新型コロナ禍で作られた大量のコンテンツはどうなるのか



新型コロナ禍は様々な業界に大きな影響を与え、政府の無策と相俟ってその傷は深まるばかりだと思いますが(新型コロナ禍は災害であって個々人の責任ではないので、国が徹底的に補償するべきです)、ここでは特に大学と音楽について書きます。

大学と音楽って全然違う業界で、どこが共通するんだよと思われるでしょうが、新型コロナ禍を契機にオンライン・コンテンツが膨大に作られた点では似ています。作りたくて作ったわけではなく、その多くはそれ以外どうしようもないから作られたのですが。

音楽のほうが分かりやすい。ライブハウスにお客さんを入れられなくなったため、各ライブハウスが試行錯誤で配信を始めました。無観客有料配信はライブハウスとミュージシャンが収入を得るための苦肉の策ではあったのですよ。実は僕がやってるandmo'というバンドもかなり早い時期に配信機材持ち込みで配信ライブをやったことがあり、その記録は "Live at Kobe Big Apple" としてbandcampで販売しています。それはそれとして。

最初のうちはいろいろトラブルもありましたが、ライブハウス側もすぐに慣れて、それなりの品質の配信が行われるようになりました。ライブハウスから配信する場合の著作権やら技術やらに関する様々な情報は例えばミュージックスクラム が精力的に発信しています。

これは一種の革命で、東京のライブハウスで行われている演奏を大阪の自室でリアルタイムに観られるようになったわけです。もちろんこれにはいい面と悪い面があり、ライブに行かずに配信でいいやと思っちゃった人たちもいるかもしれない。でも、ライブのよさを知ってる人たちがそれでライブハウスを離れることはないと思います。ライブハウスにお客さんが入れるようになった今は、近所ならライブハウスに行き、遠方なら配信を観るというスタイルになっているのではないでしょうか。配信はライブへの呼び水にもなっているはずです。

ミュージシャンからしてもライブハウスからしても、その場のお客さんだけよりも収入が増えてる気がしますが、そこは僕には分からない。新型コロナ禍が収まったあとも配信を続けてくれるかどうかも分からない。配信を続ければいいと思うんですが、もちろん手間はかかります。でも、僕も一時期は配信ライブを観まくっていて、配信だから観られたバンドもあるので、なんらかの形で配信文化は残してほしいものです。全国のライブハウスからの配信が観られるのはすごいことじゃないですか。全国どころか、全世界のライブが観られる。革命的です。ライブハウスがたくさんある都会の人(特に東京の人)には分からないかもですが、地方在住者にとっては本当に革命でしょう。

実は本題はこれからです。有料配信ライブの殆どは期間限定公開です。これは収益化の技術的問題で仕方ないとは思うんですが、しかしあまりにももったいない。全国で膨大な数のライブが配信され、一週間程度で観られなくなってしまう。おそらく多くの場合にデータは残っているはずです。これは貴重な記録です。有名バンドだけではなく、無名のアマチュアバンドまで含めて、今のこの時期の音楽シーンの記録が膨大にあるはずなんですよ。これはなんとかならないんだろうか。

もちろん、多くの場合、DVDにして単品販売できる映像・音響クオリティには達していないと思います。どんなにいい演奏でも、単品で商品化して5000円で売りたかったら、さすがに初めからそのつもりで映像と録音の専門家を入れて作らなくてはならない。ライブハウスでの収録をハウスのスタッフがいくら頑張っても、まずそのクォリティには達しない。音響もね、ポストプロダクションしてないからね。でも、それは結局は金額の問題です。ワンカメラならワンカメラなりの価格にすれば、見たい人はたくさんいますよ。例えば、アーカイブ集を作って、視聴回数に応じてライブハウスとバンドに収益が還元されるようなシステムがあってもいいはずです。サブスクリプションでもいい。

いずれにしても、新型コロナ禍で膨大に作られたはずのライブ映像がそのまま消えていくのは大きな損失だと思います。貴重な財産のはずです。なんとかならないですかね。配信文化の存続とアーカイブ化はぜひみんなで考えてほしいところです。

さて、話は変わって大学です。大学でも講義がオンライン化され、みんな否応なしに講義の映像コンテンツを作らされました。僕は2020年度前半に45本のオンデマンド教材を作りました。大変でした。全国の大学でそれが行われたわけです。その多くは学内限定のコンテンツとして学外者が知らないところで公開されたのでしょう。僕は全部youtubeに出しましたが。

これも貴重なコンテンツですよね。知的財産です。もちろん、出来不出来はそれぞれでしょうが、しかし学びたい人にとってみれば、多少できが悪くても見たいんじゃないですかね。たくさんの大学がある都会では昔から他大学の講義に「潜る」のがよく行われていて、それは大学の文化だと思うんですね。オンライン・コンテンツならそれが簡単にできます。何しろ足を運ばなくていいのだから。

みんな積極的に講義を公開すればいいんじゃないかな。同じ科目の講義がたくさんあるわけですよ。それこそ物理の「力学」なんか、全国で膨大に開講されている。それを一斉に公開して、どれでも好きな講義を見られるようになったら面白いと思いませんか。自分に合った講義を選んで見ればいい。地方大学に通いつつ、東大の先生の講義が見られたら面白いじゃないですか。

僕は講義なんてオープンでいいと考えています。大学に授業料を払って在籍する価値は、直接指導を受けられることと単位認定です。講義を聴くだけなら、オープンで全然構わないと思う。新型コロナ禍が終わっても講義を録画する文化は残ると思うんですよ。学生も録画で復習するのに慣れちゃったでしょう。だったら、それを公開すればいいじゃんというのが僕の考えです。

せっかく苦労して作った授業コンテンツがただ失われていくのはもったいないじゃないですか。片っ端から公開して、誰かがダイレクトリを作ったら面白い。いろいろハードルはあるかもしれないけど、なんなら収益化したっていいわけです。研究費の足しくらいにはなるかもしれない。そこは本質ではありませんが。

勉強系youtuberもいるけど、残念ながらクオリティはあまり高くない。僕がざっと見た範囲では大学レベルの物理を満足できるクオリティで説明している勉強系youtuberはヨビノリ先生だけです。プロがやってないからそれはしょうがない。プロにはプロなりの説明の仕方ってものがあるんですよ。もっとも、映像制作のクオリティは別の話で、映像や音響はVtuber的なほうが全然よかったりするんですけどね。大学教員の多くは映像制作も音響制作も素人だから。大学の講義をがんがん公開していけば、対抗して勉強系youtuberの説明のクオリティも上がるんじゃないですかね。全体のクオリティが上がるのは重要だと思います。

とにかく、音楽であれ講義であれ、新型コロナ禍を機に否応なしに配信文化が発展し、膨大なコンテンツが作られた。それは既に存在するし、今日も作られているわけです。せっかくあるのにそのまましまいこんでしまうのは大きな損失だと思います。コンテンツを文化的資産として活かす道を考えたいところです。

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