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ーメンタルヘルス不調者対応の最前線ー調子が悪い部下の初期対応を考える

厚生労働省の調査によれば、過去1年間(令和3年11月1日から令和4年10月31日までの期間)にメンタルヘルス不調で休業もしくは退職した労働者がいた事業場の割合は13.3%に達しており、労働者1000人以上の事業所に限れば、実に93.5%に上る。メンタルヘルス不調は、労働現場にありふれた状態と考えられる。つまり、労働現場において、一緒に働く方がメンタルヘルス不調になることも十分考えられる。今回は、そんなメンタルヘルス不調の部下の休業について考える。

メンタルヘルス不調は、厚生労働省による「労働者の心の健康保持増進のための指針」によると、「精神及び行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活及び生活の質に影響を与える可能性のある精神的及び行動上の問題を幅広く含むもの」と定義されるが、必ずしもうつ病などの精神疾患として診断されるものばかりではない。
専門の医療機関から、うつ病など診断で休業を要する旨の診断書が発行された場合も大変だが、メンタルヘルス不調の初期対応として、診断書がでないが、部下から「眠れない」、「仕事が手につかない」などと相談を受けた時や、上司からみて、ミスが頻発している、求める成果が上がってこないなどの状況になり、対応を要することもよくある。
そのような時に、上司としてどんな対応をとるべきだろうか。

初期段階として重要なのは以下の二つである

  • 事実を元に、部下の話を聴く

  • 専門家等と連携する

事実を元に、部下の話を聴く

調子が悪そうな状況でも、必ずしも部下がそれを話してくれるわけではない。睡眠に問題があったり、体調が悪くても「大丈夫か」と上司から聞くと「大丈夫です」と答える部下も多い。職場に迷惑をかけたくない、自分の状態を認めたくないとい気持ちが深層にあることが多い。
そんな時に意識したいのが、事実を元に話をすること。具体的に上司が知りうる情報なのかで、仕事にどんな変化があるのか、勤怠状況などの客観的な情報や、部下本人が主張する睡眠が具体的にどんな問題があるのか(睡眠時間や睡眠障害の頻度など)、仕事の具体的にどこに課題を感じているのかを確認していく。その際、注意したいのは、その事実や情報と、上司であるあなた意見や評価は、分けて話をすることである。体調がわるく、うまくいっていないことは、本人も気づいているはずだが、自分でわかっていても先に相手から評価されると感じると、それを認めるにくくなる。だから、現状の事実をしっかり並べたうえで、「今の状態をあなたはどう思いますか?」と聞いてみる。そして、相手の考え・気持ちがどんなものであれ(自分が思っていたものと違っても)、「そう考えているんですね」と受け入れる。それから、改めて先ほど整理した事実を元に、上司としての考えを伝えることをお勧めしたい。

専門家等と連携する

メンタルヘルス不調への対応は、様々要因・思惑が絡み合い、さらに医学的な見地も必要になることもあり、上司だけで対応するのは難しいことが多い。早い段階で、上位職制や、人事担当者とも相談し、専門医療機関の受診も勧めたい。また産業医等がいれば、もちろん相談しておくことが望ましい。上位職制に相談すれば、より広い範囲での業務調整ができたり、上司自身の仕事をフォローしてもらえるかもしれないし、人事担当者によっては、類似のケースを経験したことがあるかもしれないし、外部機関との連携もできるかもしれない。また、専門医療機関の受診は部下が躊躇するかもしれないが、薬の処方以外の治療の選択肢もあるし、治療せずに不調が続くより、治療しているほうが安定して就業できるかもしれない。その会社に精通した産業医や保健師がいれば、今後の対応について整理したい助言をもらうためにも早めに相談しておきたい。


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合同会社活躍研究所では、企業向けに活躍型メンタルヘルス対策の導入支援を行っております。ご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。

<著者について>
野﨑卓朗(Nozaki Takuro)
 
日本産業衛生学会 専門医・指導医
 労働衛生コンサルタント(保健衛生)
 産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学 非常勤助教
 日本産業ストレス学会理事
 日本産業精神保健学会編集委員
 厚生労働省委託事業「働く人のメンタルヘルスポータルサイト『こころの 
 耳』」作業部会委員長
 
 「メンタルヘルス不調になった従業員が当たり前に活躍する会社を作る」

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