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奇縁堂だより34【本の紹介:直木賞⑤】

 過去4回に渡り続けていた直木賞受賞作を紹介する「奇縁堂だより」も,今回の5回目で最後になります。
 毎回読んでいただいている方,ありがとうございます。
 (過去の記事はこちらから→1回目2回目3回目4回目)

 直木賞を受賞すると受賞した作品だけでなく,これまでの作品の売上も増えると言われているので,多くの作家が是非受賞したいと考えるのもよくわかります。
 その代表例の一人が胡桃沢耕史ですね。彼は受賞することに執念を燃やして,願掛けのために,直木三十五の墓の隣に自らの墓地の土地を買っていますし。
 
 今回一連の記事を書くに当たって受賞作を再び読んでみたら,物語の展開が上手だったり,人物のキャラが立っていたり,人物や風景や空気の描写が上手といった作品が歴代の受賞作に選ばれているように感じました。

 さて,この直木賞シリーズ最後に紹介するのは,第147回(2012年上半期)から第160回(2018年下半期)の間に受賞した作品のうち,在庫のある5作品です。

紹介作品一覧

○『鍵のない夢を見る』
○『ホテルローヤル』
○『流』
○『海の見える理髪店』
○『宝島』

作品紹介

○『鍵のない夢を見る』 辻村深月 (文庫) ¥250 (税込)
 
第147回受賞作
 どにでもあるような地方の町に,どこのでもいるようないわゆる"普通"の女性。"普通"の女性たちが見るささやかな夢。日常を変えるため,その夢を叶えようとしたことで生じた"普通"からの転落を描いた小説集です。
 地方(田舎)で暮らすことの閉塞感や感じるストレスが非常にうまく表現されている作品です。
 "普通"の女性5人が主人公の5篇の短編を収録した小説集です。


○『ホテルローヤル』 桜木紫乃 (文庫) ¥200 (税込)
 第149回受賞作
 北国の湿原の近くに建つラブホテル「ホテルローヤル」。ホテルローヤルに来る客,ホテルで働く従業員,ホテルの経営者。皆それぞれ何か問題を抱えている。
 ラブホテルの部屋は別世界なのか,彼らは"日常とは違うこと"を求めてホテルの一室に入っていく。そして束の間の時間を過ごし,また"日常"に戻るため部屋を出る。ラブホテルを舞台にした7つの物語からなる短編小説集です。

 登場人物の人物描写や時代背景が上手に描かれています。"非日常"の空間で得られる活力もしくは輝きがうまく表現されています。
 
 2020年に波瑠が主演,松山ケンイチや伊藤沙莉などが出演して映画化されています。


○『流』 東山彰良 (文庫) ¥250 (税込)
 第153回受賞作
 1975年に蒋介石は亡くなった。その直後に葉秋生の祖父が殺された。国民党の一人として中国共産党と内戦を戦い,台湾に逃れた祖父は不死身だったはずである。そんな祖父がなぜ,そして誰に殺されたのか。
 きっかけは祖父が殺された理由と犯人を探すことだったが,それは次第に葉秋生の自らのルーツをたどる旅につながっていく。葉秋生は台湾を飛び出し日本へ,そして旅に出た理由の答えがある大陸(中国)へと辿り着く。

 祖父が殺された理由と犯人を探すミステリーでもあり,17歳の若者が自身のルーツを探る青春小説でもある作品です。
 台湾と日本,そして中国を舞台とした非常にスケールの大きな作品です。


○『海の見える理髪店』 荻原浩 (四六判) ¥1,100 (税込)
 第155回受賞作
 海辺にある年老いた店主が営む小さな理髪店。実はこの店主,知る人ぞ知る凄腕の理容師だった。大物俳優や政財界の名士も通い詰めるほどの床屋である。
 その床屋に最初で最後の予約を入れた"僕"と凄腕の年老いた理容師の短いけれど「特別な」時間が始まる。

 "僕"と店主のやりとりを中心に話が展開していく物語です。"僕"がこの店にきた理由,店主の過去が明らかになった時,切なくも心打たれる小説です。(表題作『海の見える理髪店』)
 表題作を含め「家族を描いた」6つの物語からなる小説集です。

 収録されている6つの小説は,どれも家族の関係性や在り方を考えさせられる内容です。少し切ないけれど,最後には心が温かくなる作品集です。


○『宝島』 真藤順丈 (四六判) ¥440 (税込)
 第160回受賞作
 「戦果アギヤー」は沖縄に米軍基地から物資を盗み出す。その正体は年端もいかない少年少女たちだった。そして,戦果アギヤーのリーダーは沖縄の少年少女にとって「英雄」だった。
 ある時,いつものように基地に忍び込むと米兵にバレいきなり銃撃が始まる。混乱に陥った戦果アギヤーたちは,散り散りになりながらもなんとか逃げ延びる。しかし「英雄」の行方だけがわからず,彼は消えてしまう。
 「英雄」は消えてしまったが,彼は"予定にない戦果"を手に入れたという噂が流れ始める。「英雄」はどこに消えてしまったのか?そして「英雄」手にしていた"戦果"とは一体何だったのか?
 そして時が流れ大人になった彼らは,「英雄」の帰還を待ちながら,立場は違えど自分にできることで沖縄のために,米軍に抗い続ける。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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