【KIC物語部】

【月1本更新!!】キックファクトリー新入社員がオリジナルの短編ストーリーを投稿していきます。まだまだ拙い文章ですが、修行日記としても暖かく見守ってください!【https://www.kic-factory.co.jp/

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最近の記事

男の少なかった世界

俺が暮らすこの世界は、極端に男が少ない。だから、生まれた時から俺は特別な存在として扱われ、チヤホヤされて生きてきた。家族からも絶大な愛と期待を受けながら、大切に育てられた。テレビにも何度か出演し、生きているだけで有名になれる。美しい女もたくさん寄って来る。大人になっても、俺のことを大層気に入った何人かの金持ちの家を渡り歩き、贅沢な暮らしをしながら生きていた。 1日中広い家でダラダラとし、腹が減ればいつでも当たり前のように飯が渡される。その飯は高級食材ばかりで、そこらの外食よ

    • 【短編】“餃子の王道”大好き野郎

      小学校の教室で、私は仲良しのレイコと話していた。 「ねえレイコ、駅前の“餃子の王道”ってさ、いつも混んでるよね。」 「ね。いっつも外まで並んでる。休みの日じゃなくてもだよ。」 私たちの地元の某中華料理チェーン店は当時とにかく大人気で、レイコに限らずクラスのみんながその存在を知っているほどだ。 さらに2人は盛り上がって話を続ける。 「あんなに毎日繁盛してたら、絶対にあの店すっごく儲かってるよね。」 「絶対そうだよ。店員さんとか、お給料すごいんだろうなぁ。」 「あたし大人に

      • タイムマシン

        ある日、俺は廃品の山にいつものようにガラクタを投げていると、見たことのない文字が書かれている不思議な機械を見つけた。丸い大きな扉が正面に付いており、ドラム式洗濯機のようだが服を洗えそうにもない。俺の仕事は認可されていない安月給の廃品回収業者で、このガラクタも全て不法投棄しているに等しい物のため、いくら取ったってバレることも怒られることもない。俺はこの機械を持ち帰ることにした。 汗だくになりながらなんとかアパート2階の部屋に機械を運び入れ、少し綺麗にしてやると、狭いボロアパー

        • 【短編】インターネットを知らない彼女

          僕の彼女は今どきにしてはめずらしくスマホを持っていない人間で、インターネットをまったく見ない。SNSでキラキラしている女子たちや、「バズる」なんてものには無縁で、話題の音楽や言葉、スイーツなど、ネットユーザーならばみんな流行りだと知っているようなことを彼女は全く知らない。 けれどネットを見ない分、彼女は様々な知識や文化に日々触れている豊かな人だった。道端でふと見かける植物や花の名前だったり、飛んでいる鳥の名前だったり、食材ごとの美味しい調理法だったり、心に残る本や詩などをよ

          【短編】すれ違いサプライズ

          私と彼は付き合って10年になる。学生時代の青春の思い出も、社会人になってからの生活も、全て彼に捧げてきた。友達よりも彼を優先してきたことは、言うまでもない。そんな私の若干重めな愛をも受け止め、応え続けてくれた本当に大切な存在である。ただ、最近彼の仕事が忙しくなっており、彼は真面目で完璧主義なタイプであるため、体調が心配だ。 「いやあ、新しい案件がトラブっちゃっててさ。」 彼はそう笑っているけれど、帰りが0時を回ってしまうこともしばしばだ。これまでも幾度か激務で倒れた経験が

          【短編】すれ違いサプライズ

          【短編】天使と悪魔

          高層ビルの屋上、あたしは落下防止のフェンスを超えた先に佇んでいた。 「もうこれでいいんだ…」 ふわふわした足取りで前に進んでいく。 とっても景色は綺麗で、遠くまでキラキラして見えている。 足元には粒みたいな車のライトがいくつも通り過ぎていく。 ちょっと怖いけれど、ギリギリのところに足をかけてみる。 「本当にできるかなあ。」 恐怖心から若干戸惑ってしまった。 すると突然、顔の両横にボン!とふたつのちっちゃいものが現れた。 「死んではダメです!悲しんでしまう人がたくさんいま

          【短編】天使と悪魔

          【ご褒美アイス】

          今回の案件は自画自賛する訳ではないけれど、思っていたよりも上手に進められたと思う。会社に入って2年。先輩方に言われるより早く対応しお客様の信頼も高まっている。 「ということで…」 会社の帰り道、コンビニのアイスコーナーと対峙している。 「ご褒美だもの!」 いつ以来だろうか…すっかり忘れてしまったが、私にとっては高価でちょっぴり贅沢なカップアイス。その何味を買おうかと先程から悩んでいた。 いわゆる「ご褒美アイス」だ。 「せっかくだから…」 2種類買うことにした。1個は「安定

          【ご褒美アイス】

          【街で見かけた看板で】#07

          「いま“求められる広告”ってなんだと思います?」 競合のプレゼン中。クライアントの会議室で企画案の説明をするクリエイティブディレクター。 「近年実は、“広告に見えない広告”が多いと感じませんか?」 「広告に見えない広告?」 「ステルスマーケティングに代表されるネット世界でぼーっと見ていると実は広告だったみたいな」 「ああ、ありますね。個人が投稿したSNSのように見えて、それが広告だったとか…」 「例えばです。狙いではないにせよ、“読めそうで読めない立て看板”ってあるじゃない

          【街で見かけた看板で】#07

          【巨大な亀が住む川】

          その雄大で広くのんびりした大河には、大きな生き物がいるらしい。らしいと書くのには、目撃者が多い割に、証拠となる写真や動画がなかなか出てこない都市伝説のような話だからだ。 近くには江戸時代の浮世絵の類や美術品も多く展示されており、昔書かれたその川の絵には実は黒く大きな生命の影らしき姿もよく描かれている。 「巨大な亀!?」 「し!大声出すなよ!」 中学校の昼休み、男子ふたりが話をしている。 「兄ちゃんが見たんだって、昨日の夜」 「あの川で?…巨大って…こんぐらい?」 両手を肩

          【巨大な亀が住む川】

          【なんて素敵なディスプレイ】#02

          すべてのモノにドラマがある。 「どうです?こちらの写真」 「公衆電話ですか。近頃メッキリ減りましたね」 「電話ボックスに、素晴らしい商品ディスプレイがございます!」 「商品、ディスプレイ…ですか?」 「日本酒の紙パックです」 「有名な、どこのコンビニでも見かけるモノですね。でもこれゴミですよね?」 「良く見てください!ワンカップでは無いんです!紙パックなんです!コレをこの場所で開けて飲んで飲み切っている…そこにドラマが見えませんか?」 「ドラマ…ですか?」 「コレをここに

          【なんて素敵なディスプレイ】#02

          【なんて素敵なディスプレイ】#01

          すべてのモノにドラマがある。 「ヒーローとして生きるって…大変だよな…」 「ヒーロー?」 「ほら…あれ」 「あ!定食屋の客引きしてるじゃん!」 「だろ?」 「M7じゅう…なんだっけ?なんか銀河系の遥か遠い所からやって来てさ」 「いわゆる出稼ぎなワケだ…やっぱり、家族とか多いと稼ぎ頭は大変なんだろうな…」 「怪獣が現れれば活躍の場もあるだろうけれど、なんだな…最近では、街とか人間の暮らしを壊してしまうとか、倒した怪獣の始末が大変だとか、とにかく肩身が狭くなっているのは間違いな

          【なんて素敵なディスプレイ】#01

          【街で見かけた看板で】#06

          「俺けっこう、こういう洒落の効いた看板、好きなんだよね…」 カフェの入り口に、折りたたみ式の立て看板が出ている。 「何これ?春夏秋冬?」 「知らない?良く見てご覧よ」 「春夏秋…あれ、春夏冬…ナカ…?何これ?どういうこと?」 「想像力ないなあ…もう一回読んでご覧よ」 「春・夏・冬・ナカ…間違いじゃないの?」 「わかんない?」 「秋…秋ナカ…秋が無い…秋ない!」 「だから!」 「商い中!」 「洒落てるよね…」 「商い中…お店がやってるってことだ!」 彼女とのデートでやってきた下

          【街で見かけた看板で】#06

          【なれとります】#04「日々是勉強」

          「今回はですね、男性、女性の掛け合いとなります」 「掛け合い…」 「あ、もちろん女性ナレーターさんもお呼びしてあります」 ナレーターというは摩訶不思議な仕事である。ただ紙に書かれた言葉を音にするだけではなく、時には声だけでお芝居をしたり、書かれた言葉をメロディーにして歌い上げたり、その1枚のナレ原からは想像できない多くの可能性を秘めているという、普通の感覚では理解しがたい職業だと思う。 「アハ…ですよね。いや、たまに声色変えてのひとり芝居なんてありますから、つい」 「ですよね

          【なれとります】#04「日々是勉強」

          【二十九、三十】

          「水飲めよ」   コンビニの前で今日3度目の嘔吐をした俺に、 蓋を開けたペットボトルを差し出してくるのは小学校からの付き合いの悪友だ   「いらねぇよ。チューハイ買って来てくれよ」 「まだ飲むのかよ」 「今全部出しちまったから、リセット状態。ほぼ素面。あぁ~明日バイト10時から なのにぃ~。お前明日は?」 「朝からびっちりミーティング。まぁ夕方くらいには落ち着くから早めに切り上げて爆睡すると思う」 「上手くやってますねぇ~」   よろけながら立ち上がる俺を横目に、行き場を無く

          【二十九、三十】

          【紫の濡れ衣】

          「この季節は紫の花が多くて、私好きだな…」 「…そうなんだ」 彼女と映画鑑賞の帰り道、夕飯のお店を考えながらスマホを見ていた僕は、沿道に植えられた花の色には意識が行かなかった。 「だって、紫陽花とかさ、藤の花とか、菖蒲とか…」 「ああじゃなくて、紫色好きなんだって方」 「そうね、紫って落ち着いていて好きかな」 「欲求不満なの?」 「は!?なんでそうなるの!?」 彼女は一気に怒り出した。怒りっぽい所があり、熱し易く冷め易い。そこがまた可愛く想えるのだが。 「だって紫の服を好む

          【紫の濡れ衣】

          とあるハサミ③

          4人の男が留置場でそれぞれ距離を取りながら佇んでいる 中央に置かれたベンチには両手で顔を覆う、ハサミを振り回して捕まった男   「どうりで皆さんと連絡が取れない訳ですね・・・銃も刀も弓も、どうして剝き出しで持ち歩いてるんですか・・・」   ハサミの男は自分以外の3人に話しかける 一番奥で不貞寝している男が反応する   「そういうお前だって、ハサミ持ってて捕まってるじゃないか」 「私はちゃんと刃渡り短い装備を選びました!大体あなたの銃は頑張れば隠し持てるじゃないですか」 「銃は

          とあるハサミ③