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【私の仕事】 忘備録(78)韓国アカスリ『日本語学習ルーム』

◆この記事の内容:

韓国アカスリ(メンズエステ)店の部屋を使って日本語を教える「学習ルーム」をしたことを書いています。


【私の仕事】 忘備録(77)最強の顧問たち  からの続きです。


顧問からアドバイス

顧問からは「もし警察に声かけられてもな、自分にやましいことがなかったら無視したらいいねんで。俺やたったら、職質されても絶対相手にせーへんよ。まっ、なんか困ったことがあったら俺にラインして。」と強気なアドバイスを頂いた。

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でも、実際、僕はそういうわけにはいかない。日頃、地域のまちづくりボランティア活動で協力してるし、地域の防犯対策では逆にお世話になってることもある。

こんなこともやりながら、ちょっとあやしい「K」店と関わるようになった。

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韓国アカスリ「K」店に向かう

広告動画撮影の依頼があったので、昼に起きて、午後から自転車で「K」店に向かった。30分以上かかるが、車で行くと駐車場が空いてなくて不便なことがあるので、健康をかねて出来るだけ自転車を乗るようにしている。

店の前に自転車を停めて、ドアを開けようとすると、Kちゃんが出てきた。

僕:「今日、広告の動画撮影する?」

Kちゃん:「あたし、今から病院。あなた、一緒に来る。」

僕:「病院?近く?どっか悪いの?」

Kちゃん:「あなた、ついてくる。」

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Kちゃんは自分の自転車を出した。僕にその後をついてくるように言った。

病院に向かう途中、道頓堀を過ぎたところで、Kちゃんは言った。

「あなた、宿題。みるみる。」

僕:「宿題?ああ、日本語学校の?」

Kちゃん:「そう。明日、先生に出す。」

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ちょっと怪しげな小さなクリニック

動画撮影はどうするのかな?と思ってるいうちに病院についた。病院といっても、雑居ビルの中にある小さなクリニックだ。店から自転車でくるほどの距離ではない。

Kちゃん:「自転車、ここに置く。」

歩道だ。道頓堀で路上駐車したくないが仕方ない。Kちゃんはいつもそこに停めているのだろう。

エレベーターで上がっていくと、そのクリニックに着いた。入口に中国語とベトナム語で「診察の前に必ず健康保険証を提示ください。」と書いてあるのが、文字の雰囲気でわかった。

Kちゃんは健康保険証を持ってるのかな?とちょっと心配になったが、受付でちゃんと渡した。

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ということは、日本人と結婚しているのか、それとも、していたのか。。。

平日の4時過ぎだったが、中国人、タイ人、その他アジア系の人、8名くらいが待合室で待っていた。

Kちゃんと僕はその待合室で呼ばれる順番を座って待っていた。Kちゃんは背が高く派手な服装なので、待っている人たちは物珍しいのか皆、Kちゃんをじっと見ている。日本人だったら、他人をじっと見るようなことはしないと思うが。。

その小さなクリニックには日本人の30歳くらいの看護婦さんが2名いて、そのうちの一人が受付もしていた。

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Kちゃんの日本名

しばらく待っていると、Kちゃんの順番のときに、その看護婦さんが、

「〇〇 〇子さん、こちらへどうぞ。」と呼んだ。

へぇー、日本の苗字、名前はそうなのか。。。とそのとき初めてKちゃんの日本人名を知った。〇子って、日本人によくある名前だ。

Kちゃんは注射を打ってもらったようだ。診察室から戻ってきた。二の腕のところに脱脂綿がテープで巻かれている。

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当然ながら、支払うときも、また待合室で待つんだろうなぁと思っていたら、Kちゃんは受付の看護婦さんに、「いくら?」といいながら、1万円を出した。

看護婦さんはKちゃんに、日本の苗字で「〇〇さん、順番やから、ちょっと待って。」と言った。でも、Kちゃんは無視して、「いくら?足らない?」と言いながら、サイフから数千円出した。

看護婦さんは仕方ないなぁという顔をして、他に順番で待っている人がいたが、先にKちゃんの支払いを処理した。

順番を抜かされたアジア系の人は、むっとした顔をしていたが、Kちゃんはまったく気にしていない。メンタルが強い。

僕はこんなことはできないなあ。。と思いながら、Kちゃんに聞いた。

僕:「なんの注射?」

Kちゃん:「栄養剤。月に2回するの。」

僕:「マジ? 月に2回!注射のお金、けっこう高いね。保険きいてる?」

Kちゃん:「わからない。」

会うたびに「病院について来て。」というのでKちゃんが病院に行くときは必ず付き添いをした。日本語が完璧でないKちゃんとにとっては看護婦さんから難しいことを言われたときに、僕がいたほうが都合がいいのかもしれない。

うつ病の薬

Kちゃん:「あたし、うつ病の薬も、この病院でもらってるの。」

うつ病を直す薬はないので、「精神安定剤」のことだと思う。僕もうつ病のとき、飲んでいた同じ薬が、Kちゃんの店の机の上にいつも置いてあった。

取引先のエステ店の3人の中国人ママさんたちも「うつ病」又は「うつ症状」だ。安定剤をいつも薬を飲んでいる。

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メンズエステ店は夜中まで営業するので、ママさんたちはどうしても睡眠が不規則になる。これがひどくなると、睡眠障害になり様々な不調を身体におこす。

僕の場合は、クリニックで「あなたの場合は、長年の不規則な睡眠不足がきっかけでうつ病が発生したと考えられる。」と診断されました。

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僕はKちゃんに「余計ななことかもしれないけど、Kちゃんのうつ病は睡眠障害が原因やと思う。お店、24時間営業やろ。あれ、やめたら? 早朝はお客さんも来ないやん。」と言った。

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Kちゃん:「あなた、知らないだけよ。この前、朝5時に韓国人のお客様来たんだから。眠かったけど仕事したわ。それと、あたしのうつ病のこと、誰にも言っちゃダメよ!」

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そんなことを話しながら、病院を出てお店に向かった。


セクシーなコスチューム

韓国アカスリ「K」店に戻ると、Kちゃんは、「ちょっとここで待ってて。」といって僕をマッサージルームに案内した。

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狭い3畳のカーペットの部屋にマットが敷いてあり、オイルやタオル、タバコや灰皿もあった。

しばらくして、Kちゃんは店用のコスチュームに着替えて、重そうな手さげバックを引きずりながら、マッサージルームに入ってきた。

胸元の大きく開いた黒いミニのワンピースだ。個人的にはとても好みのスタイル。

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僕は「これ、店の服?いいじゃん。めっちゃセクシーやん。」と言って、

舐めまわすように見ているうちに、「K」店に来た目的を思い出した。

そうだ!今日は店の広告動画の撮影に来たんだ。

僕:「今から、そのコスチュームで動画を撮ろう!」

Kちゃん:「今、ダメ。これ教えて。」

と言って、カバンから日本語のテキストと日本語学校の宿題プリントを出した。分厚いテキストには「N3」となっている。

僕:「日本語検定何級、もってんの?」

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Kちゃん:「今度、3級の試験受ける。3級は合格すると思う。先生も大丈夫って言ってるよ。はやく2級を受けたい。」

そりゃそうだろう。3級は受かるだろう。そうでなかったら、日本で店長なんかできない。


日本語学習の好きなKちゃん

Kちゃんは、日本語の勉強が好きなようだ。ノートも数冊、見せてもらった。日本語の活用形のところの紙がボロボロになっていて、日頃から真面目によく学習しているのがわかった。

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宿題は分からないところだけ質問してきた。カタカナの日本語がよく分かり難いらしい。これは、他の店のエステの中国人ママさんも同じことを言ってた。

つまり、カタカナ英語(和製英語)のこと。「パソコン」や「テレビ」などの単語はわかるが、「システム」や「コース」という英語から転用された日本語(カタカナ英語)は、本来の英語の発音から大きく異なる。

日本語特有のアクセントのない発音や読み方。Kちゃんは英語を少し話すので、カタカナ英語(和製英語)が余計に分からなくなる。

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宿題の中で、「・・・コックをちゃんと閉める」というのがあった。

Kちゃんは「コックって料理する人って教えてもらったんだけど、この文、変じゃない?」

そうか、、そういうことか。。中国人が日本語で困ることは。。。

「コック」も英語なら綴りが「cook 」と「cock」で違うので説明しやすいが。。。

海外で日本語の先生をしている友達がいるが、たいへんだろうなあと感心した。


日本語学習ルーム

とにかく、疑問に思う宿題の日本語を一つ一つゆっくりと丁寧に教えてあげた。マッサージルームが『日本語学習ルーム』になった。Kちゃんは理解がはやい。3級のレベルはまったく問題ないようだ。

Kちゃんから、なりほど!と思う質問をされた。

「今日、生憎(あいにく)を学校で習ったのよ。『会いに行く』と発音がまったく同じ。」

「違うよ。『会いに行く』の方が、1つ「い」が多い。」

「えぇ???」

「読み方をローマ字で書いたら分かるよ。」

「あなた、書いてよ」

仕方ないなあ、もう。ノートに書いてあげた。

「ほんとだ!い(i)が1つ多い。でも、わたし、英語嫌い。」

「英語じゃないよ!ローマ字!Kちゃん、自分で英会話のアプリで毎日、レ練習してたやん。」

「あぁ、あれね。毎日、やってるわよ。」

「何、覚えた?」

「Are you hungry?」

「そんなん、覚えてどうするの! マッサージして欲しいお客さんに、『お腹減ってますか?』って。。変な意味にとられたら、Kちゃん、対応できるの?」


Kちゃん:「????? それにしても、あなた、日本語上手ねぇ。」

僕:「まぁね。こう見えても日本人やからな。」

と微妙な返し方をしたが、Kちゃんからリアクションは何もなかった。

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Kちゃんの京都の友達

Kちゃんには京都に仲のいい友達がいる。

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Kちゃん「京都の人って、アクセント違うし、なんか大阪と日本語、違うよね?」

僕「日本語は同じだよ。でも、言葉通りの意味ではないな。」

Kちゃん「どういうこと? あの子(友達のこと)とLINEしてるとき、いつも意味が分からないときがあるの。」

僕「言ってることと「反対」の意味って思ったらいいよ。」

Kちゃん「反対? 反対のことを言うの?京都は?」

僕「例えば、『おたくのお嬢ちゃん、ほんま、ピアノ上手にならはりましたなあ。。』ってどういう意味やと思う?」

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Kちゃん「そんなん、簡単よ。ピアノが上手の意味やん。」

僕「いや、それが違うんや。ピアノの音がうるさいから、弾かないで!が正しい意味。」

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Kちゃん「はぁ?」

僕「はぁ?やろ。俺もそう思う。京都の人が話すことは俺も分からない。不得意や。」

Kちゃん「わたし、絶対、理解するの無理よ。」

僕「ピアノは、意味が分かったとしても。。。「マスク足りてる?」は理解できない。」

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Kちゃん「何それ?」

僕「今、コロナでマスクが日本で足らんよね。東京は人口が多いから感染人数も多いし、マスクも足りない。京都出身の友達が、今、東京で仕事してるんだけど、実家の京都に帰るとき、お母さんに「次の週末、帰ってもいいかな?」って電話した。そしたら、、」

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Kちゃん「ふんふん。」

Kちゃんは日本語の勉強が好きなので真剣に僕の話を聞いている。。

僕「お母さんは、友達に、つまり、息子に「東京も大変やな、マスク足りてる?」って言った。そしたら、その息子は「帰ったらアカンのか。。」と解釈して、京都の実家に帰るのをやめた。これ、どういうことか分かる? 「解釈」って日本語は知ってるよね?「理解」のこと。」

Kちゃん「はあ?全然分からない。」

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僕「実は俺も分からない。そんなふうに母親に言われて、俺やったら、マスク足りてたら、「大丈夫や。」って言って帰る。もし、マスクが足りてなかったら、「帰ったとき、マスクちょーだい」って言って帰るわ。どっちにしても帰るよ。

「マスク足りてる?」が、なんで「帰ってこんでいいよ。帰ってきたらダメ。」を意味するなんて、日本人の俺でも想像できないよ。」

Kちゃん「京都の日本語って、難しい。。」

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僕「Kちゃん、大阪で暮らしていてよかったね。大阪人はそんな分かり難い言い方しないよ。Kちゃんの京都の友達には、「ストレートに言って!」って言ったらいいよ。」

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Kちゃん「ストレートって何? 単刀直入?」

僕:「『単刀直入『』の意味、分かるの?すごいな。日本語検定3級は大丈夫だね。」


チャイエス「S」のママさんに感謝

そうこうしていると、店のドアが開いた。お客さんだ。

Kちゃん:「今日、一人目のお客さんよ。」

僕:「よかったね。また来るよ。」

もう夜11時過ぎになっていた。今日は病院に一緒に行ったり、宿題を教えたり、よくわからないけど楽しかったなあ。京都人の表現も教えて、喜んでもらって、こっちも気分がいい。

Kちゃんを紹介してくれたチャイエス「S」のママさんに感謝しなければ。。。

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(このとき、「S」のママさんはメンズエステ店をやめて、その店を売りに出しているところだった。)

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よし、明日も「K」店に行って、Kちゃんを撮影して、お店の広告動画を作ろう。


【私の仕事】 忘備録(79)アカスリ店を経営する学生のKちゃん へつづく。



*このnoteで書いてある記事はすべて実話です。「忘備録」として自分のために書いています。


◆ご注意:一部の記事はnoteのシステムによって18歳以上向けに分類されていますが、すべて18歳以上向けです。

よい子の皆さまは読まないでくださいね。