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メンタルヘルス不調者対応の現場からー体調が悪い部下に事実を伝えることの価値

先日、「最近いつも顔色が良くない部下がおり、ミスも多いし成果物もあがってこない。病院を受診したり、産業医に相談するよう提案しているが、本人は大丈夫の一点張りで、困ってるんです。」という相談をいただいた。このような相談はメンタルヘルス不調者の現場では、比較的よくある。メンタルヘルス不調者の初期対応については下記の記事でも触れた。

上記の記事では、具体的な成果物の状況や、勤怠状況などの客観的な情報などの事実を元に話をし、上司の意見や評価は、その事実とは分けて話をすることをお勧めした。しかし、上記のような相談を受ける場合は、そもそも、体調の悪い部下に事実を伝えることに慎重になっていることがよくある。今回は特にこの部分について掘り下げて考えてみたい。

体調が悪そうな部下に対して、さらに体調を悪化させるような言葉や対応を避けることは、当然のことだと思われる。場合によっては、上司が加害者と思われるかもしれない。だから、本人のミスや、仕事が滞っていることを伝えることをためらう気持ちも理解できる。
一方でメンタルヘルス不調になっている部下の立場からみるとどうだろうか?体調が悪化している背景は、仕事ばかりが理由ではないかもしれないが、自分自身の状況がどの程度仕事に影響しているかを的確に把握できていないかもしれない。仕事への影響よりも、他の人の迷惑をかけるとか、他人にどう見られるか、という方に意識がいき、自分自身の仕事を冷静に客観的にとらえられていないことが多いのではないだろうか。場合よっては、「問題ない」と思いたいがばかりに、現実から目を背けていると思われるケースもよく経験する。
このように、実際の状況と不調者本人の認識が乖離している状態が続くとどうなるだろうか?
本人が認識しないところで、周囲が配慮したり、負荷を軽減をしたりすることで、状況は一時的に改善するかも知れないが、本人が自分自身で改善したり、対応したりする機会は得られず、環境が戻ればまた同じような状況が繰り返えしてしまう。場合によっては、周囲が今だけと思って配慮したり、対応したりしていても、本人にとってはそれが当たり前になり、いつの間にか「配慮してくれないのが悪い」という感情につながりかねない。

上司が相手のためにと思っていても、実は本人にとって大切な機会を奪っているとも言える。
多くの社会人が毎日鏡を見て、自分自身の今の姿を確認して身だしなみを整えるように、人が自身の考え方や行動を改善していくには、今現在の状況を把握することは欠かせない。今の状態を的確に把握できなければ、どんな改善策も砂上の楼閣と同じである。事実を伝えた直後は、相手は嫌な顔をするかも知れないが、あなたが本当に相手のことを思って落ち着いて伝えれば、きっと相手には伝わるはずた。だから、本当に上司が部下のことを思うのであれば、本人の状況をしっかりとお伝えいただきたい。


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<著者について>
野﨑卓朗(Nozaki Takuro)
日本産業衛生学会 専門医・指導医
 労働衛生コンサルタント(保健衛生)
 産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学 非常勤助教
 日本産業ストレス学会理事
 日本産業精神保健学会編集委員
 厚生労働省委託事業「働く人のメンタルヘルスポータルサイト『こころの 
 耳』」作業部会委員長

「メンタルヘルス不調になった従業員が当たり前に活躍する会社を作る」


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