地方の旅を100倍味わう方法
波の音を知った衝撃
20年前くらいに遡るかも知れませんが私は高校時代の友人の住む宮崎に友人に会いに行きました。
福岡育ちの私は椎名林檎の曲「正しい街」でも歌われる”百道浜”と言われる内海を海と認識して育って来ました。
大学は広島でしたのでこちらも瀬戸内海と言われる穏やかな内海を海と認識して過ごして来ました。
宮崎へ行き、友人の趣味であったサーフィンに早朝まだ外は暗い中、海岸へと向かいました。
まだ薄暗い中、友人は海へ入る準備を始めるのですが、私はまだ視界のハッキリしない中で感じた大きな音に驚きます。
その音の正体は太平洋のうねりからくる波の音だったのです。
サーフィンが教えてくれた自然のパワー
そしてこの音の体験が原体験となり私はサーフボードを購入し大きな波が来ると言われる宮崎、高知、徳島を中心にサーフトリップする学生生活を始めました。
驚いたことに生まれ育った福岡でも大きな波が立つ日もあり、自分が生活する中で海と認識していたものの視野の狭さに驚愕しました。
私が自然の魅力、そして音が持つ力に最初に引き込まれたのはこの時であったのかも知れません。
台風がやってくるとそのうねりを求め私はサーフィンを教えてくれた師匠のような方に連れて行ってもらいその海に入るのですが、その大きなうねりから生まれる波のパワーには本当に驚愕させられました。
もちろん恐ろしい体験も何度かしましたが自然のパワーというものを強く感じさせられたものでした。
自然の音が生み出す風景とは
そんな体験をした学生時代も終え、社会へ出ると音楽に関わる仕事を始めました。
アーティストをマネジメントしたりCDを作るレーベルの仕事をしました。
そんな音楽の仕事をしていた縁からホテルのBGM創りという仕事へ繋がっていくのですが、その辺りの話は割愛したいと思います。
ホテルBGMを作っていく中で一つの出会いがありました。それは音のカケラを繋ぎ終わらないメロディを生成し続けるサウンドシステムを生み出した日山豪さん。
その日山さんとTHE BLOSSOM KUMAMOTOのBGMを創り出そうとプロジェクトを立ち上げました。
そのプロジェクトをECHOES POINTと呼びますが。
このプロジェクトにおいて熊本の音をたくさん集めようということになりました。
熊本の音とは何かという問いを立て、キーワードをたくさん並べていきました。
日本有数の地下水が豊かな場所、そして阿蘇山という火山が生み出した岩石、など様々なキーワードが出て来ました。
そしてその音を実際に録りに向かうと今まで鳴っていたはずだけど聞こえていなかったたくさんの音が聞こえる経験をしたのです。
”音が風景を作っている””これは初めて迫力あるあの波の音を聞いたあの時の感覚だ”と以前の記憶が輪郭もクッキリと蘇って来ました。
サウンドスケープ
サウンドスケープ、音風景と呼ばれていますが音が風景を作る感覚が少し研ぎ澄まされて来てるように感じ始めた時、日山豪さんに鳥越けい子さんのサウンドスケープという本を紹介してもらいました。
この本を読んで日本人は元来、音を楽しむ体験をしていたということを知ります。
安藤広重の浮世絵に「虫聴きの絵」というものがあり道灌山(西日暮里)がその名所となり江戸から人が集まって虫の音を楽しんでいたということです。
気が付くと西洋からドレミ、いわゆる楽譜というものがやって来て、音楽という学問になり、それを聴く場所としてコンサートホールが生まれ、屋内で音を聞くことが主流となり自然の音は存在を失ってしまった、とのことでした。
大自然には驚くほど感情に訴えてくる音があるとともに旅は目だけで楽しむものではなく、音や嗅覚を含めた五感で楽しむものであると著者の鳥越けい子さんは記しています。
私は改めて”音を旅する”というテーマをより深めていきたいとこの本を読んで強く感じました。
スタートは地方の魅力をなんとかアピール出来ないかと試行錯誤した問いが伝統芸能の音としてトライし、いつの間にか自然が持つ音にその対象が広がっていきましたがこの活動を通し、私は旅がより豊かになったと今、感じています。
SHUREのマイクを対象に向け、そこから発せられる音に耳を澄ますとその場所にいるという実感が大きく増幅され、その景色を楽しんでいる実感が増していきます。
旅は五感で味わう。
使い古された言葉ですが改めてここに向き合うことでその土地の持つ魅力は何倍にも増して私たちに訴えかけてくれると思います。
一度、サウンドスケープに注目してみてください。
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