見出し画像

モノは良いのに売れない!地域No.1工務店が実践する「イメージ」中心の商品ブランディング

良い商品なのに、なぜか売れない。この壁に直面する経営者は少なくないだろう。

僕が経営する東北の工務店、株式会社あいホームでも、同様の課題に向き合ってきた。

ウッドショックの影響で住宅の値上げを余儀なくされ、金額に対するお客様の納得感を得るため、家の断熱性能と気密性能を向上させ商品の付加価値を上げた。しかし、思うように新規のお客様は増えなかった

「ハード(家)」の性能は、お客様が家を購入する際の及第点にはなり得るが、動機にはなりづらい。そこで、僕たちは「ハード(家)からソフト(暮らし)」へと提案の重心を移した。

もともと、あいホームではお客様が住宅を購入したの暮らしを大切にしてきた。一方で、お客様の中には、ご自身が望む「理想の暮らし」をイメージできていないケースも少なくない。

そこで、お客様のイメージを助けることに一層注力したところ、結果的にあいホームの住宅を選んでもらえるケースが増えた。今回は、その柱となった3つの取り組みを紹介したい。


リアルな生活感をイメージさせる「KAGLOG」

最もわかりやすい例は、レンジャーモード株式会社が提供する「KAGLOG(カグログ)」の導入だ。カグログとは、「インテリアサービス」と「インテリア写真を活用した広告サービス」を融合させた新サービスである。

暮らしをイメージするための魅力的な宣材写真を開発することに目的を置いている点が、既存のインテリアコーディネートサービスとは大きく異なる。

僕の著書『どんな逆境もチャンスに変える! 環境激変でも“連続”最高益! 地域No.1工務店の「劇的に進化する」経営』でも紹介したが、なかなか売れなかった建売物件10棟が、カグログの宣材写真をWeb掲載後、次々と成約が決まっていった時は驚いた。

住宅の金額に見合った暮らしのイメージをお客様に提供することができたのだろう。北欧スタイルを中心としたインテリアコーディネートは、その物件の主なターゲット層である25〜35歳から納得感憧れが得られるビジュアルを演出できたのだ。

カグログの家具や小物を配置する前と後の比較写真

雑誌を読みながらコーヒーを飲んでホッとひと息。
陽が差し込むリビングでクッションを抱きながらくつろぐ。

そうした成功体験を踏まえ、僕がカグログに感じている最大の魅力は、暮らしの細部まで表現できる点だ。

テーブルや椅子、ソファなど、必要最小限の家具だけが置かれた部屋を見せられても、お客様は「生活感」をイメージしづらいだろう。実際の暮らしは、その人の好み習慣がつまった「小物」で構成される。

例えば、コーヒー好きな人は、毎朝リビングでコーヒーを飲むだろう。テーブルの上にコーヒーカップを置いておけば、お客様はその暮らしをイメージすることができる。

「生活感」のディテールを追求できるカグログは、お客様が暮らしをイメージするのに大きく役立っている。

多様な暮らしの需要に応える「平屋専門店」100のプラン

カグログがあいホームにフィットした背景には、僕たちがお客様一人ひとりのニーズに合わせた住宅の提案を大切にしていることが挙げられる。

その一例として、近年の平屋需要を受けてあいホームが運営する「平屋専門店」では、間取りから動線までお客様のニーズに応える100のプランを用意している。子育てファミリー層を対象としたプランや、老後を見据えバリアフリーを取り入れたプラン。マンションの暮らしやすさはそのままに、平屋生活を楽しめる1LDKのプランまでさまざまだ。

下の動画では、住環境をマンションから平屋へガラリと変えたお客様の事例を紹介している。ビニールハウスのそばを通り、道の脇に咲くスイセンを眺めながら帰宅。台所には、家の外と同じ花の香りがフワッと漂う。お気に入りのマグカップにグリーンティーを淹れ、陽が差し込むリビングでホッとひと息。バルコニーでワンちゃんとの時間を楽しむ。家の中と外が緩やかにつながっている生活は平屋ならではだ。

理想の暮らしとは何か。より鮮明に描くサポートをするうえで、家具や小物の選択肢が多いカグログは欠かせない。

当事者のリアルな声を聞き、共創する「愛犬と暮らす家」

お客様の「暮らし」のイメージをサポートするにあたって、まずは誰よりも自分が人々の暮らしを理解する必要がある。

コロナ禍で在宅ワークが普及し、家にいる時間が増えたためか、2022年頃よりペットとの暮らしをご希望されるお客様が増えた。そうした需要を受け、あいホームでは「愛犬と暮らす家」の開発に注力している。

その際に大切なのは、愛犬家のライフスタイルを知ることだ。というのも、僕はワンちゃんと暮らした経験がない。

愛犬家のリアルな声を聞く座談会を実施

そこで、合同会社アルシュが毎月発刊する宮城県のペット情報誌『ペットマガジンARCHE!(アルシュ!)』とコラボレーションを実施。「動物の家族との楽しくて新しいライフスタイルを応援する」ことをモットーとする『ARCHE!』となら、同じ方向を見ながら連携できると確信した。

現在は「愛犬のためのわがままハウス」をテーマに、読者である愛犬家の皆さんと座談会を実施し、商品開発を行っている。

愛犬との暮らしにおいて悩ましい、ワンちゃんのイタズラ。トイレの失敗。家の構造に起因する事故のリスクや、それを防ぐための試行錯誤。地震など、有事の際への備え。座談会の回を重ねるたびに、生の声を聞かなければ知り得ない、生活のリアルが見えてきた。

販促を第一目的としない、愛犬家のための広告

さらに、愛犬家の間であいホームの認知を広めるために『ARCHE!』の裏表紙に1年間、広告を掲載中だ。

『ARCHE!』は写真映えする質感の紙を採用しており、ずっと保存しておきたくなるフリーペーパーだ。被写体となった家族にとって記念になる広告にしたいという僕の思いとマッチした。

こだわったポイントは、僕たちの企業としてのスタンスを『ARCHE!』の読者に知ってもらうことだ。

僕たちは「最高のホームをつくろう。」というブランドスローガンを掲げ、その実現に向けて活動している。「ホーム」には、住宅だけではなく「ホームタウン=ふるさと」という意味合いも含まれる。

その姿勢が愛犬家にも伝わるよう「 #犬と街の未来につくす 」という決意表明を広告の中心に据えた。

こうした考えから、家の写真は添える程度にしか載せていない。広告の主役はあくまでもワンちゃんとその飼い主だ。愛犬との笑顔あふれる暮らしをイメージしてもらうための広告を意識した。

モデルハウスを、愛犬と過ごす第三の居場所に

あいホームのモデルハウスに集う、愛犬家の皆さん。

撮影は、あいホームのモデルハウスで行っている。住宅の購入を検討しているか否かに関係なく、ワンちゃんとの家族写真を撮りたい人が集まる。

愛犬家の方と交流するようになって知ったことは、意外とワンちゃんを連れて行く場所が少ないという悩みだ。もちろんドッグランなど、ワンちゃんと楽しめる場所もあるにはあるが、そうしたアクティブな場では飼い主同士の交流が盛んだ。人間同士のコミュニケーションは程々に、ワンちゃんとゆったりくつろげる場所はあまりないと聞く。また、老犬連れの方も楽しめる場所は限られる。

撮影に使用するモデルハウスは、結果的にそうした方々の需要にマッチし、ワンちゃんと飼い主がゆったりく過ごせる場所となった。

テラスには、ゆっくりコーヒーを飲めるスペースもあり、愛犬家同士が緩やかにつながっていっている。緩やかなコミュニティを介して、徐々にあいホームの認知がペット界隈に広まっていく流れが生まれつつある。

僕のリアルな実体験を生かした、サウナのある家

ペット需要に加え、近年、僕が注目している需要がもう一つある。

そう、サウナだ。何しろ、僕は社内で知らない者はいないほどのサウナ好きだ。

僕が13歳の頃から入っていた実家のサウナ。ここでよく本を読んでいた。

昨年、宮城県に大きなサウナ施設や、サウナ付きスーパー銭湯ができた。これほど大規模なサウナ施設が建ったのは世の中の需要が大きいことの表れで、ことさら寒い地域においては今後さらに広がっていくことが予想される。

大変魅力的な施設だが、人気の公衆サウナにはデメリットもある。コロナ禍の名残でサウナでの会話を控える風潮があることに加え、混雑する時間帯に行くと待ち時間が長くなかなかリラックスできない

自宅にサウナがあれば、いつでも好きな時に、好きな人と会話を楽しみながらくつろぐことができる。男女分かれている公衆サウナと異なり、例えば夫婦で楽しむことも可能だ。

では、ホームサウナは、そこで暮らす人にどのような「体験」をもたらすのか。健康や癒しに加え、深いコミュニケーションだと僕は考える。

実際に、お客様の中には2人以上でサウナを利用したいという方が多いように感じる。

夫婦の会話。親子の会話。友人との会話。

サウナ着、あるいはほとんど裸の状態で、汗をかきながら話す内容は、レストランや料亭でテーブルを挟んで話す内容とは大きく異なる。

これは、僕の実体験に基づく考えだ。ある時、初対面の相手と会う場所として、サウナが指定されたことがあった。いわゆる「サ会」と呼ばれるスタイルで、飲み会で酒を飲む代わりにサウナに入るイメージだ。

そこで過ごした時間は、圧倒的に濃かった。体感としては、飲み会3回分の人間関係を構築する効果がある。表面的な会話は抜きに、早々に深い話ができた体験は、僕にサウナの大きな可能性を教えてくれた。

住宅の性能あっての、暮らしの提案

モノは良いのに売れない。大切なのは、商品の良さを伝える以上に、商品を使って得られる「体験」をお客様にイメージしてもらうことだ。

住宅販売における「体験」とは「暮らし」だ。この記事では、そのイメージを創出するために僕たちが実践している3つの取り組みを紹介した。

  • 小物を使ったリアルな演出で、お客様の暮らしのイメージを助ける

  • 顧客層のライフスタイルを知り、暮らしの提案にリアリティを持たせる

  • 自らのリアルな実体験を通して、お客様に暮らしのイメージを届ける

ただし、商品自体の価値を向上させることに意味はないのかというと、当然ながら決してそうではない。

あいホームの例だと、家の断熱性能と気密性能を上げたことは、確実にお客様のためになる。特に東北地域においては、冬でも暖かく過ごせる家は欠かせない。

「ハード(家)」の提案と、「ソフト(暮らし)」の提案。あいホームの事例においては、マーケティング効果が高いのは後者だが、最終的にお客様からの信頼を支えるのは、高性能な「ハード(家)」だ。

僕たちは今後も良いモノづくりを追求しながら、その価値を最大限お客様に届ける「体験」を増やしていきたい。


商品のブランディングに注力する前段で、僕たちはまず「この会社から家を買いたい」とお客様から思ってもらえる企業を目指し、全社で企業ブランディングに向き合った。こちらの記事でその過程を紹介しているので、ぜひ覗いてみてほしい。

編集/三代知香

この記事が参加している募集

東北をもっともっともっと面白くしていきます!!!!!!