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【連続不定期更新小説】どうして僕らは分けてしまうのだろう ‐選択はしなければならないが、そのとき必ずしも明確な理由をもてないものだ-

今の世界と少し似ている、何年か先の未来を舞台にした小説です!
一応2話目ですが、単体で読んで頂いても大丈夫な内容にしています。
1話目は以下から読めます。読んで頂けたら嬉しいです!

理由がなくても選んで、そして働かなくてはならない

自分の得意なことよりも、苦手なことのほうが、すぐに思いつく。
どうしてだろうか。
自分ができることよりも、できないことのほうに目を向けるようになってしまったのは、いつからだろうか。
幼いころに、何か下手なことをして、親か誰かに叱られたときからだろうか。

とりあえず、俺は学校に通う時期を終え、社会人として働いている。
社会人二年目の俺は、中堅企業の経理部オンライン枠で勤務している。

数年前、感染力の強い病が世界中に流行した。その後、感染が収束した後にもオンラインツールを積極的に活用する人々と、病が流行する以前のようにオフライン重視の生活に戻る人々に分かれるようになった。
企業においても、オンライン・オフラインどちらを主とした勤務であるかが、勤務形態に明記されるようになった。それは、募集要項に勤務時間や要求する資格を記載することと同様に当たり前のこととなった。教育に関しても、一定の年齢に達した学生は、オンラインまたはオフラインの学習プログラムを選ばせられ、その後該当する教育を受けるようになった。
この進路選択は「オンライン・オフライン選択」と呼ばれるようになった。

企業では、正社員か非正規社員か、営業か事務か、という区分けよりも、オンライン・オフラインどちらの枠の採用か、といったことのほうが、人生に影響を与えるようになってしまった。
何しろ、どこで働くか、何をするかさえ異なるからだ。
また企業によっては、オンライン・オフラインいずれであるかということが、出世競争にも大きく影響するようだ。長年の歴史を誇る大手企業では、オフライン枠として勤務し、会社に足を運んだものが、上位の役職を得る傾向がある。一方、近年設立されたスタートアップでは、オフライン枠の採用者でも出世するものは多い。

雇用形態や職種よりも大事な選択であるオンライン・オフライン選択を、俺は、大勢の目の前で話すのが苦手だからという理由で、オンライン枠を選んだ。

仕事はあまり苦ではないが、あまり楽しくもない。
大勢のオンライン枠と同様に、自宅兼職場からパソコンで作業する。始業時間の少し前に起きて、顔を洗い、朝食代わりに野菜ジュースを飲み、パソコンを起動して就業を開始する。
俺は、オフライン枠の営業がとってきた注文データを確認し、書類を作成する。伝票や請求書、納品書などを作成して、上司に電子署名を依頼し、それを各営業担当者に送付するのが主な仕事だ。
別に俺は伝票処理や書類作成がやりたくて、経理部オンライン枠を希望し、配属されたわけではない。
単にあんまり初対面の人と話したり、大勢の前で何かを言ったり、ということがなさそうだなという理由で、苦手なことや嫌いなことを避けた結果、なんとなくこの仕事をするようになっただけだ。
伝票処理や書類作成がとても得意というわけではないが、経理や会計を極めたいというほどの熱意はない。

というか、特にしたいこと、夢や目標と呼べることもない。

会計士や簿記などの資格を自ら進んでとることもせず、暇な休日に他にすることがないときに、ただ気休め程度にたまに勉強するくらいだ。
熱意も努力も足りないためか、仕事の評価も中程度だし、能力もその評価に見合っているだろう。

ほぼ定型となりつつ作業を全うし、本日の業務内容を指定のサイトで報告すると、終業となる。
仕事を終えた後、明日グループワークを含めた社外研修があることに気づく。勤務時間内の行動が制限されることを想うと、少し億劫な気分になる。働いた後に自炊をするのも面倒だし、飲食のデリバリーサービスを利用して、野菜入りのファーストフードでも頼もうと思い立つ。
俺はスマートフォンを操作してレタスやトマトを挟んだサンドイッチを数個注文し、音楽を聴きながら、自転車に乗った配達員が夕食を届けに来るのを待った。

(つづく)
※数あるコンテンツのなかから、本作を読了いただき、ありがとうございます!続きの3話目はこちらです!


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