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図書館司書の短編小説紹介

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図書館司書として多く本を扱って来た中で、一人でも多くの方と楽しみや感動を共有したいと感じた短編小説を紹介しています。
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「星々の悲しみ」(文春文庫)宮本輝著 :図書館司書の短編小説紹介

「星々の悲しみ」(文春文庫)宮本輝著 :図書館司書の短編小説紹介

 大学浪人時、予備校にあまり行かず、代わりに図書館のロシア文学やフランス文学を読破しようとの試みに時間を費やす主人公の志水靖高。
 ひょんなことから、同じ予備校に通う有吉、草間という生徒二人と友達同士になり、彼らと共に喫茶店へ行く。
 その店には、『星々の悲しみ』との題が付けられた一枚の大きな絵が入口に飾られていた。
 青々とした葉が茂る大木の下で、麦わら帽子を顔に載せて眠り込んでいる少年の絵。

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「おしゃれ童子」(新潮文庫『きりぎりす』)太宰治著 :図書館司書の短編小説紹介

「おしゃれ童子」(新潮文庫『きりぎりす』)太宰治著 :図書館司書の短編小説紹介

 自意識過剰で自己陶酔的で独善的な一時期というのは、誰にでもあると思う。
 その頃に突飛な言動をとり、数年後に当時を振り返って恥ずかしさで顔を覆いたくなる、きっと誰にでもそういう経験はあるに違いない。あって欲しい。

 太宰治の「おしゃれ童子」を読んで、まず感じたのは、自分も同じようなことをしたなぁ、との恥じらいへの同調だ。
 周囲から浮いた「あわれに珍妙な」恰好をしても、天上天下唯我独尊状態にあ

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