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独学ノート① 独学の動機と、人生を変えた一冊の本

 こんにちは。読書好きのKHです。

 昨年秋に発売されて以来、Twitterでは毎日のように誰かが『独学大全』(読書猿著、ダイヤモンド社、2020年)の話題を出しています。「勉強の方法」のようなジャンルでここまで社会現象になったものはかなり珍しいのではないでしょうか。かなり分厚い本なので気後れしてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、かなり読みやすく、どこをツマミ読みしても役に立つので是非手にとってみてください。

 さて、今回から、『独学大全』を使った私の独学の様子を、noteでリアルタイムに記録していきます。他人の独学記録はみなさんが自分でもやってみるに当たってよきサンプルになると思い、恥を忍んで公開します。『独学大全』をお読みになっていない方にも分かりやすく書くように意識をしてみますので、ちらっと覗いてくださると嬉しいです。

 本書の表紙にあるように、「学ぶことが諦められない」同志と交流し、励まし合っていけると嬉しく思います。「独学」することは決して「孤独」ではありません。書物を通じて、また、noteやTwitterを通じて、ゆるく他者との繋がりを意識しながら学ぶことができれば、望外の幸福です。


"学び続けることは、うまく学ぶことよりもずっと難しく、また遥かに重要である。"                     ー読書猿『独学大全』


1 技法①学びの動機付けマップ

 読書猿氏の『独学大全』が類書と大きく異なるのは、「うまく学ぶこと」を語る前に、「学び続けること」をいかにして可能にするか教えてくれる点にあります。その記念すべき最初の技法が、「学びの動機付けマップ」です。

 "そもそも自分が学ぼうと思ったのはなぜか、その理由を考え、そう思うようになったきっかけ、出来事や(人や書物との)出会いを書き出してみる。複数あるなら、まずはすべてを箇条書きする。
 書き出したら、一番重要そうなものを選んで、それがいつ頃、どこにいて、誰と一緒で(あるいは独りで)、とできるだけ詳しく思い出し書き出す。その時どんな感情を抱いたかも、できれば書き出す。
 最後にその大切なきっかけに、自分なりの名前(タイトル)をつける。"
                                                                  ー読書猿『独学大全』第一部第一章


 さっそく読書猿先生に従い、思いつく限りの「出会い」を書きだしてみます。以下、特にことわりの無い引用はすべて『独学大全』第一部第一章が出典です。

〇幼稚園時代:小学館の図鑑シリーズ。知的好奇心は5~6歳から顕著に。親の知育の賜物とも言えますね。ページ数や奥付を含め、一冊の図鑑に書かれた活字をすべて読むという遊びをよくしていました。変態ですね。

〇小学校時代:小学校の図書室にあった岩波少年文庫一式。左端から一冊ずつ読破していったのを記憶しています。様々な世界観からあふれ出す物語の奥深さの虜に。後に世界史が好きになったのも、この時期にかなり外国文学に触れたからかもしれません。小6の一年間は、読んだ本のページ数を記録して全校に公開するというシステムがあったおかげで、読書の習慣ができました。

〇高校時代:ダン・ブラウンの著作。特に『ダヴィンチ・コード』で有名な「ラングドン教授シリーズ」。高校時代の勉強では世界史が特に好きだったこともあり、『ダヴィンチ・コード』が醸し出す、西洋の教養を顔面に叩きつけられるあの感じにはゾクゾクしました。

〇大学時代:佐藤優『読書の技法』。私の人生を180度変えたと言っても過言ではないです。


2 人生を変えた一冊の本

 佐藤優『読書の技法』(東洋経済新報社、2012年)が私の人生を変えたと言いました。それは、具体的にはこういうことです。

 地方の公立高校出身の私は、必死になって受験勉強をし、現役で第一志望の大学に入学しました。しかし、背伸びをしすぎていたのか、青春を勉強に捧げてしまったと無意識に思ってしまったのか、入学以降は友人と遊び惚けたり、ネットゲームにハマったりしました。そして大学2年目の夏、留年が確定してしまったのです(ほとんど大学にも行っていなかったので当然です)。

 絶望しました。世間知らずなものですから、遊んでいて留年をしたとあっては就職もおぼつかないだろうと、追い詰められた気持ちになっていました(実際には、1留くらいは何の悪影響もありません)。しかし驚くべきことに、それでもゲームはやめられません。今から振り返れば、一種のネットゲーム依存症だったのだと思います。なんとか生活を変えなくてはいけない。そこで私がしたのは、まず物理的にネトゲが出来ないようにするために、デスクトップPCを捨てることでした。そして、ちょうど2か月間の夏休みが始まるところだったので、両親の住む田舎に帰ることになったのです(留年についての釈明会見を要求されたという事情もあります)。

 携帯電話の電波さえあやしい田舎での生活が、再び始まりました。自動車免許をとるために教習所に通ったり、両親との久しぶりの団欒を楽しんだりと、だんだんとゲーム依存から抜け出していきます。ただ、それだけではいけないと、どこかに焦りがありました。世間で良しとされるレールに乗っかる人生だったところから、世間から嘲笑を浴びる立場に変わってしまったわけです。何かを変えることで、今度は自分で自分の道を作っていかなければならない。だが、そのための策は無い。

 そこで始めたのが、読書です。自分の外側にあるものから何かを吸収したかった。最初は読みやすい自己啓発ものや、大学教養レベルの授業で学んだ言語学や情報科学の本を読み漁りました。しかし、それまでの人生で小説はよく読んできたと自負していましたが、実用書となるとどう読んでいいものか全く分かりません。知識が蓄積していく感じもしなければ、賢くなっていく感じもしません。そんな折、たまたま訪れた書店の新刊コーナーで手に取ったのが、『読書の技法』でした。

 「目を開く」とはこのことを言うのか!私はまるで、世の中の真理を悟ったかのように、我が意を得ました。少々長くなりますが、一例を引用します。

 "筆者(引用者註:佐藤優氏)は早稲田大学政治経済学部と慶應義塾大学の大学院で、授業のお手伝いをしたことがある。授業の冒頭でウェストファリア条約、広島への原爆投下、真珠湾攻撃、ソ連崩壊などの年号を書きなさいという小テストを行った。正答率は早稲田が5.0%で慶應が4.2%だった。……学生たちの半数は、入試で世界史を選択している。受験競争に強い、成績のよい学生たちだ。なぜこんなことになってしまうのだろうか。……筆者は学生たちにこう言った。
 「こういう状態になる理由はおそらく2つある。第一にみなさんは受験勉強が嫌いだ。第二にみなさんは受験勉強には意味がないと思っている。人間は嫌いで意味がないことは記憶しない」
 そして、客観的なデータを記憶しておくことが、外交官や新聞記者になった場合、いかに役に立つかという話をした。"  ー佐藤優『読書の技法』

 元々勉強に自信があった私は、青春を受験に捧げたために、どこかで勉強が嫌いになっていました。また、勉強が人生の役に立つとはあまり考えていませんでした。受験を征するために必要だからやっているに過ぎない、という感覚だったんです。そして、入学後に出会った同級生たちは、ほとんどが都会の有名進学校の出身で、たいして苦労もせずに受験を勝ち上がってきた猛者ぞろいです(冷静に考えれば浪人生も沢山いるのでそんなはずは無いのですが、当時の私にはそう見えていました)。次第に勉強そのものにコンプレックスを感じるようになり、大学の勉強からも撤退してしまったのです。この頃の私が佐藤氏の小テストを受ければ、おそらく彼らと同じような得点になったことでしょう。

 そのような状況にあった私は、佐藤氏の言葉で救われました。「私だけじゃないんだ」と。高校で頑張ってきた勉強は人生の役に立つと考えて良いし、忘れていても十分取り戻せる。そして、基礎知識をつけた上で、一歩一歩積み重ねるように読書をしていけば、世界のこと、日本のこと、社会のこと、そして自分のことが客観的な視点から見えるようになる。誰のものでもない、自分で自分の道を歩いていくことができるようになる。絶望は希望に変わりました。

 読書の方法論について、そして勉強は人生にとって意味があることについて指針を得た私は、その後の大学生活で1,000~1,500冊ほどの本を読み漁るようになります。小説はもちろんのこと、歴史、思想・哲学、政治、経済、文学、言語学、情報科学、自然科学、国際情勢と幅広く読むようになりました。無事に大学3年生に進学してゼミに入ったり、佐藤氏の国家観に共感して国家公務員を目指すようになるのはまた別のお話(いつか記事にしようと思います)。一冊の本との出会いが、人生を変えたのです。

3 KH版「学びの動機付けマップ」

 では実際に、これまでお話したことを読書猿氏の案内に従いながらマップに落としこんでいきます。

① 学びのきっかけとなった出来事を探す

 「人生を変えた一冊の本」…佐藤優『読書の技法』と出会ったこと。

② その出来事の影響範囲をマッピングする

(影響1) 勉強をすることは将来にわたって意味があることだと確信を持てた。また、嫌いになりかけていた勉強を好きになることができた

(影響2) どのように読書をし、一歩一歩積み重ねていけばいいかについて、地図を手に入れた

(影響3) 社会の中で実際に生きる上で、国家公務員になって社会に貢献するという目標ができた

③ 影響の評価を行う

 ポジティブな影響かネガティブな影響かを評価します。

(影響1) ポジティブ

(影響2) ポジティブ

(影響3) ポジティブ&ネガティブ

④ 評価に理由付けをする

 それぞれの評価について、理由を具体的に吟味することで、学び続けるための動機付けに利用できるようにします。

(影響1) 勉強に前向きになることができたのは、純粋に良い影響だ。すでに社会人になって久しい現在、いつでもこの点に立ち返り、余暇の時間に勉強をするモチベーションを得ることができる。

(影響2) 独学をする最大の武器は読書であり、その方法論をひとつでも確立できたことは純粋に良い影響。『独学大全』を利用する際も、白紙から取り組むのではなく、自分の読書術に少しずつ付け加えていくという方法が採れる。

(影響3) 大学生の早い時期に人生の目標ができたのは僥倖だった。ただし、佐藤氏への憧れが大きすぎて、外交官という仕事に過剰な憧れや期待を抱くようになってしまい、後に脱却するのに苦労した。ポジティブとネガティブの影響は両方あると言える。

⑤ ①~④を必要なだけ繰り返す

選んだ出来事がなぜ自分にとってよいことかを考えるうちに、連想されることを書きだしていく。

(影響1) 社会人になってから英語の勉強を始め、大学院留学するまでに成長できたのは「勉強への前向きさ」を手に入れたおかげだと思う。夜20時頃に退社し、23時までカフェで英語の勉強、を毎日続けていた時期があった。

(影響2) 昔から完璧主義で、本は頭から順に読んでいくスタイルだったが、読書術を考慮するようになってからは「つまみ読み」など、場面に応じて様々な読み方を実践するようになり、効率が上がった。結果として、学生の間に数千冊を読むことができた(もちろんすべてを消化しきれたわけじゃなが…)。

(影響3) 大学3年生に進級してから、国家公務員試験のための試験勉強を始めることができた。それまでは漠然と「カネ稼ぎたい」「投資銀行いこうかな」としか思っていなかったが、カネより大事なことが人生にはあると20歳そこそこで確信できたのは、広範な読書のおかげだ。また、就活中に外交官への憧れを払拭できたのは、読書を通じて「自分は佐藤優にハマりすぎている。スノビズムの発露に過ぎない。他の可能性も数多くあるのではないか」と客観的に分析できたからだ。

 以上の考察を、読書猿氏の例に倣ってマップの形にまとめました。

 ここから『独学大全』を使った独学の旅が始まります。このマップは、独学のための心が折れたとき、何をするやる気も起きないときに、再びモチベーションを得るためのツールです。わたしと伴走してくださる方がひとりでも二人でもいらっしゃれば、とても嬉しいことです。

 "学びの動機付けマップは、<学びの始まり>に立ち戻り、そこから現在につながる影響を繰り返し語りなおすことで、学びの意欲と意志を育てメンテナンスする技法である。"                                                                     

 では、よい旅を。




【参考文献】

読書猿『独学大全』(ダイヤモンド社、2020年)

佐藤優『読書の技法』(東洋経済新報社、2012年)

岡田尊司『インターネット・ゲーム依存症 ネトゲからスマホまで』(文春新書、2014年)

※ヘッダー画像出典:読書猿氏のTwitterより。https://twitter.com/kurubushi_rm/status/1304718399696547841

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