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奇縁堂だより29【本の紹介 : 直木賞①】

 前回,待ち歩きを兼ねて直木三十五のお墓と旧邸宅にいった記事を投稿しました。
 その流れで,今回から数回にわたり「奇縁堂だより」で直木賞受賞作品を紹介していきたいと思います。

直木賞とは

 新進・中堅作家によるエンターテイメント作品いわゆる大衆小説(長編小説もしくは短編集)に贈られる文学賞が直木賞(正式には直木三十五賞)です。
 
 直木賞は,文藝春秋社の社長だった菊池寛が友人であった直木三十五の名を記念して芥川賞(純文学作品が対象)と共に1935年に創設されました。
 
 年に2回受賞作が発表されており,上半期は前年の12月1日から5月31日までに発表された作品,下半期は6月1日から11月30日までに発表された作品が対象となります。
 受賞者には正賞として"懐中時計",副賞として"賞金100万円"が贈られます。

 初代は,『鶴八鶴次郎』などで川口松太郎が受賞しました。歴代の受賞者には,井伏鱒二山本周五郎司馬遼太郎池波正太郎などといった歴史に名を残す作家たちがおり,90年代には伊集院静宮部みゆきなど,2000年以降には奥田英朗東野圭吾辻村深月などといった現在の人気作家の多くが名を連ねています。

 直近の第170回直木賞(2023年下半期)は,万城目学『八月の御所グラウンド』河崎秋子『ともぐい』が受賞しました。

 ここまでとても簡単に直木賞について説明してきました。
 ここからは直木賞受賞作を紹介していきたいと思います。今回は,第56回(1966年下半期)から第101回(1989年上半期)の間に受賞した作品のうち,在庫のある5作品を紹介いたします。

紹介作品一覧

○『アメリカひじき・火垂るの墓』
○『蒼ざめた馬を見よ : 五木寛之作品集1』
○『遠い海から来たCOO』
○『遠い国からの殺人者』
○『高円寺純情商店街』

作品紹介

『蒼ざめた馬を見よ : 五木寛之作品集1』 五木寛之 四六判 ¥500
第56回受賞作
 新聞社の外信部に所属する高野は,ソ連の老作家が書いた体制批判の小説原稿を手に入れることを命じられる。身分を偽ることでソ連に潜入した高野は,原稿を手に入れることに成功する。
 高野が手に入れた原稿は出版され世界的なバストセラーとなるが,その裏にはある陰謀があった…(『蒼ざめた馬を見よ』)

 直木賞を受賞した『蒼ざめた馬を見よ』のほか,『さらばモスクワ愚連隊』,『デラシネの旗』,『艶歌』など5作を収蔵。


○『アメリカひじき・火垂るの墓』 野坂昭如 文庫 ¥250
第58回受賞作
 太平洋戦争の最中,親をなくし二人きりになってしまった清太と節子。二人で戦争で混乱する世の中を生き抜こうと決意するも,小さな子供二人では如何とも難く…(『火垂るの墓』)
 
 俊夫は少年時代に太平洋戦争の終戦を経験した。終戦後の混乱の中,俊夫は米軍から食べ物を盗んだり,闇市でポン引きまがいのことをしていた。そんな過去がある俊夫も,今や小さいながらもテレビCMを制作プロダクションを経営するまでになった。
 そんな中,妻の京子の知り合いであるアメリカ人のヒギンズ夫妻を自宅に招くことになった俊夫。このことがきっかけで,俊夫は過去を思い出し,アメリカ(正確には戦後の占領軍)に対するコンプレックスを呼び覚まされる。(『アメリカひじき』)
 

 野坂昭如は本書を原点として,自称“焼跡闇市派”の作家として活躍することになります。“火垂るの墓”は1998年に高畑勲の監督でアニメーション化され(スタジオジブリ)話題となりました。
 直木賞を受賞した表題作の2作に他4編を加えた計6作からなる短編集です。

 野坂自身の戦争体験を元に書かれていることから,どの作品も野坂の心情がひしひしと伝わってくる。戦争の恐ろしさや虚しさを読み取れる小説です。

○『遠い海から来たCOO』 景山民夫 四六判 ¥150
第99回受賞作
 海洋生物学者の父親の仕事の都合で,南太平洋のパゴパゴ島に移住した洋助。ある嵐の日の翌日,洋助は潮溜まりである生き物の子どもを発見する。なんとその生き物は,6千万年以上も目に絶滅したはずのプレシオザウルス(恐竜)だった。
 洋助は恐竜をQOO(クー)と名付け,育てることにする。
 クーが洋助の元に現れたのには,ある国の実験が関わっていた…そのことを知った洋助と父は,クーを守るために立ち上がる!

 洋助がクーを育て,両者が心を通わせていく過程を描き,心が温まる少年の成長記であるとともに,洋助と父がクーを守るために戦う海洋冒険小説でもあります。

○『遠い国からの殺人者』 笹倉明 四六判 ¥550
 
「男の人が倒れている」という110番通報をきっかけに,あるマンションで若い男の死体が発見される。
 発見された男は外国人のストリップダンサーの女と同居していたが,その女の行方がわからない。女は逃げたのか?しかし,事件発覚のきっかけとなった通報したのは"訛りのある女の声"だった。女は逃げる前に通報したのか?それとも女は逃げたのではなく事件に巻き込まれたのか?
 事件の真相は裁判を通じて徐々に明らかになっていくが,そこには異国の地で必死に生きる女性たちの姿があった。

『高円寺純情商店街』 ねじめ正一 四六判 ¥500
第101回受賞作
 舞台は昭和30年代の東京・高円寺。高円寺駅北口の商店街にある江州屋乾物店の中学生の息子・正一と家族、そして商店街の人達との関わりを描いた6編の短編からなる連作小説です。
 
 なにか大事件が起こるわけでもなく、商店街で暮らす中学生を中心に描かれている日常の物語なのですが、読み終わったら商店街に行きたい!と思うような読後感です。
 お店のお釣は笊に入れいていたり、卵を一つずつ売っていてそれを新聞紙に包むなど、昔の生活に関することが上手く描かれていて、古き良き昭和の雰囲気を存分に味わえる作品になっています。

 小説に登場する高円寺北口商店街は、「高円寺銀座商店街」がモデルになっています。そして、この商店街は、この作品にちなみ現在は「高円寺純情商店街」に名前を変えています。
 
 「純情シリーズ」として,続編に『高円寺純情商店街 本日開店』『高円寺純情商店街・哀惜編』があります。

 ここまでお読みいただきありがとうございました。
 次回も直木賞受賞作品の紹介をしていきます。

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