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#私の作品紹介

夢

何を勘違いしていたのだろう。 

目の前に広がる、圧倒的な「現実」にひどい頭痛がする。目を閉じたところで、臭いものに蓋をしたところで、耳を塞いだところで、私を占める全ての感覚が拒絶したところで、そこに確かに存在する「現実」からは逃げることなどできない。

最初から何もなかったというのに。そんなこと、ついこの前まで、痛いくらい理解していたはずなのに。少し時間が経ったくらいで、何が変わると期待していた

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ある人の告白から

 今、思うこと、ですか。

 もっと、いろいろな人達と関わりたかったと、今更思います。もっと、いろいろな人たちと、話がしたいと、今更思います。気取らず、気負わず、気を使わず、気を使わせずに。拳なんて握らずに、肩の力を抜いたまま、自然な呼吸をして。バカみたいに熱くなって、バカみたいに笑いながら、それを恥ずかしいなんて思わずに、でも、それを当たり前だとも思わずに。

 でも、自分には、その気力はありま

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嘘

 まだ、何かあるはずだと、信じ続けるには、少し年を取り過ぎたし、少し疲れてしまった。だからといって、今までも、前を向いて、ただひたすらに進んで来たわけでもない。正しい努力が何なのかも、正しい道がどこなのかも、わからないまま、気が付けば、こんなところまで来てしまった。
 そもそも「正しさ」なんて、一過性のもので、それぞれの価値観で、容易く覆ってしまうものだって、心の底ではわかっているのに、まだどこか

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いとし

いとし

 西向きの窓から注ぐ夕日は、薄いレースのカーテンを溶けるような赤に染め、私の顔に降りかかる。ある種の悪意すら感じる鮮やかな光に瞳が傷んで、私はそっとまぶたを閉じる。裏側に広がった橙色は、太陽の光と私の血液が交じり合った、生きている色。
「すごい夕日だ。」
五感の一つが閉ざされているせいなのか、耳元でささやかれた低く穏やかな声に、身体が敏感に反応する。自分の身体を押し付けるように抱きしめた長い腕が、

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優しい世界

優しい世界

  クリスマス・イブの夜、一人で改札に向かっていると、全ての人々が幸せそうに見えて、全てが敵に見えてくる。貴方は一人ですか?かわいそうですね、なんて心の中で笑ってるんだろ?知ってるんだよ、こっちは。歪んだ心はこっちだというのに、人のせいにして肩で風きって堂々と歩く。

 クリスマスに早く寝なくなったのは、サンタクロースは来ないことを知ってしまったからで、だってサンタクロースは良い子のところにしかこ

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