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「万引き家族」レビュー

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万引き家族 - Wikipedia

公開

2018年

監督

是枝裕和

キャスト

柴田治:リリー・フランキー
柴田信代:安藤サクラ
柴田亜紀:松岡茉優
柴田祥太:城桧吏
ゆり(りん、北条じゅり):佐々木みゆ
柴田初枝:樹木希林

レビュー

邦画はあまり観ないのだが、たまにはと思い視聴。

Youtubeはおろかtiktokの1分程度の動画ですらつまらなければ我慢できずに飛ばしてしまうこのご時世に、120分しっかり映画の世界の中に引き留められたことにまず感服した。
最初の万引きシーンから治と祥太が帰ってき、家族全員が揃っているところをぱっと見ただけで『あ、この家族は本当の家族じゃないな』となぜか分かった。
恐らく監督の演出が効いていたのだろうが、わざとらしい台詞や説明もないのになぜそう思わせられたのか不思議。
そういった演出のおかげで、本来複雑な相関図であり、後半はスキップしたかのように展開が速くなっていくのに、最後まで何のよどみもなくすらすらと理解できた。
地味に恐ろしい監督だ。

邦画はだいたい役者の演技で萎えることが多いが、本作はほぼ全キャストが本当にそういう人間に見えた。
リリー・フランキーの絶妙にダメな感じや、安藤サクラの諦めたような感じ、故・樹木希林のなんともいえない不気味さもとてもよかった。
佐々木みゆは本当にこの子は虐待されているんじゃないかと心配になったほど。
『なんだ、日本の俳優も捨てたもんじゃねーな』と偉そうに思ってしまったが、たぶん演出とか演技指導でこれぐらいできる役者は多いんだろう。
是枝監督が凄すぎるだけなのか、他の監督がダメすぎるのか……

個人的に好きだったのが、ちょっとした人物の言動や演出で心情や出来事、関係性を説明しているところ。
例えば駄菓子屋のおじさんの「妹にはやらせるなよ」と言う台詞で全部分かって見逃していたことを説明したり、海で祥太が亜紀の胸を見て興奮するところで血のつながった兄妹じゃないと暗示したり、ラストでみゆが母親の顔の傷を触るシーンで、この母親は旦那にDVされていてその腹いせに子供にあたっていたことを描写するなど。
説明過多のこの時代に逆行しているが、個人的には硬派で好き。

主題は「本当の幸せとは?」というかなり分かりやすいものだが、答えを明確に提示するのではなく、答えの奥へと進んでいく感じ。
後半、『貧しくとも幸せに暮らしていた疑似家族が、法や権力によって引き裂かれて逆に不幸になった。では幸せって何?……』という着地点が見えたが、そこで満足しないところが本作の妙であり、是枝監督の粘り強さだと感じた。
綱渡りの生活が終焉を迎えた幸せと不幸、元の家族に帰る幸せと不幸、嘘がバレる不幸とその先の幸せ……。
確かに、ちょっと想像すればそこまでは見えてくるが、ロマンティックな大団円の一歩手前で手綱をぐっと締め、その先のリアリズムにジャンプするには相当な胆力を要しただろう。
疑似家族崩壊後のそれぞれを不幸あるいは幸福と断定して、それだけを描いた方が間違いなく楽だし、観客受けも期待できるはず。
そこに着地せず、あえてその先のモヤの中に突進していく勇気はすごい。
久々に本当に観てよかったなと思えた映画だった。

余談だが、この「これから本当の物語が始まるというところで突然終わる」という物語は川端の呪縛なのか、それとも日本人が物語を突き詰めたらどうしてもここに到達してしまうものなのか……。
そこらへんは今後の自分の宿題になりそう。



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