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国連科学委員会2020/2021報告と被曝リスクなど
いろいろあって、東電原発事故に伴う被曝影響(発癌リスク)について書かなくちゃならないなと考えました。この問題は科学的には既に決着していますから、今さらのかたも多いと思います。でも、意外に知られておらず、それが風評や無用な不安を生んでいるようにも感じます。
国連科学委員会(UNSCEAR)は2013年に報告書( https://www.unscear.org/unscear/en/publicat
統計力学のとにかくこれだけは分かって
統計力学で「微視的状態とは何か」で引っかかっている人がいるように思います。この文章はそういう人のために書きます。分かってる人には役に立ちません。まず原理の話をして、次に「これだけは計算できるようになってくれ」という話をします。
混乱の原因は「$${N}$$粒子系の微視的状態」と「1粒子の微視的状態」の区別がきちんとついていないことですが、最初のうちは例題が「解ける問題」ばかりなので、そうなりがち
統計力学の計算で初学者が嫌になるところ(3)
これまで(1)(2)と書いてきたけど、まだしっくりこない人がいると思う。そこで、さらに遡って、試しに二準位系の状態密度をものすごく厳密に計算してみよう。これで疑問は解けるのではないだろうか。
エネルギーが$${[E,E+\Delta E]}$$の範囲にある微視的状態数を数えるために、まずエネルギーが厳密に$${E=M\epsilon}$$($${M}$$は整数)である時の微視的状態の数(縮退度)
統計力学の計算で初学者が嫌になるところ(2)
前回の最後にちょっとだけ、ミクロカノニカル・アンサンブルの$${\Delta E}$$について書いた。講義ノートでも詳しく議論しているし、あれでいいかなとは思うんだけど、もうちょっとだけ議論しておこう。
そもそもエネルギー幅$${\Delta E}$$なんかなんのためにつけるのか、どうせ最後は捨てちゃうんだからいらないじゃん、というところから考えよう。ありていに言えば、なくても全然困らないんだけ
新型コロナ禍で作られた大量のコンテンツはどうなるのか
新型コロナ禍は様々な業界に大きな影響を与え、政府の無策と相俟ってその傷は深まるばかりだと思いますが(新型コロナ禍は災害であって個々人の責任ではないので、国が徹底的に補償するべきです)、ここでは特に大学と音楽について書きます。
大学と音楽って全然違う業界で、どこが共通するんだよと思われるでしょうが、新型コロナ禍を契機にオンライン・コンテンツが膨大に作られた点では似ています。作りたくて作ったわけでは
統計力学の計算で初学者が嫌になるところ(1)
Twitterを見てると、「統計力学の計算は近似がガバガバ」とかいう表現をよく見かける。それだけではどういう近似のことを言ってるのか分からなくて、指数関数の肩を二次まで展開してやめちゃうところかなとも思うのだけど、今回はそこではなくて、小さい数をどんどん無視する計算について書こう。
いちばん簡単な例として独立二準位系のミクロカノニカル・アンサンブルを考える。$${N}$$個の二準位粒子がある。$
科学的なものと科学的ではないものとを見分けること
コンピューターの中からこんなテキストが出てきた。何に書いたのだかもう忘れてしまっていたのだけど、検索してみると『「悪意の情報」を見破る方法―ニセ科学、デタラメな統計結果、間違った学説に振り回されないためのリテラシー講座』(シェリー・シーサラー著、今西康子訳、飛鳥新社、2012年)という本のために書いた解説だった。
本の解説なので、これだけで完全には独立した文章になっていないのだけど、これはこれで
ニセ科学問題から見た科学リテラシー
この原稿は「日本の科学者」 の2011年2号「特集 21世紀の科学リテラシー」に掲載されたものです。東日本大震災の直前ですね。
「日本の科学者」は日本科学者会議という左派系学術団体(よく日本学術会議と間違える人がいますが、全く関係ありません。こちらはまあ共産党系というべきですかね)の機関誌で、長い歴史があります。科学リテラシー特集ということで僕にニセ科学問題を書けという依頼がありました。左派系で
理想フェルミ気体のゾンマーフェルト展開の導出(母関数の方法)
このノートは大学で統計力学や固体物理を学んでいる(あるいは大学レベルのそれらの科目を自習している)人向けです。その程度には専門的な内容です。
理想フェルミ気体の低温での性質を知るために低温展開の方法があります。ゾンマーフェルトによって始められたので、ゾンマーフェルト展開と呼ばれます。これはごちゃごちゃした計算で、大学の統計力学でも導出を教えるのが面倒だし、後々使うのは結果だけなので、学ぶほうとし
統計力学のアンサンブルとはなんで、どうして必要なのだろう
この文章は初学者向けの統計力学の講義ノートにつけるために書いた。伝統的な統計力学の説明と違うけれども、たぶん今ならこんな感じに考えるのが筋だと思う。統計力学に興味があるかたのために、この部分だけ抜き出した。
なお、この文章では全く歴史を踏まえていない。アンサンブル概念成立の歴史については、最近出版された稲葉肇「統計力学の形成」がいいと思う。以下の話はそのような歴史もほぼ覆してしまう「ちゃぶ台返し