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何を勘違いしていたのだろう。 

目の前に広がる、圧倒的な「現実」にひどい頭痛がする。目を閉じたところで、臭いものに蓋をしたところで、耳を塞いだところで、私を占める全ての感覚が拒絶したところで、そこに確かに存在する「現実」からは逃げることなどできない。

最初から何もなかったというのに。そんなこと、ついこの前まで、痛いくらい理解していたはずなのに。少し時間が経ったくらいで、何が変わると期待していたのだろう。少し距離を置いただけで、どうして求められるなんて、求められているなんて、思い上がってしまったんだろう。

逃げる場所なんて、帰る場所なんて、最初からなかったんだ。
変わる努力をしなかった、変える努力をしなかった場所が、関係が、価値観が、時間と距離のおかげで変わるなんてありえなかった。時間と距離は、長くなればなるほど、輪郭をぼやけさせ、細部を隠して、美化して見せていただけだった。

何も変わりはしなかった。自分さえ変わっていないのに、相手に、それを求めるなんて、なんて人任せで、都合の良い考え方だったんだろう。

あなたが欲しかった。息ができない程ににあなたが欲しかった。でも、それよりもむしろ、あなたに必要とされたかった。深く沈んだ深い海の底に差し込む僅かな光になりたかった。

あなたを愛したかった。頭の先から爪先まで痺れるほどに愛したかった。でも、それよりもむしろ、愛して欲しかった。呼吸を忘れて目の前が霞むほどに愛して欲しかった。

全ての想いは過去に溶け出し、生ぬるい温度の中で、ゆるゆるとたゆたう。未来を恐れる心が、ここから抜け出す術を包み隠す。

日が沈んで暫く経ったけれど、夜明けはまだ遠く、そのことにひどく安堵している。深い夜の底から、何が忍び寄っているかも知らずに。

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