我の予防、または再発防止のためのリハビリプロトコルを開発するかがチーム運営にとって重要な要素となります。

通常ハムストリングの怪我が起きやすいメカニズムは高速スプリント、そのための加速動作、またはハイキックやスプリットムーブなどの筋肉の伸長収縮が起こる動きです。ハムストリングの中でも特に怪我をしやすいのが大腿二頭筋長頭の近位筋腱接合部で、これはハムストリングの肉離れ全体のうち60~85%にあたります。最近の研究で高い伸長収縮ストレスがこの怪我に大きく関わっていることが分かっています。なのでリハビリの際にもエキセントリックエクセサイズを中心としたメニューになることが一般的です。

研究の進行方法

参加者

今回の研究にはスペインリーグの2チーム(どちらもBチーム)から36人が選ばれました。公平性と期すためにどの選手達も週に8時間以内の練習と試合を1~2つというスケジュールをこなしています。さらに他の選択基準には以下のようになっています。

  1. Bチームで現役選手である

  2. 研究を行っている期間中の怪我がない

  3. Aチーム(1軍)と一緒に練習を行っていない

などです。

研究の進行

36人を1チーム9人=4つのグループに分けて、それぞれ違うエキセントリックエクセサイズを行わせました。エクセサイズを行う前後に下肢のfMRIを撮り、エクセサイズ後のハムストリングの代謝の変化を記録しています。主に注目した組織は大腿二頭筋長頭、大腿二頭筋短頭、半腱様筋、半膜様筋とハムストリンググループを構成する筋肉全部です。
テストの日に選手たちは指定のエクセサイズを行う30分前に安静状態で下肢のfMRIを撮り、15分間ウォームアップを行った後、各自エクセサイズを8レップス行いました。エクセサイズ後3~5分以内に再度下肢のfMRIを撮っています。

エクセサイズの紹介(1:30くらいから)

結果

結果は下のテーブルのようになりました。

Flywheel Leg Curl後は主に大腿二頭筋長頭&短頭、半腱様筋、さらに半膜様筋中部&遠位部で変化見られました。中でも大腿二頭筋短頭の近位部での変化が著しく起こっていました。

Nordic Hamstring Exerciseでは大腿二頭筋短頭と半腱様筋のほぼ全ての部位に変化が見られました。逆に半膜様筋と大腿二頭筋長頭(遠位部を除く)ではあまり変化がなかったようです。

Russian Belt Deadliftでは大腿二頭筋長頭、半腱様筋、半膜様筋のほぼ全ての部位で変化見られました。このエクセサイズは大腿二頭筋短頭に対しては近位部と遠位部に僅かな変化を与えるのみでした。

Hip Extension Kick Conic-Pulleyでは大腿二頭筋長頭と半腱様筋の近位部と中部に変化が見られましたが、大腿二頭筋短頭と半膜様筋には目立った変化はありませんでした。

考察

今回行われた4つのエクセサイズは一般的にハムストリングのトレーニングやリハビリで使われるものです。しかしながら各エクセサイズごとに活性化する筋肉の部位が違ったことが明らかになりました。これはハムストリングという筋肉グループが4つの筋肉から構成されていることと、4つの筋肉のうち3つが一つ以上の関節を跨いで(股関節と膝関節)可動域が広いことが大きな理由だと思われます。

大腿二頭筋長頭は膝の屈曲に関与しますが、股関節の動きには膝関節の動き以上に筋束の長さに敏感だということが分かりました。これはそれぞれの関節の可動範囲の違いに理由があると思われます。なのでFlywheel Leg CurlやNordic Hamstringのように膝が曲がってハムストリング上部が緩んだ状態で行うエクセサイズは大腿二頭筋短頭や半腱様筋にフォーカスしたい時に取り入れると良いでしょう。

逆に大腿二頭筋長頭にフォーカスしたいのであればRussian Belt DeadliftやHip Extension Kick Conic-Pulleyのようにハムストリング上部がある程度ストレッチされている状態で行うエクセサイズが向いています。サッカー選手が一番怪我しやすいハムストリングの部位は大腿二頭筋長頭ですので、ぜひとも取り入れたいエクセサイズの一つだと言えます。

将来的に

今回の研究ではfMRIのT2強調画像が使われましたが、これはエクセサイズ後の筋肉の水分量や筋肉自体の太さを測るものなのでエクセサイズ中の筋活動を計測できるものではありません。

仮にエクセサイズ中の筋活動を計測できたとしても、伸張反射を利用した運動をする際に身体が腱の弾力性を利用することで筋力をセーブしてしまいます。これはアスリートにとっては良い事なのですが、正確な筋力測定を行う上では克服したい壁です。

将来的にはこれらの部分を改善することによって更にクオリティの高い研究が行えると思います。

<参照文献URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27583444/


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