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コトバでシニカルドライブ

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頭の中でたまーに構成する言葉とコトバ。 その組み合わせは、案外おもしろいとボクは思う。誰に向けるでもなく、自分の中にあるスクラップをつなげてリユース。エッセイや小さな物語を綴りま…
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#掌小説

[ちょっとした物語]朝が来るまで終わらない音楽を

[ちょっとした物語]朝が来るまで終わらない音楽を

「いいところってどこよ?」
そう尋ねても、いいからいいからと意に介さない彼女は、ラブホテルやライブハウスの並びを颯爽と歩いていく。僕はキョロキョロと見回しながらついて行く。渋谷のディープな感覚が研ぎ澄まされてた水曜日の深夜1時過ぎ。円山町の中心は、どんよりとした静かな時が流れていた。

「ここです、ここ」
テンションが上がったような高揚を彼女は見せ、僕を置いていくように階段を降りていく。ドクターマ

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[ちょっとした物語] 記憶をくすぐる檸檬の香り

[ちょっとした物語] 記憶をくすぐる檸檬の香り

ちょっと声をかけた、秋の午後。
君は照れ臭そうにボクの誘いに応えてくれた。その時の表情、その時の鼓動は、どことなく今でも心をくすぐる。

新高円寺の駅から青梅街道を渡る歩道橋。東には環七を望み、西の方には夕日が沈む。僕たちはいつもこの歩道橋の上に立つ。
薄暮の青梅街道は、いつもより車の数が少なかった。

「あ、月だ」
あちらに見える月の影に隠れた空の色。
こんな会話はどこか変だった。まもなく迎える

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[ちょっとした物語] 霜の降りる朝と

[ちょっとした物語] 霜の降りる朝と

 吹き荒ぶ風の音に目が覚める。

 布団の触りと留まったほのかな温かさが体を動かしてくれない。しかし微かに聞こえるお湯の沸く音。まもなく生活の針が動き出す頃だ。
 窓から見える空の色は、澄んでいて、冬の日のそれを一身に表していた。

 ふと目を閉じてみると、季節の環が駆け巡る。春の、夏の、秋の、それぞれの時は都合よく目の前に現れては消えてゆく。
 一瞬の光は、常に重なり合って、また季節は折り重なる

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