JW328 水は農業の基
【東方見聞編】エピソード11 水は農業の基
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
武渟川別(たけぬなかわわけ)(以下、カーケ)は、東海地方を旅していた。
付き従う者は、下記の通り。
息子の武川別(たけかわわけ)(以下、ジュニア)。
そして、大伴豊日(おおとも・のとよひ)。
それから、久米彦久米宇志(くめ・の・ひこくめうし)(以下、うし)である。
一行は、多弖(たて)を仲間に加え、東へと進むのであった。
豊日「して、ここは何処(どこ)っちゃ?」
カーケ「そ・・・それは・・・。」
うし「当然、尾張(おわり)の次は、三川(みかわ)でしょ! 徳川家康の出身地っすよ!」
カーケ「そうではないんだぜ。」
ジュニア「えっ? で・・・では、もう静岡県に入ってしまったのですか?」
カーケ「そ・・・そうではないんだぜ。」
多弖「なるほど・・・。神奈川県に入ったのですな?」
カーケ「そ・・・そうでもないんだぜ。」
豊日「どういうことっちゃが! 『おい』たちは、何処に来ちょるんや!?」
カーケ「甲斐国(かい・のくに)だぜ。」
うし「ちょっと待ってくださいよ! 甲斐国って、二千年後の山梨県っすよね?」
ジュニア「山梨県といえば、中部地方に分類される地域ではありませぬか?」
多弖「子細(しさい)を教えてはいただけませぬか?」
カーケ「東海地方を旅すると・・・作者から聞いていたんだぜ。でも、愛知県にも、静岡県にも、それがしが関わった伝承が無かったんだぜ。」
豊日「そ・・・そんげなこつが・・・。」
カーケ「彦坐王(ひこいます・のきみ)こと『イマス』や、父上には、戦いの場面も有るんだぜ。それに比べて、それがしは・・・。せっかく、大暴れ出来ると思っていたんだぜ・・・。それが、こんなことに・・・(´;ω;`)ウッ…。」
多弖「カ・・・カーケ様?」
ジュニア「父上! 何を悲しんでおられまする。伝承が無かったということは、愛知県も静岡県も、つつがなく平穏無事であったということではありませぬか! 喜びこそすれ、悲しむは、理(ことわり)に適(かな)っておりませぬ!」
カーケ「た・・・たしかに・・・。さすがは、それがしの息子なんだぜ。そう考えると、何か晴れ晴れとしたモノを感じるんだぜ!」
うし「た・・・単純なんすね。」
豊日「ところで、なして、甲斐国に来たんや?」
カーケ「甲斐国を巡視するためなんだぜ。」
多弖「愛知県や静岡県でも巡視をおこなっているはずでは?」
ジュニア「山梨県では、特別な何かが有ったということにござりまするか?」
カーケ「その通りなんだぜ。巡視の際、それがしは、清水の湧出(ゆうしゅつ)を見たんだぜ。そこで、こんな感じの賞賛(しょうさん)をしたんだぜ。」
ジュニア「お聞かせくださりませ。」
カーケ「これぞ、農業の基(もとい)! これぞ、民(おおみたから)の命(いのち)! これぞ、肇国(ちょうこく)の礎(いしずえ)!」
うし「え? 肇国って、なんすか?」
豊日「初めて、国を建てることやじ。」
うし「えっ? それって、御初代様こと神武天皇(じんむてんのう)がやっちゃってるじゃないっすか! どういうことっす?」
多弖「建国に匹敵(ひってき)するほど、大切なモノだと言いたかったのでしょうな。」
カーケ「その通りなんだぜ。」
ジュニア「して、父上・・・。賞賛されただけなのですか?」
カーケ「そんなことはないんだぜ。賞賛の後、自ら祭壇を設け、大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)と少彦名命(すくなひこな・のみこと)を祀(まつ)ったんだぜ。」
豊日「伝説のコンビっちゃが!」
多弖「されど、水の守りに、大国主様たちを祀るというのは、如何(いかが)なモノかと・・・。」
ジュニア「どういうことです?」
多弖「水分神(みくまりのかみ)など、水に関わる神がいるにも関わらず、なにゆえ、大国主様や少彦名様を祀ったのかと思いまして・・・。」
カーケ「これぞ、ロマンなんだぜ!」
多弖「ロ・・・ロマン?」
カーケ「とにかく、これを起源に、社(やしろ)が建ったんだぜ!」
うし「なんて言う神社っすか?」
カーケ「その名も、大滝神社(おおたきじんじゃ)なんだぜ!」
ジュニア「して、二千年後の何処(いずこ)に鎮座(ちんざ)したのでござりまするか?」
カーケ「山梨県の北杜市(ほくとし)は、小淵沢町上笹尾(こぶちさわちょう・かみささお)に建てられたんだぜ。」
するとそこに、甲斐の民たちがやって来た。
民(い)「ててっ(うわっ)! こんねん(こんなに)立派な社を建ててくれたんけ?」
民(ろ)「わりかし(思ったより)、いいじゃん!」
カーケ「当たり前なんだぜ。しっかり建てたんだぜ。」
民(は)「ちょいと待ちょお(ちょっと待って)!」
ジュニア「なんじゃ?」
民(は)「祭主は、誰がやるんら?」
多弖「祭主? 地元の者が、やれば良いではないか。」
民(に)「ほんだけんど(そうだけど)、ヤマトの方に祀って欲しいんさよぉ(ですよ)。」
カーケ「そんなことを言われても困るんだぜ。」
民(に)「ほんだけんど、いいら(いいでしょう)?」
唐突な民からの依頼。
いったいどうなるのであろうか。
次回につづく
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