見出し画像

国語教師が中学生に薦めた本10選、後編。

前回の記事に予想以上の反響をいただいた。

RW/WWを2月から予定しているので、それまでに生徒が興味をもちそうな本をできるだけ図書室に入れておきたい。

さて、今回も冬休みにぴったりの10冊を紹介する。
中学生諸君、読書はいいぞ!

『子どもの頃から哲学者』

歴代哲学者もとんでもない“中二病"だった――。めんどくさ過ぎる「絶望の達人(著者)」が哲学と出会い、哲学を使って鮮やかに「絶望からの脱出」を果たした再生の物語であり、超速・哲学入門書である。

大和書房公式サイトより

私の敬愛する、もはや説明不要の教育哲学者、苫野一徳先生の自伝的著作。
今の印象とはかけ離れた、衝撃的な経験の数々!(笑)

だれも僕のことなんてわかるもんか(わかられてたまるか)。友だちがいない。便所飯のパイオニア。全校生徒からバッシング。教祖様になってお布施生活。「今から死ぬわ」(ああ、できない(涙))……などなど。

「哲学って、難しそう」という人は多いと思う。
でも、こんな問いに興味を引かれることはないだろうか?

「虫は殺していいのに、猫は殺してはいけないのはなぜ?」
「人は死んだらどうなるのか?」
「死刑制度は廃止すべき?」

答えの出なさそうな問いに、答えを出す仕事。それが哲学者。
その入門としても最適で、読み物としても単純に面白く読める。

『グラスホッパー』

「復讐を横取りされた。嘘?」元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。相手と目を合わせることで、罪悪感を呼び覚ます能力をもつ男・。ナイフ使いの若者・。二人も「押し屋」を追い始める。
それぞれの思惑のもとに「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説!

KADOKAWA公式サイトより

この作品は、とにかく登場人物が魅力的。
「鯨」の不気味さ、得体の知れなさ。
「蝉」のナイフ捌きも、文章でありながら文句なしにかっこいい。
そして、「押し屋」の意外な正体……。
主人公の鈴木も、何気ない会話の中の台詞が光る。

映画化もされていて(「蝉」役は山田涼介!)、続編として『マリアビートル』『AX』がある。
そう言いつつ、私は『グラスホッパー』しか読んでいないので、悪しからず。

『博士の愛した数式』

[ぼくの記憶は80分しかもたない]博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた――記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。

新潮社公式サイトより

本をよく知らない人でも、このタイトルは聞いたことがあるのではないだろうか。
博士は変な人だけど、数学者としてのかっこよさも備えた魅力的なキャラクター。

私は「数学」と聞くと、拒否反応を起こすくらい苦手な教科である。
学生だった当時は、分からないから嫌いになっていたのだと思う。
しかし、この作品に出会ってからは、少し数学の美しさや魅力が分かった気がする。

数学の得意な人はもちろん、私のように不得意な人も。
苦手だと思っていたものの中に、新しい発見があるかもしれない。

『西の魔女が死んだ』

中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過ごした。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも……。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。

新潮社公式サイトより

主人公のまいは、魔女(おばあちゃん)から様々なことを教わる。
例えば「死んだら人はどうなるか」とまいが問うと、おばあちゃんは「身体に縛りつけられていたが、ようやく体から離れて自由になれる」と答えた。
魂は、またそこから旅を始める。

身体と魂が一体になっている、つまり生きているとき、魂はよりよい成長を求めている。
よりよい成長のために「私は今、どうしたいか」をすべて自分で決めるよう、おばあちゃんはまいに伝える。

これを読んでいる人は、ちょっと訝るかもしれない。
魂なんて、胡散くさい……。
でも、自分の魂が喜んでいるかどうか、たまに確かめる時間がある人は、豊かで楽しい人生を送れている気がする。

こういう非科学的な、合理的でないものに従ってみることが、実は人生を面白くすることもある。
いつもは通らない道だけど、今日は行ってみたい気分だから……。
まずはそのくらいの気持ちで、自分の魂が呼ぶ方に行ってみてほしい。

この本を読んで、あなたも魔女修行に励んでみては。
忘れかけていた、あなたが本当に望んでいることが思い出せるかも。

この本が好きなら、『アルケミスト』も強くお薦めする。

『そして、バトンは渡された』

高校二年生の森宮優子。生まれた時は水戸優子だった。その後、田中優子となり、泉ヶ原優子を経て、現在は森宮を名乗っている。名付けた人物は近くにいないから、どういう思いでつけられた名前かはわからない。継父継母がころころ変わるが、血の繋がっていない人ばかり。「バトン」のようにして様々な両親の元を渡り歩いた優子だが、親との関係に悩むこともグレることもなく、どこでも幸せだった。

文藝春秋公式サイトより

担任の先生は、たびたび優子を気にかけている。
なぜかというと、彼女の名字は3回も変わっているからだ。
つまり、家庭に複雑な事情がある……。そう思うのが普通である。
しかし、優子は幸せだった。

知らず知らずのうちに、相手を決めつけてしまうことがある。
それらが行き過ぎると、差別になってしまう。
外見や言葉遣い、出身や国籍。

優子はごく普通に、生活や恋愛を楽しんでいる。優子のそうした姿を見ていくうちに、他人を勝手に決めつける自分が、恥ずかしくなってくる。

2019年の本屋大賞を受賞し、なんと映画化もしている話題作。
瀬尾まいこ作品は安心して読める。どんな人にもおすすめ。

『ドアD』

優奈は、大学のテニスサークルの仲間7人とともに、見知らぬ部屋に拉致された。一つだけあるドアは施錠されている。突然、壁穴から水が噴き出した。瞬く間に水位は喉元まで…。助かるには、一人が部屋に残り、ドアの開錠のスイッチを押し続けるしかない。人間の本性を剥き出しにした、壮絶なゲームが始まった。

幻冬舎公式サイトより

少し趣の違う作品も。
私が中学生のときに熱心に読んだのを覚えている。
まさか、一回り年下の中学生に薦める日が来ようとは……。

山田悠介さんの本は、中高生がよく読んでいるイメージ。
ジャンルで言うと、ホラー、サスペンス、スリラーに分類される。

読書好きからすると、ちょっとストーリーや内容がベタに映るかもしれない。だからこそ中学生に薦められるんだけど。
「次どうなるの⁉」というエンタメとしての読書としてはよいと思う。
あまり本を読まない男子におすすめ(怖いものが平気なら女子も)。

部屋の仕掛けやヒール(悪役)がいい味を出している作品。
ラストのオチは賛否両論。あなたはどう評価する?

『人間失格』

「恥の多い生涯を送って来ました」。そんな身もふたもない告白から男の手記は始まる。男は自分を偽り、ひとを欺き、取り返しようのない過ちを犯し、「失格」の判定を自らにくだす。でも、男が不在になると、彼を懐かしんで、ある女性は語るのだ。「とても素直で、よく気がきいて(中略)神様みたいないい子でした」と。ひとがひととして、ひとと生きる意味を問う、太宰治、捨て身の問題作。

新潮社公式サイトより

『走れメロス』を教科書で読む中学生も多いはず。
太宰つながりということで、たまには純文学も紹介したい。

太宰治の自伝的小説といわれる本作。
天才作家として有名な太宰であるが、私生活は相当に荒んでいた。

恋人と心中(あの世で一緒になろうとする)しようとして、自分だけ生き残ったり、薬物に金をつぎ込み、編集者に泣きついて借金を頼んだり。
『人間失格』を書いたのち、太宰は愛人の山崎富栄と玉川上水で入水。
38歳という若さでこの世を去る。
それなのに、遺書には「誰よりも妻を愛している」との記述があったらしい(最後までダメ男……)。

『人間失格』は、太宰が薬物依存を経て精神病院に入ったときに書いたもの。これを読むと、太宰が何に苦しんだのかが見えてくる。
それは、「こんなに生きづらい世の中なのに、どうしてみんなは普通でいられるんだ?僕は気が狂ってしまいそうなのに……」という孤独

太宰ほどに落ちぶれることはないにしても、誰しも一度はそんな孤独を感じたことがあるのではないだろうか。
太宰は間違いなく、言い方を考えずに言えば社会不適合者(マイノリティ)これが、『人間失格』が太宰治の代表作として、現代まで傑作と語り継がれている理由かもしれない。

余談だけど、若い世代にも名作文学を読んでもらいたいと、こんなカバーまで出版社は用意している。

大人になるまでに読んでおきたい名作文学、読んでみては?

『告白』

愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。第29回小説推理新人賞受賞。

新潮社公式サイトより

授業でも紹介した作品。
本でも面白いけど、映画も負けず劣らずの面白さ(なんだったら、映画の方が面白いかも……笑)。

また余談だけど、中学3年生のとき、友達と一緒に映画版「告白」を観に行った。「映画を観に行こう」という約束ではなかったので、友達は「えー、そんなの観たくないんだけど……」と渋り顔。
それでも、私が「ぜったい観たいから観よう!」と、半ば強引に連れていく格好に。

映画が終わり、「強引に連れてきて申し訳なかったな……」と思いつつ、「面白かったねー」と友達に話しかけると、号泣している彼の姿が……。
「……感動した……」と、つぶやいていたのを今でも覚えている。

『蜜蜂と遠雷』

3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。「ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」ジンクスがあり近年、覇者である新たな才能の出現は音楽界の事件となっていた。
ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、そして音楽を描き切った青春群像小説。著者渾身、文句なしの最高傑作!

新潮社公式サイトより

職業柄、年に一度は生徒の合唱を聴く。
その度に改めて「音楽っていいな」と感じる。
どんなに馬が合わない人どうしでも、同じ曲を歌うとなぜか連帯感が生まれる。

まあ、毎年の定例行事として合唱を仕組む教育的意義は、問い直さなくてはならないと思うけど。
いいと思っているのは一部の人間だけ、なんてこともあり得る。

さて、この本では様々な天才ピアニストたちがコンクールで競い合う。
挫折をきっかけにピアノから遠のいていた少女。
プロのピアニストになることを一度は諦めたものの、再び挑戦することを決意した青年。
中でも個人的に好きなのは、聴くものを揺さぶる演奏で、評価が真っ二つに分かれる風間塵というキャラクター(昨年のM-1で言うと、ランジャタイみたいな感じ?)。

目に見えないものを言葉にするのは、とても難しいことだと思う。
しかし、曲を知らなくても、実際に聞き入っているような錯覚に陥る筆致はさすが。

『本心』

舞台は、「自由死」が合法化された近未来の日本。最新技術を使い、生前そっくりの母を再生させた息子は、「自由死」を望んだ母の、<本心>を探ろうとする。母の友人だった女性、かつて交際関係のあった老作家…。それらの人たちから語られる、まったく知らなかった母のもう一つの顔。さらには、母が自分に隠していた衝撃の事実を知る。

『本心』特設サイトより

作者は京都大学法学部卒で、1999年の在学中に『日蝕』で第120回芥川賞を受賞し、40万部のベストセラーとなった。
小説家になるべくしてなったような人だと思う。

テクノロジーは驚異的な発展を遂げている。舞台は、インターネット上の仮想空間。バーチャル空間に、ほとんど人間と区別のつかないVF(バーチャル・フィギュア)がつくれるようになり、主人公は亡くなった母を作製する。

この本で常に投げかけられている、「自由に死ぬ権利」を認めるべきか、という問い。この本を基軸に、道徳で「自由死を認めるべきか」という問いで話し合ってみたい、とも考えている。

個人的な話だけど、「面白かった本ランキング2021」をつくるとしたら、『本心』が第1位。

年始、時間があるときにこそ

以上、10冊。
前回に比べて、メジャーな作品が多くなった気がする。

もっと早く投稿しようと思っていたのだけど、もう2022年になってしまった……。
今年も定期的に書いていきたいと思うので、お時間のあるときに読んでいただければと思う。

まずは2月からのRW/WWの準備を頑張ろう。

この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?