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図書館司書の短編小説紹介

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図書館司書として多く本を扱って来た中で、一人でも多くの方と楽しみや感動を共有したいと感じた短編小説を紹介しています。
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#谷崎潤一郎

「麒麟」谷崎潤一郎著:図書館司書の短編小説紹介

「麒麟」谷崎潤一郎著:図書館司書の短編小説紹介

 聖人が世に生まれる時、伝説の聖獣である「麒麟が現れ、天には和楽の音が聞えて、神女が天降った」という。
 その聖人こそ、本作の主人公孔子だった。
 旅の途上で彼は衛の国に立ち寄り、その君主霊公と治世について語り合う。
 霊公は、孔子の教えにより理想の政治について心を傾け始めた。
 けれど、霊公の南子夫人は贅を尽くした料理や酒、宝玉や稀少な香、また酷刑を施される罪人の姿により孔子を惑乱させようとする

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「刺青」谷崎潤一郎著:図書館司書の短編小説紹介

「刺青」谷崎潤一郎著:図書館司書の短編小説紹介

 誰も彼もが外見の美しさを求め、「すべて美しい者が強者であり、醜い者は弱者であった」時代の物語。
 美を追求するあまり、人は自らの肌に絵の具を注ぎ込むまでになった。つまり刺青だ。
 主人公の清吉は、腕ききの刺青師で、奇警(=奇抜)な構図と妖艶な線とで名を知られていた。
 そして彼は、客が肌に針を刺される時に呻き声を発するのを聞いて、「云い難き愉快」を感じる嗜虐趣味の持ち主だった。
 その清吉には、

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