JW212 立太子、そして
【孝元天皇編】エピソード15 立太子、そして
第八代天皇、孝元天皇(こうげんてんのう)の御世。
紀元前193年、皇紀468年(孝元天皇22)1月14日。
ここは軽境原宮(かるの・さかいはら・のみや)。
この日、立太子(りったいし)がおこなわれた。
日嗣皇子(ひつぎのみこ)となったのは・・・。
ここで、孝元天皇こと、大日本根子彦国牽尊(おおやまとねこひこくにくる・のみこと)(以下、ニクル)が口を開いた。
ニクル「日嗣皇子を定めたぞ。もう分かっておるとは思うが、あえて申そう。稚日本根子彦大日日尊(わかやまとねこひこおおひひ・のみこと)じゃ。『ピッピ』と呼んでくれ。」
ピッピ「改めまして『ピッピ』にござる。身命を賭(と)して参る所存なれば、よろしく御指導、御鞭撻(ごべんたつ)のほど、御願い申し上げ奉(たてまつ)りまする。」
ニクル「うむ。よくぞ申した。」
ピッピ「ところで大王(おおきみ)・・・。ここで、はっきりとさせておきたいことが、ござりまする。」
ニクル「何じゃ?」
ピッピ「大王は、出雲(いずも)を如何(いかが)なされる御所存か?」
ニクル「唐突じゃのう・・・。それに『記紀(きき)』にも『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』にも、このような、やり取りは無いぞ?」
ピッピ「左様。されど、ここではっきりとさせておきたいのでござる。」
ニクル「待て、待て・・・。なにゆえじゃ?」
ピッピ「先代は、稲葉(いなば:現在の鳥取県東部)、隠伎(おき:現在の隠岐の島)、伯伎(ほうき:現在の鳥取県西部)を掌中(しょうちゅう)に収められもうした。」
ニクル「うむ。汝(いまし)が生まれる前のことじゃ。」
ピッピ「あれから二十数年・・・。大王は、全く版図を広げておられませぬ。これは、なにゆえにござりまするか?」
ニクル「ピッピ・・・。何が言いたい?」
ピッピ「率直に申し上げまする。我(われ)は、武(ぶ)を以(もっ)て、すみやかに出雲を討つべきであると考えておりまする。」
ニクル「なっ! 何を申すかっ! それはならぬっ!」
ピッピ「なにゆえにござりまするか!? もはや出雲は、陸(おか)に打ち上げられた魚も同然・・・。我(わ)が国の力をもってすれば、造作(ぞうさ)もないことでは?」
ニクル「ピッピ・・・。汝(いまし)は、御初代様の詔(みことのり)を読んでおろう?」
ピッピ「それは承知しておりまする。一つ屋根の下に住まう、家族のような国でありたいとの思(おぼ)し召(め)し・・・。まことに素晴らしきことかと・・・。」
ニクル「・・・であるならば、今、汝(いまし)が言うたことは、その想いに反することではないか?」
ピッピ「さりながら、御初代様の思し召しだけで、国を動かすこと、能(あた)うと?」
ニクル「ピッピ・・・。家族のような国・・・。如何(いか)にすれば良いか、考えていくことも大事ぞ。それを忘れては、人々は付いて来ぬ・・・。」
ピッピ「大王・・・。なにゆえ、そこまで、出雲の肩を持たれまするか?」
ニクル「ピッピよ・・・。出雲を版図に加えんと欲(ほっ)するならば、出雲は家族と考えよ。そう考えれば、武(ぶ)を用いることの愚かしさが分かるはずじゃ。」
ピッピ「出雲は家族? おかしなことを申されまするな。出雲は家族に非(あら)ず。我(わ)がヤマトに加わりし時、同じ家族となるのでは?」
ニクル「同じ家族と思えと、無理強いさせるのか? 汝(いまし)が出雲君(いずも・のきみ)ならば、それを受け入れられるか?」
ピッピ「あっ・・・。」
ニクル「国がまとまれば、豊かになることは存じておる。されどな・・・。我(わ)がヤマトは、版図を広げんとしておるのではない。家族を増やそうとしておるのじゃ。それを忘れてはならぬ。」
ピッピ「で・・・では、出雲が攻め来(きた)りなば、如何(いかが)なされまする?」
ニクル「そのときは受けて立とうぞ。家族を守るが、我(われ)らの務めゆえな・・・。」
ピッピ「家族を守らんがためと申されまするなら、先(さき)んじて討つことも、家族を守ることになるのではありませぬか?」
ニクル「ピッピよ・・・。出雲が強大で、我(わ)が国を脅(おびや)かすというのであれば、その道理も通じよう・・・。されど、今の出雲に、それほどの恐れ、有りや無きや?」
ピッピ「さ・・・さりながら、放っておけば、再び強大になるやもしれませぬぞ?」
ニクル「そうなったら、そうなったで、手を打てば良いことではないか?」
ピッピ「そ・・・それで良いのでしょうか・・・。」
ニクル「ピッピよ・・・。汝(いまし)の想いも分かる。されどな・・。出雲と戦(いくさ)をしてはならぬ。良きことなど、一つも無いのじゃ。」
ピッピ「・・・・・・。」
ニクル「ピッピ・・・。誓うてくれ。決して、出雲とは戦はせぬと、誓うてはくれぬか? この通りじゃ。」
ピッピ「大王・・・。父上・・・。なにゆえ、そこまで?」
ニクル「あの戦を知らぬ者からすれば、先代の成したことは、輝かしきモノであろう。偉大なことであろう・・・。」
ピッピ「そうではありませぬのか? 我(わ)がヤマトの誇りであると、思いまするが・・・。」
ニクル「されどな・・・。されど・・・。我(われ)にとって、あの戦は、父母の死に目にも会えず、兄(鶯王(うぐいすおう)のこと)を失うた、悲しき戦なのじゃ・・・。あのような想いを・・・汝(いまし)にはさせとうないのじゃ。」
ピッピ「お・・・大王・・・。」
ニクル「ピッピよ・・・。誓うてくれ。出雲とは戦はせぬと、誓うてくれ。神々に誓うてくれ。」
ピッピ「しょ・・・承知致しもうした。神々と大王に誓うて、出雲とは戦は致しませぬ。」
ニクル「そうか・・・。そう言うてくれるか・・・。これで我(われ)も、一安心じゃ・・・。」
ピッピ「決して、破ることなどありませぬゆえ、御心配くださりますな・・・。」
こうして、ピッピは日嗣皇子となった。
出雲を巡る政策は、今後、どうなってゆくのか・・・。
次回につづく
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