JW303 海上逃走劇
【丹波平定編】エピソード10 海上逃走劇
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
彦坐王(ひこいます・のきみ)(以下、イマス)は、加佐(かさ)に赴いていた。
一方、陸耳御笠(くがみみのみかさ)(以下、みかさ)は、青葉山(あおばやま)に籠る。
イマスは、副将の尾張倭得玉彦(おわり・の・やまとえたまひこ)(以下、玉彦)と共に舟に乗り、海から青葉山を攻めるのであった。
イマス「敵は、我(われ)らが、陸(おか)から来ると思っているはずじゃ。裏は手薄であろう。」
玉彦「奴らの驚く顔が、目に浮かぶのう。」
そのとき、舟を提供した、サムとジェフが叫んだ。
サム「なっ!? なんや!? 岩が、突如として出現し、鳴動(めいどう)してるでぇ!」
ジェフ「それだけやない! 光り輝いてるでぇ!」
イマス「光り輝き、鳴り響く岩? 形は、我(われ)らの甲(かぶと)に似ておるな・・・。」
玉彦「そういうことで、この岩は『甲岩(かぶといわ)』と名付けられたんだに。」
ジェフ「それだけやないでぇ! この出来事から、この辺の地名は『鳴生(なりう)』と呼ばれるようになったんや。」
サム「二千年後の京都府舞鶴市(まいづるし)の成生(なりう、なりゅう)と言われてるでぇ!」
玉彦「出典(しゅってん)は『丹後国風土記逸文(たんご・のくに・ふどき・いつぶん)』だがや!」
イマス「して、甲岩は、どこに有るのじゃ?」
ジェフ「京都府と福井県の県境に位置する、正面崎(しょうめんざき)の先端に有るみたいやな。」
玉彦「でもよぉ。それだと、成生から、離れ過ぎとるんでないきゃ?」
サム「そないなこと言われても・・・。」
ジェフ「そう言われてるんや。しゃぁないやろ?」
イマス「それは、ともかくとして、このようなことが起きたのならば、敵に、勘付かれてしもうたのではないか?」
するとそこに「みかさ」や匹女(ひきめ)たちの率いる船団が現れた。
みかさ「その通りやっ! 逃げるでぇ!」
匹女「帰らせてもらうわっ!」
イマス「逃すなっ。追い討ちじゃ!」
追うヤマト勢。
逃げる「みかさ」勢。
我が国初の「海上の追いかけっこ」が始まった。
そのときである。
みかさ「なんや? いきなり雨雲が・・・。」
匹女「嫌な予感がする・・・。」
暴風雨発生である。
匹女「ちょっと! 『みかさ』はんっ! これは、どういうことよ!?」
みかさ「わてに聞くなっ!」
一方、ヤマト勢の船団は、海神に守られ、凪(なぎ)を行くが如(ごと)しであった。
玉彦「どうなっとるんだ?! こっちは海が凪いで、あっちは荒れ狂っとるで!」
サム「これはなぁ。二千年後で言う、バリアーっちゅうヤツが発生してるんや。」
ジェフ「とにかく、今が好機(こうき)やでぇ!」
イマス「よしっ。一気呵成(いっきかせい)に攻め立てよっ。」
匹女「ちょっと! ちょっと、ちょっと!」
こうして「みかさ」勢の船団は壊滅。
しかし、それでもなお、「みかさ」たちは逃走を図るのであった。
イマス「なかなか、しぶとい奴原(やつばら)じゃ!」
みかさ「当たり前や! 『国司文書(こくしもんじょ) 但馬故事記(たじまこじき)』では、あの暴風雨で壊滅したことになってるけどなぁ。丹後国風土記逸文では、まだまだ逃げんねんっ。」
玉彦「あっ! 皇子(みこ)!」
イマス「ん? 如何(いかが)致した?」
玉彦「皇子の剣(つるぎ)が、海水の所為(せい)で、錆(さ)びとるで!」
イマス「あっ! いつの間に?!」
サム「そないなこと言うてたら、鳰鳥(にほとり)が、並んで飛んで来たでぇ。」
ジェフ「鳰鳥っちゅうのは、カイツブリのことやでぇ!」
イマス「解説かたじけなし。されど、カイツブリは、あまり飛ばぬ鳥・・・。どういうことじゃ?」
玉彦「あっ! 皇子!」
イマス「分かっておるっ。鳥が、勝手に、我(わ)が剣に、刺さってしもうた。」
ジェフ「奇麗に並んで突き刺さって・・・。まるで、焼き鳥の串みたいやね・・・。」
イマス「して、刺さった鳥が、ズルズルと滑り落ち・・・。」
玉彦「剣の刃を見てみると・・・。」
サム「なんということや・・・。錆(さび)が奇麗に落ちるんです!」
ジェフ「なんやねんっ。通販番組かいなっ!」
みかさ「そういうことで、この地は、爾保崎(にほざき)と呼ばれるようになったんや!」
匹女「丹後国風土記逸文に書かれてるんやでぇ!」
イマス「待てぇい! 二千年後のどこになるのか、言うておらぬぞ!」
みかさ「しゃぁないなぁ。京都府舞鶴市下安久(まいづるし・しもあぐ)の匂崎(においざき)と言われてるでぇ。匂崎公園(においざきこうえん)が有るあたりや。」
匹女「その近くの二尾(にお)も、同じく、この伝承が由来となった地名なんやで!」
みかさ「そういうことで、わてらは、丹後国風土記逸文に従って、これより上陸するでぇ。」
イマス「あっ! 待てっ!」
みかさ「待てと言われて、待つヤツ・・・見たことないでぇ。」
そう言うと「みかさ」勢は、稲が生い茂る中に身を潜めたのであった。
イマス「我(われ)らも舟から降りるぞっ。」
玉彦「ほんで、徹底的に探(さが)すがや!」
ヤマト勢「御意!」×多数
サム「わてらも手伝うでぇ。」
ジェフ「なんやねん。『追いかけっこ』の次は『かくれんぼ』かいなぁ・・・(*´Д`*)。」
今、我が国初の「集団かくれんぼ」がおこなわれようとしている。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?