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【街で見かけた看板で】#05

「なんだよな、努力義務って!」
居酒屋の酒が入り、愚痴も出てしまう。男三人、いま世の中で溢れる自転車ヘルメット問題を語っている。

「オレさ、ここ来る前にヘルメットかぶって、フラフラ走る高齢男性見かけたのね…」
勢い先行で呂律が怪しい。
「それがさ…白い防災用のヘルメットだったんだよね…自転車用のヘルメットじゃないワケよ!」
「俺もそんなの見かけた!工事現場の作業着オジサンが黄色いヘルメットカブってガニ股で走ってた…ヘルメットなら何でもありか!って言うことだよ…」
「気の毒だよね、おじいちゃん、自転車屋買いに行ったら売り切れだったとか、レーサータイプなんてカブれないでしょうよ…」
「努力義務だよ!家に置いてあった防災用のヘルメットカブったんだよな…努力努力…」
「あれでしょ?マスク着用の時に、日本人は自主的に着けていたから、二匹目のドジョウ狙ったワケでしょ?」
面白おかしく愚痴が出る。
「マスクと違ってさ、少なからずヘルメットだってそこそこ金額するでしょ…」
「そうなんだよ!いち早く、背中に警視庁って書いてるジャケット来たお巡りさんが、格好良いレーサータイプの自転車ヘルメットカブって街を走っていてさ…」
「それも税金なワケでしょ?何台も連なって走ってたりするよね。全部同じタイプを一括で揃えているワケだから少なからず、恩恵を受けている業者がいるってことだよね?」
「それよりもだよ。おじいちゃんは本当にフラフラ乗っててさ、自動車の免許自主返納と同じように、危ないんだったら乗らない方がイイよね…」
「もうヘルメットどころの問題じゃないって…」
「知ってた?自転車は車だから車道、って思っていたけど、ゆっくり走るなら歩道でもOKって!」
「いやいや、自転車配送のお兄さんだって歩道を全力で走ってるって…」
「あれさ、車道の逆走を全力で走るの、ホント怖いよね…」
「車目線だとそうだよね…」
「車と歩行者の二段階時差信号あるじゃない、ほとんど自転車は車の時に渡るよね?」
「都合のイイ時だけ車道で、都合のイイ時だけ歩道で走るよね」

「頑張れ努力義務!」
「どうした?」
「義務って…何だろう?」
「おいおい昔のドラマの“誠意って何だろう”みたいに言うなよ…」
「カボチャ?」
「え、意味分かんないんだけど」
「さ!日本国民の三大義務!」
「教育!」
「勤労!」
「…なんだっけ?」
「納税!」
「ホントは四つなんだよね…」
「え!そうなの?」
「人権保持の義務!」
「人権保持かあ…あ〜底辺の人間には関係ないですなぁ…」
「教育とか勤労だってさ…どうなの?」
「物価ばっかり上がって、消費税が上がって、ライフラインもどんどん上がって…」
「ライフライン」
「言いたかっただけでしょ?」
「その上で努力義務ですか…」

「結局自転車が危ないってことで、ヘルメット着用になったワケでしょ?けどさ、その危ない自転車を運転している人は、努力しないよね…」
「そりゃあそうだよ…危ない運転しているのは、お金が無いから必死に働いている、その結果、周りなんか関係ないと思って凄く飛ばして危険な運転をしている…」
「底辺の人間には関係ないですなぁ…」
「いやいや、みんなが納得して参加しなくちゃ難しいよね」
「ヘルメット、ひとり1つ渡せばイイ」
「何とかカードみたいに?無理無理、第一自転車乗らない人もいるでしょ?」
「さっきの工事現場や防災なんかと共通に使えるような汎用性の高いヘルメット作れば良くね?」
「それも難しいよね…工事現場とか防災は真上からの衝撃に強い作りなのに、自転車は側面からの力から守らなくちゃいけないし…」
「フルフェイスのヘルメットだとコンビニとか入店お断りだしね…」
「いや、自転車でフルフェイスかぶるのは逆に嫌がらせだよね…フルフェイスでイヤホンしてたらたまらんよね…」
「ラグビーのヘッドレストみたいな、衝撃吸収手段もありにするとか」
「よくシニア女性だと、日光に当たりたくないからってサンバイザーかぶってるよね」
「そうなんだよ。もっと良い手段を考えてから、努力義務を始めたら良かったんだよな!」
「政治ってそんな感じでしょ?いつだって…」
「あ!カボチャかぶるのどうよ!?」
「いや、意味わかんないし…」
「誠意って何だろう…」
「いやホント意味わかんない…」
「事故は起きるよね…」
「事故を起きないように努力する!」
「はい、努力義務!」
「もう辞めない、この話…」
「努力致します!」
「防災ヘルメットはOKなのかな?」
「もういいって…その話…」

     「つづく」 作:スエナガ

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