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世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?

少し前に話題になったこの本、めちゃくちゃ面白かったのでまとめてみました!

初めに本書の結論を述べておくと、今日のような複雑で不安定な世界ではサイエンス重視の意思決定ではビジネスの舵取りができない。なので、世界のエリートはアートスクールに通う、美術館に通うなどして「美意識」を鍛えているということです。

本書にはその理由と具体例が数多く書かれています。

このnoteは本書の構成と同じ構成でまとめていますが、他にめっちゃわかりやすい図解も見つけたので、こちらもぜひ参考にしてください!

1. 論理的、理性的な思考の限界

私たちはビジネスにおける意思決定で、「論理的」「理性的」であることを「直感的」「感覚的」であることよりも重視する傾向があります。

しかし、ソニーのウォークマンの誕生は経営陣が欲しいものを作ったことによるもので、当初は現場のマーケターから売れないと猛反発を受けたそうです。その後の結果は周知の通り。。。

このように直感的、感覚的な意思決定が成功を生み出した例はたくさんあります。また「論理的」「理性的」である意思決定には膨大なリサーチとそれによる裏付けが必要であり、この変化の激しい時代に対してあまりにも時間がかかりすぎるという欠点があります。

そして、その結果生み出される意思決定は競合他社と全く同じものになり、結果的に差別化できず、そのままレッドオーシャンでの競走に突入してしまうというのが今の日本企業に起きている問題です。

経営には「アート」「サイエンス」「クラフト」3要素が不可欠です。

アート
組織の創造性を後押しし、社会の展望を直感し、ステークホルダーをワクワクさせるようなビジョンを生み出すもの

サイエンス
体系的な分析や評価を通じて、アートが生み出したビジョンに現実的な裏付けをするもの

クラフト
経験や知識をもとにビジョンを現実化するための実行力を生み出していく

しかし、これらの主張を同じ土俵で戦わせると、アートはサイエンスとクラフトに勝てません。なぜなら、議論にはそれを裏付ける再現性が求められ、それこそがまさにアートと対極になる考えだからです。

なので、これら3つをバランスさせる方法としては以下の方法しかないと本書では語られています。

トップに「アート」を据え、左右の両翼を「サイエンス」と「クラフト」で固めて、パワーバランス均衡させる

2. 巨大な「自己実現欲求の市場」の登場

フランスの思想家、ジャン・ボードリヤールは1970年にこのように指摘しています

人々は決してモノ自体を(その使用価値において)消費することはない。理想的な準拠として捉えられた自己の集団への所属を示すために、あるいはより高い地位の集団を目指して自己の集団を抜け出すために、人々は自分を他者と区別する記号として(最も広い意味での)ものを常に操作している

つまり、先進国ではモノの消費が機能的な利便性を手に入れるというより、自己実現のための記号獲得という側面が強くなっていたということです。

これが提唱されたのが50年前、そして今はグローバル市場において当時の新興国はめざましい発展を遂げています。

現代のグローバル市場は「自己実現的便益のレッドオーシャン」になりつつあるということです。

では、自己実現のための消費とは?

本書ではMacbookの例が挙げられています。同じスペックのPCが無数に存在する中Macbookを選ぶ人は、「Macをカフェでカタカタする自分」をイメージして買っている側面があるということです。

全ての消費はこのようにファッション化していくだろうということです。
そのものを使っている自分に、自分はこういう人なんだという意味を付け加えるという感じです。今のSDGsをサポートするファッションを身につけるZ世代にも近いものがありますね。

では、そんな意味を感じさせる商品を生み出すためにはどうすればいいか?やはり、そこには企業の美意識が大きく反映されるということです。

3. システムの変化が早すぎる世界

システムの変化が早すぎる現代では、法整備が追いつかない例が多発しています。DeNAのコンプガチャ問題、キュレーションメディア問題は記憶に新しいかと思います。こうした例も、事業が開始した際には明確にビジョンがあったはずですが、利益を追求していくにつれて次第に法に違反しない範囲のギリギリのラインを攻めるようになり、最終的には後出しでできたルールによって裁かれるという事態になりました。

システムの変化にルールの整備が追いつかない現代においては、個人あるいは企業の「美意識」に基づいた意思決定をしていかなければなりません。

そして、社会において大きな力を持つエリートこそ「美意識」を持たなければなりません。先述の事件、政治的な紛争や人道問題もエリートによってもたらされているのです。

4. 脳科学と美意識

脳科学的な観点からも、我々は意思決定の際に直感的感情に基づいて無数の選択肢のなかからあり得ないオプションを排除し、残った数少ない選択肢の中から「理性的」「論理的」な思考によって最終的な選択肢を選ぶそうです。

この意思決定の最初の段階に用いられる直感を研ぎ澄ますために、近年注目を集めているのがマインドフルネスです。

マインドフルネスで今の自分に起きている細かい変化に意識を向けることができれば、それが深い自己理解につながり、より一層精度の良い直感が得られるということです。

5. 受験エリートと美意識

受験勉強での競走に打ち勝った受験エリートは、極めてわかりやすい階級性の競走で勝ち上がってきた経験があります。この構造と、オウム真理教の階級制度は非常に酷似していて、教団幹部に凄まじく高学歴な人材がそろった一つの要因であると筆者は述べています。

類似した考え方は、戦略コンサルティングファームや新興ベンチャー企業にもあります。

ハンナ・アーレントは著作「イェルサレムのアイヒマン」で「悪とは、システムを無批判に受け入れること」であり、これは誰にでも起きうることだと述べています。

では、どうすればシステムの暴走を防げるか?

システムへの反発を行なってきた代表的な例はテロ組織、ヒッピー、学生運動などです。これは現行のシステムに適応できなかった人たちが行うもので、彼らは自分たちが適応できなかったシステムを自分たちのシステムに置き換えようとします。

それが何も変えることができなかったことは言うまでもありません。

重要なのはシステムの要求に適用しながら批判的に見ることで、システムを修正することです。それができるのは、システムに適応できた人間のみです。

それこそがエリートです。エリートの最大の武器はシステムへの適応能力です。その能力の高さゆえに、エリートになれたとでもいうべきでしょうか?

現行システムを無批判に受け入れ邪悪を生み出すのも、批判的な視点から修正していけるのも、そのシステムに適応したエリートのみなのです


6. 美のモノサシ

本書で繰り返し述べられている「美意識」とは、自分なりの「真・善・美」に関する基準です。

そして、それぞれには「客観的な外部のモノサシ」と「主観的な内部のモノサシ」があります。

「真」に対する外部のモノサシは論理、そして内部のモノサシは直感です。

「善」に対する外部規範は法律、内部規範は道徳や倫理です。

では、「美」に対する外部のモノサシは何か?市場です。

これが市場にあったデザインの商品を作成すると言う典型的な方法です。この場合、デザインの良し悪しは市場(顧客)の美意識に依存したものになってしまいます。

市場自体の美意識が育っていない場合、そこに合わせた商品作りをしてしまうと、別のより美意識が成熟した市場で作られた商品にやがて競り負けてしまいます。

なので、自分たちの美意識に基づいた商品開発をして、市場が規定する「美」ではなく、自分たちが規定する「美」を追及する必要があります。

7. どう「美意識」を鍛えるか?

アインシュタインがバイオリンをいつも携帯していたこと、ガリレオガリレイが水彩画を身につけていたことなどから、科学的な業績と芸術的な趣味には無視できない関係性があるそうです。

ではどうやって美意識を鍛えるか?

絵画を見る
絵画を見て、そこに何が描かれているか?何が起きていて、これから何が起こるのか?自分の中にどんな感情や感覚が生まれているのか?
これらを言葉にすることで「見る力」が養われます。

専門家として能力を高めていくというプロセスでは、過去の経験からパターンをを探り当て、それを解放として当てはめていくと言うパターン認識力を高めていくことです。

しかし、それに頼りすぎるとただ純粋に対象を見ると言うことを怠ってしまいます。例えば、野に咲く花をみて、その花の種類や名前がわかった時点でそれ以上を見ることをやめてしまう。

その花の色や香りまで深く味わうと言う経験をしないということです。

哲学に親しむ
欧州の名門校では必ず哲学が必修となっています。
哲学から学ぶことができるるのは、その時代において支配的だった考え方について、哲学者がどのように疑い、考えたかというプロセスや態度です。

ロックンロールにも同様の姿勢を見ることができます。

前述のシステムに適応しながら、そこに疑問を投げかけるというスタンスを学ぶことができるのです。

文学を読む
オウム真理教幹部に共通していたのが、偏差値は高いけれども美意識が低いことです。そして、彼らはほとんど文学を読んでいなかったということです。

文学を読まないと危険思想になると言うわけではないですが、文学から美的感覚を養えるのは言うまでもないでしょう

詩を読む
リーダーシップと「詩」は共にレトリックが命であると言う点で共通しています。レトリックとは文章やスピーチなどに豊かな表現を与えるための一連の技法です。

特にメタファーは少ない情報量で豊かなイメージを伝達するための技法で、リーダーシップを発揮することにとても有効です。

8.まとめ

VUCAと呼ばれる現代の複雑かつ不安定な世界では、論理的思考のみで意思決定することはできません。

論理的かつ理性的に判断してしまうと、意思決定に時間がかかりすぎる、競合と差別化できない商品を生み出してしまう。と言う問題が発生し、結果としてモラルを欠いたビジネスや労働環境が生み出されてしまいます。

筆者は決して論理的、理性的な思考を否定しているのではなく、現代はそこに比重が偏りすぎていることを問題点として指摘しています。

現行システムに適応したエリートが、美意識を養い、それに基づいた建設的な批判をしながらシステムを改良していくことが大事だということです。

そこに気づいたグローバルエリートは、美意識を日々鍛えているのだそうです。

みなさんも今日から少しずつ、自分の美意識に目を向けてみてはどうでしょうか?

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