伊豆の美術解剖学者

加藤公太。解剖学および美術解剖学の教員。

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最近の記事

美術解剖学雑記

東京藝術大学の大学院生の頃、阿久津裕彦先生と美術解剖学についてよく議論していた。阿久津先生は現在造形大などで美術解剖学を教えている。たまに朝日カルチャーなどで講習会をされているので、先生のお人柄と美術解剖学観にご興味のある方は受講されると良いだろう。 現在の私の活動は、当時阿久津先生と交わしていた議論が現在までの活動の方向性の大部分に影響している。 会うたびにこちらから話を引き出す先生の話術は、傑出したものがあった。本気の話をすると、茶化した話で切り返す人が多い中、きちんと

    • 美術解剖学とは

      美術解剖学とは 美術解剖学とは、絵画や彫刻などの美術表現に応用された解剖学教育のことです。美術表現などを解析する意味の「解剖」ではなく、主に骨や筋、皮静脈、脂肪体といった人体の外形に影響する運動器の構造を学びます。昨今、画力の向上を目的とした諸学者向けの描画方法に引用されることが多いのですが、そうした内容や効果は、美術解剖学の一つの側面でしかありません。  では、骨や筋といった内部構造を学ぶと、いったいどのようなことが起こるのでしょうか。美術解剖学の効果を要約すると、人体や

      • 新たな美術解剖学の本を執筆する目的

        現代は、世界中で様々な著者が美術解剖学の教科書を執筆しています。教科書を執筆する主な理由の一つは、それまでの情報を編纂し、更新するためです。  解剖学はすでに完成した学問と捉えられがちですが、現場では現在進行形で新しい構造やそれまで知られていた構造の間違いが見つかっています。10年、20年すると、新しい知見が積み重なってきて、それらを教科書に組み込んでアップデートしていく作業が必要になります。そこで時代に応じた教科書が編纂されるわけです。  主な更新の内容としてはもう一つあり

        • note記事の移転について

          2021年より、これまでnoteで公開してきた美術解剖学の解説をPixiv FANBOXへ移行していきます。これまで公開してきた記事に関してはnoteでも引き続き掲載しますが、新たな記事はPixiv FANBOXの支援コースで公開していく予定です。Pixiv FANBOXの方には、これまで有料公開してきた記事も順次掲載予定ですので、ご了承ください。

        美術解剖学雑記

          オススメの美術解剖学書

           オススメの美術解剖学書は何か?とよく聞かれる。その質問に回答するには、どういう表現や職業に興味があるのかを聞く必要がある。現代的な教科書は業種ごとに対象を絞って編纂されているため、その対象かがわかれば自ずとオススメの書籍が選べるようになる。ここでは、それぞれの美術解剖学書の特徴と日本で入手しやすい代表的な美術解剖学書を数点紹介する。(*ヘッダー画像は未紹介の書影も含まれます) アーティスト向けの美術解剖学書 読者が最も多いのが、「アーティスト向けの美術解剖学書」である。内

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          オススメの美術解剖学書

          エコルシェの練習3

          フランスの彫刻家ジャン=アントワーヌ・ウードン(Houdon, Jean-Antoine. 1741-1828)による史上最も有名なエコルシェ。 このエコルシェはウードンがローマ賞(アカデミーの主席)を受賞してローマに滞在していた時に作成された。モデルとなった像は当時シャルトリュー教会の依頼によって作成していた『洗礼者ヨハネ』(1766、ボルゲーゼギャラリー蔵)である。 ウードンは当時作成していた『ヨハネ像』を石膏像として複製し、そこから掘り込んでエコルシェを作成した。今

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          エコルシェの練習3

          エコルシェの練習2

          フランス出身のイギリスの彫刻家エドゥアール・ランテリ(Lantéri, Édouard. 1848 – 1917))によるエコルシェ。 このエコルシェは、『モデリング:講師と学生のためのガイド(原題:Modelling a guide for teachers and sculptures)』(1902)において、塑像のプロセス見本として作成された。一旦体表像を完成させ、そこから筋の溝を彫り込んで制作されている。像の姿勢は、親交のあったロダンの『青銅時代』に近い。 以下に掲

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          エコルシェの練習2

          筋の解説1:上肢の筋群

           全身の骨格筋の数はカウント方法によっては600を超え、美術解剖学の初学者にとって難解な理由の一つになっている。  美術解剖学では、個別の筋を覚えていくよりも、筋をまとまり(筋群)で捉えた方が把握しやすい。また、グループ化することで最初に覚えなければならない筋の数を大幅に減らすことができる。絵を描くように、大きな形(全体)、中程度の形(筋群)、小さな形(個々の筋)の順に覚えていく方が効率が良い。そうすることで、用語が50を超える上肢の筋を、重要なボリュームを構成する9グループ

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          筋の解説1:上肢の筋群

          エコルシェの練習1

           エコルシェ(Écorché)というのは、「皮剥ぎ」という意味のフランス語で、皮膚と皮下組織を除去した浅層筋を表現した解剖図ないし模型のこと。「筋肉人」とも訳される。定義は明瞭ではないが、筋が一つも除外されていない解剖段階を表すことが多い。  浅層筋の配置を覚えるためには、用語の暗記よりも模写から入る方が理解しやすいアーティストやクリエイターも多いだろう。ここでは、フランスの美術解剖学講師ポール・リシェのエコルシェに基づく図を用いて、筋の配置を覚えていく。  記事を購入された

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          エコルシェの練習1

          4:上肢帯の骨格を描く

          いわゆる腕と胴体をつなぐ部分のことを解剖学用語では上肢帯(じょうしたい)または肩帯(けんたい)という。ヒトの外形では首の下にあり、肩幅を作っている。  上肢帯の骨格には、前方に鎖骨(さこつ)と、後方に肩甲骨(けんこうこつ)がある。  鎖骨は、立位姿勢ではほぼ水平に横方向に伸びた棒状の骨で、肩幅の大部分を作っている。上面の全体が皮下に観察できる有名な骨である。  肩甲骨は、上外側に向いた頂点のある直角三角形に近い平たい骨で、一部の辺や突起が体表から観察できる。美術解剖学における

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          4:上肢帯の骨格を描く

          3: 胸郭を描く

          胸郭は可動する骨性の容器で、息を大きく吸い込むと胸部が持ち上がって容積が広がり、息を吐くと胸部が下がって容積が少なくなる。この容器の中には、呼吸器である肺と全身に血液を送り出すポンプの働きを持つ心臓などが収まっている。  胸郭を構成する骨格は胸椎(きょうつい)、肋骨(ろっこつ)と肋軟骨(ろくなんこつ)、胸骨(きょうこつ)であるが、このうち胸椎は「02:脊柱を描く」で解説したのでそちらを参照してほしい。 3-1: 胸郭の幅と奥行きを描く  まず「02:脊柱を描く」で解説した

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          0: 骨格の概説

          ここでは全身の骨格の概要を紹介する。美術表現において、全身の骨格を素早く捉える際に、200を超えるあらゆる骨やそのディテールを拾う必要はない。特に短時間でモデルをスケッチする際に骨格を捉えるためには、骨格の情報を単純化し、大雑把に捉える必要がある。また、詳細に骨格を描く際にも、大づかみな形をおさえた上で細部に入った方が形の狂いが少なく済む。  掲載する図は、ドイツのゴットフリード・バメス(Bammes, Gottdried. 1924-2007)、ジークフリード・モリール(M

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          2:脊柱を描く

          脊柱(せきちゅう)の形態を順を追って描いていく。  脊柱は背中側の正中に沿って伸びる最も古い軟骨由来の骨格で、ヘビや魚類などヒト以外の生物の面影が感じられる。ヒトでは上下に柱状に並んでいるために脊柱と呼ばれ、四足動物などでは脊椎(せきつい)と呼ばれる。ヒトを含む脊椎を持つ動物は脊椎動物(せきついどうぶつ)と呼ばれ、タコやカタツムリなど脊椎を持たない動物、すなわち無脊椎動物(むせきついどうぶつ)と区別される。 2-1: 脊柱の構成要素脊柱を描く前に、その構成要素を解説していく

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          2:脊柱を描く

          1: 頭蓋骨を描く

          アーティストが頭蓋骨を学び、描く際のポイントを解説していく。ここでは、骨の部位名称を解説するのではなく、大きな形、中くらいの形、小さな形の順に描き進め、最後に外形に影響する構造名などを解説していく。 1-1: 頭蓋骨の枠を描く 頭蓋骨の比率は、ここでは以下のように設定した。   縦=7(正確には7.5)、奥行き=6(6.5)、幅=5(5.5) このプロポーションは、美術解剖学でしばしばモデルとされる白人種に近い。プロポーションは人種や年齢、性差によって大きく変わるため、あ

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          1: 頭蓋骨を描く