国語教師が中学生に薦めた本10選、後編。
前回の記事に予想以上の反響をいただいた。
RW/WWを2月から予定しているので、それまでに生徒が興味をもちそうな本をできるだけ図書室に入れておきたい。
さて、今回も冬休みにぴったりの10冊を紹介する。
中学生諸君、読書はいいぞ!
『子どもの頃から哲学者』
私の敬愛する、もはや説明不要の教育哲学者、苫野一徳先生の自伝的著作。
今の印象とはかけ離れた、衝撃的な経験の数々!(笑)
だれも僕のことなんてわかるもんか(わかられてたまるか)。友だちがいない。便所飯のパイオニア。全校生徒からバッシング。教祖様になってお布施生活。「今から死ぬわ」(ああ、できない(涙))……などなど。
「哲学って、難しそう」という人は多いと思う。
でも、こんな問いに興味を引かれることはないだろうか?
答えの出なさそうな問いに、答えを出す仕事。それが哲学者。
その入門としても最適で、読み物としても単純に面白く読める。
『グラスホッパー』
この作品は、とにかく登場人物が魅力的。
「鯨」の不気味さ、得体の知れなさ。
「蝉」のナイフ捌きも、文章でありながら文句なしにかっこいい。
そして、「押し屋」の意外な正体……。
主人公の鈴木も、何気ない会話の中の台詞が光る。
映画化もされていて(「蝉」役は山田涼介!)、続編として『マリアビートル』『AX』がある。
そう言いつつ、私は『グラスホッパー』しか読んでいないので、悪しからず。
『博士の愛した数式』
本をよく知らない人でも、このタイトルは聞いたことがあるのではないだろうか。
博士は変な人だけど、数学者としてのかっこよさも備えた魅力的なキャラクター。
私は「数学」と聞くと、拒否反応を起こすくらい苦手な教科である。
学生だった当時は、分からないから嫌いになっていたのだと思う。
しかし、この作品に出会ってからは、少し数学の美しさや魅力が分かった気がする。
数学の得意な人はもちろん、私のように不得意な人も。
苦手だと思っていたものの中に、新しい発見があるかもしれない。
『西の魔女が死んだ』
主人公のまいは、魔女(おばあちゃん)から様々なことを教わる。
例えば「死んだら人はどうなるか」とまいが問うと、おばあちゃんは「身体に縛りつけられていた魂が、ようやく体から離れて自由になれる」と答えた。
魂は、またそこから旅を始める。
身体と魂が一体になっている、つまり生きているとき、魂はよりよい成長を求めている。
よりよい成長のために「私は今、どうしたいか」をすべて自分で決めるよう、おばあちゃんはまいに伝える。
これを読んでいる人は、ちょっと訝るかもしれない。
魂なんて、胡散くさい……。
でも、自分の魂が喜んでいるかどうか、たまに確かめる時間がある人は、豊かで楽しい人生を送れている気がする。
こういう非科学的な、合理的でないものに従ってみることが、実は人生を面白くすることもある。
いつもは通らない道だけど、今日は行ってみたい気分だから……。
まずはそのくらいの気持ちで、自分の魂が呼ぶ方に行ってみてほしい。
この本を読んで、あなたも魔女修行に励んでみては。
忘れかけていた、あなたが本当に望んでいることが思い出せるかも。
この本が好きなら、『アルケミスト』も強くお薦めする。
『そして、バトンは渡された』
担任の先生は、たびたび優子を気にかけている。
なぜかというと、彼女の名字は3回も変わっているからだ。
つまり、家庭に複雑な事情がある……。そう思うのが普通である。
しかし、優子は幸せだった。
知らず知らずのうちに、相手を決めつけてしまうことがある。
それらが行き過ぎると、差別になってしまう。
外見や言葉遣い、出身や国籍。
優子はごく普通に、生活や恋愛を楽しんでいる。優子のそうした姿を見ていくうちに、他人を勝手に決めつける自分が、恥ずかしくなってくる。
2019年の本屋大賞を受賞し、なんと映画化もしている話題作。
瀬尾まいこ作品は安心して読める。どんな人にもおすすめ。
『ドアD』
少し趣の違う作品も。
私が中学生のときに熱心に読んだのを覚えている。
まさか、一回り年下の中学生に薦める日が来ようとは……。
山田悠介さんの本は、中高生がよく読んでいるイメージ。
ジャンルで言うと、ホラー、サスペンス、スリラーに分類される。
読書好きからすると、ちょっとストーリーや内容がベタに映るかもしれない。だからこそ中学生に薦められるんだけど。
「次どうなるの⁉」というエンタメとしての読書としてはよいと思う。
あまり本を読まない男子におすすめ(怖いものが平気なら女子も)。
部屋の仕掛けやヒール(悪役)がいい味を出している作品。
ラストのオチは賛否両論。あなたはどう評価する?
『人間失格』
『走れメロス』を教科書で読む中学生も多いはず。
太宰つながりということで、たまには純文学も紹介したい。
太宰治の自伝的小説といわれる本作。
天才作家として有名な太宰であるが、私生活は相当に荒んでいた。
恋人と心中(あの世で一緒になろうとする)しようとして、自分だけ生き残ったり、薬物に金をつぎ込み、編集者に泣きついて借金を頼んだり。
『人間失格』を書いたのち、太宰は愛人の山崎富栄と玉川上水で入水。
38歳という若さでこの世を去る。
それなのに、遺書には「誰よりも妻を愛している」との記述があったらしい(最後までダメ男……)。
『人間失格』は、太宰が薬物依存を経て精神病院に入ったときに書いたもの。これを読むと、太宰が何に苦しんだのかが見えてくる。
それは、「こんなに生きづらい世の中なのに、どうしてみんなは普通でいられるんだ?僕は気が狂ってしまいそうなのに……」という孤独。
太宰ほどに落ちぶれることはないにしても、誰しも一度はそんな孤独を感じたことがあるのではないだろうか。
太宰は間違いなく、言い方を考えずに言えば社会不適合者(マイノリティ)これが、『人間失格』が太宰治の代表作として、現代まで傑作と語り継がれている理由かもしれない。
余談だけど、若い世代にも名作文学を読んでもらいたいと、こんなカバーまで出版社は用意している。
大人になるまでに読んでおきたい名作文学、読んでみては?
『告白』
授業でも紹介した作品。
本でも面白いけど、映画も負けず劣らずの面白さ(なんだったら、映画の方が面白いかも……笑)。
また余談だけど、中学3年生のとき、友達と一緒に映画版「告白」を観に行った。「映画を観に行こう」という約束ではなかったので、友達は「えー、そんなの観たくないんだけど……」と渋り顔。
それでも、私が「ぜったい観たいから観よう!」と、半ば強引に連れていく格好に。
映画が終わり、「強引に連れてきて申し訳なかったな……」と思いつつ、「面白かったねー」と友達に話しかけると、号泣している彼の姿が……。
「……感動した……」と、つぶやいていたのを今でも覚えている。
『蜜蜂と遠雷』
職業柄、年に一度は生徒の合唱を聴く。
その度に改めて「音楽っていいな」と感じる。
どんなに馬が合わない人どうしでも、同じ曲を歌うとなぜか連帯感が生まれる。
まあ、毎年の定例行事として合唱を仕組む教育的意義は、問い直さなくてはならないと思うけど。
いいと思っているのは一部の人間だけ、なんてこともあり得る。
さて、この本では様々な天才ピアニストたちがコンクールで競い合う。
挫折をきっかけにピアノから遠のいていた少女。
プロのピアニストになることを一度は諦めたものの、再び挑戦することを決意した青年。
中でも個人的に好きなのは、聴くものを揺さぶる演奏で、評価が真っ二つに分かれる風間塵というキャラクター(昨年のM-1で言うと、ランジャタイみたいな感じ?)。
目に見えないものを言葉にするのは、とても難しいことだと思う。
しかし、曲を知らなくても、実際に聞き入っているような錯覚に陥る筆致はさすが。
『本心』
作者は京都大学法学部卒で、1999年の在学中に『日蝕』で第120回芥川賞を受賞し、40万部のベストセラーとなった。
小説家になるべくしてなったような人だと思う。
テクノロジーは驚異的な発展を遂げている。舞台は、インターネット上の仮想空間。バーチャル空間に、ほとんど人間と区別のつかないVF(バーチャル・フィギュア)がつくれるようになり、主人公は亡くなった母を作製する。
この本で常に投げかけられている、「自由に死ぬ権利」を認めるべきか、という問い。この本を基軸に、道徳で「自由死を認めるべきか」という問いで話し合ってみたい、とも考えている。
個人的な話だけど、「面白かった本ランキング2021」をつくるとしたら、『本心』が第1位。
年始、時間があるときにこそ
以上、10冊。
前回に比べて、メジャーな作品が多くなった気がする。
もっと早く投稿しようと思っていたのだけど、もう2022年になってしまった……。
今年も定期的に書いていきたいと思うので、お時間のあるときに読んでいただければと思う。
まずは2月からのRW/WWの準備を頑張ろう。
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