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精神科医、ツッコむ

皆さんこんにちは。鹿冶梟介(かやほうすけ)です。

突然ですが、関西出身の方って話が本当に面白いですよね!

これは、吉本のお笑い芸人のようなプロだけの話ではなく、医師においても当てはまります。

例えば、学会発表で上手に「笑い」を取るのは関西出身の医師が多く、飲み会でも関西人のドクターは「バラエティー番組の司会者」のように一人一人に話を振り、宴会を”遺漏なく"盛り上げてくれます。

関西の方って「笑い」に対する使命感(?)のようなものが生まれつき備わっているのでしょうか…(もはや本能?)。

さて今回の記事は、関西の"お笑い大国"出身の大学生を診察した時のエピソードです。

私は関西出身ではないため、関西弁の表記に間違いがあるかも知れませんが、その時はコメント欄に「ツッコミ」を入れてください!

尚、プライバシー配慮のため、論旨を変えない程度に脚色しております


【精神科医、身構える】

大学生の夏休みは長い。

国公立大学では、8月初旬の試験が終われば、9月末まで夏休みだ。

約2カ月間の休み...。

「(大学を卒業したら、定年まで2ヶ月の休暇なんてまず取れない。そんな現実を、彼らは知っているのだろうか…)」

余計な心配をしながら精神科医は、キャンパス内を無邪気に往来する学生たちの姿を窓から眺めていた。

「鹿冶先生、大学の事務から電話です。学生のことで相談したいそうです。何だか急いでるみたいですよ…。」

3回のノックの後、電話の子機を片手に保健師が診察室を覗き込んだ。

「事務から?なんだろ…?」

夏休み終了まであと10日余り…。

長期休暇が明ける直前は、若者のメンタルが悪化しやすい

精神科医は、少し身構えて電話を受け取った。


【精神科医、理由をたずねる】

学生を連れてきた大学の事務職員は、

「では、あとはよろしくお願いします」

と言い残し、診察室から足早に立ち去った。

事情は電話で既に聞いていた。

事務職員からの話の概要はこうだ..。

・1ヶ月ほど前から、「学内のグラウンドで、叫びながらペットボトルを空に向かって投げている男子学生がいる」という苦情が複数事務に寄せられた。
・事務員が現場に向かうが、怪しい学生は見つからなかったため、毎朝グラウンドを見回りしていた。
・すると今朝、それらしき学生が自転車で広場にやってきた。
・学生は自転車の籠から液体の入ったペットボトルを取り出すと、「くそー」「死ねー」などと言いながら、ペットボトルを空に向かって繰り返し投げ始めた。
・事務員が声をかけると無言で逃げようとするため、説得して診療所に連れてきた...。

「事務からは、こう聞いていますが事実ですか?」

精神科医がそうたずねると、黒縁メガネをかけた肥満気味の学生は、居心地が悪そうに背中を丸めた。

外見が、カンニング竹山氏にそっくりなので、この学生を「竹山君」と呼ぼう。

「…、はぁ...、まぁ...、だいたい合ってますわ」

「竹山君、もしよければ何故、ペットボトルを空に向かって投げていたのか教えてくれませんか?」

精神科医は、奇行の理由を尋ねた。

「… それは…、世の中がつまらんからです

しばらく間を置いて、竹山君は仏頂面で身の上を語り始めた…。


【精神科医、勧める】

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とある精神科医が経験した症例集。 笑あり、悲しみありの、ちょっと不思議な物語。 尚、プライバシー配慮のため、論旨を変えない程度に脚色してお…

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