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【とあるハサミ①】

 「だから、仕事用だって言っているじゃないですか!」
 
夜の公園に男の声が響く
 
「ですから、それを証明してください、とお願いしているのです」
 
男をなだめつつも冷たく刺すようなトーンで女性警官が答える
 
「だからそのハサミ以外無いんだって!あとは実際に仕事を見てもらうしかないって!」
「その・・・なんでしたっけ、霊媒師?」
「陰陽師!」
「そう、陰陽師という職業は公園でハサミを所持する理由があるのでしょうか。」
「大ありだよ!ウチの流派はハサミで戦うタイプのやつなの!
それで妖怪とかを退治する仕事!それが陰陽師」
 
カラカラ、と空き缶が転がる音が響く
 
「すいません、色々と質問があるのですが、まず妖怪というのは実在するのですか?」
「しますとも!今もそこかしこにウジャウジャいますよ!」
「ウジャウジャ・・・虫みたいな感じなんですかね?」
 
手でカブトムシくらいのサイズの輪を作り尋ねる女性警官
 
「そりゃモノによりますよ。そんくらいのも居れば、ビルくらいデカいのだって」
「それは何階建てくらいですか?」
「そこ気になりますか?」
「はい。ビルといっても3階建てくらいのもあれば何十階もあるような高層ビルも
あったり――」
「――じゃあ10階建てで!」
「10階建て・・・」
 
ペンを走らせる音が響く
10階建て、ジャイアントロボくらい?とメモを取る女性警官
 
「あと、先ほどハサミで戦うタイプとおっしゃいましたが、他のタイプもいらっしゃるのですか?」
「沢山いますよ!オーソドックスなお札で戦うタイプとか、刀とか、銃を使う奴もいますね。あとはムチとか弓とか」
「ハサミ弱くないですか・・・?」
「余計なお世話だよ!見た目はそうかもしれないけど、ウチも歴史ある由緒正しい流派なんですよ!」
「そうなんですね・・・他と比べて罰ゲームかと思うくらい弱そうなので・・・
最初の人はなんでハサミにしよう!と思ったんですかね?たまたま近くにあったとか?」
「深堀しなくていいんだよ!強力な霊力が込められた特別なハサミ!
それで納得して!」
 
腑に落ちない表情の女性警官
 
「不満気だなぁ!変な所に引っ掛かって・・・分かったよ、じゃあそのハサミの力見せてやるよ!丁度あんたの後ろ、5メートルくらいのが立ってる」
 
真剣な眼差しで空中を見つめる男。女性警官が持つハサミを奪う。
振り返り、急いで「5メートル」とメモを取る女性警官。
目を瞑り、顔の前に両手でハサミを掲げる男。
空中を見つめるが何も見えない女性警官。メモに「グレンラガンくらい?」と追記する。
男は神経を研ぎ澄ませているようだ。
――風の音が響く
 
カッと目を見開き、掲げていたハサミで空中を何度も刺す男
 
「ハッ!ハッ!」
「・・・・」
 
女性警官の反応をチラチラ気にしつつ、見えない何かと必死で戦う男
 
「ハッ!ハッ!」
「・・・・」
 
少し様子を見た後、胸の無線に手を伸ばす女性警官
遠くからサイレンの音が響く――
 

     「つづく」 作:オナイ

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