中田コウ

既に知っていることの外から、情報をお届け致します。

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  • 映画・ドラマ評

    映画・ドラマの解説評論集

  • THE LAST OF US PART II

    ”THE LAST OF US PART II”についての論考集。

  • “BLACK MIRROR”視聴ガイド

    近未来SF短編ドラマ集“BLACK MIRROR”の解説集。

最近の記事

飲み食い喫い打ち溺れる怠惰な恒常性は斯くも強かで、その無間地獄から抜け出す契機は斯くも僥倖なり―『ガチ★星』

*扉絵:コグニティブ・フォートトーク、ビジョンクリエーター生成 *以下の論考には、映画『ガチ★星』(江口カン監督、2018)のネタバレが含まれる。 主人公の濱島浩司は、その恵まれた身体能力とは裏腹に怠惰な男だ。球団から戦力外通告を受けプロ野球選手を辞める彼を雇い入れる旧友・松永の妻を寝取り、息子の誕生日をパチンコで素放す愚かな男は、如何に後悔しようとも、その惰性と中毒性のある行動を変えることが出来ない。彼は煙草と酒に溺れ、金を無心し、規律の厳しい競輪学校に入学しても隙を見て

    • 鋼の体躯に鋼の心たり得ぬならば狂うか死ぬか、何れにせよヒトであることを辞めますか―『サイバーパンク:エッジランナーズ』

      *扉絵:コグニティブ・フォートトーク、イマジンアート生成 *以下の論考には『サイバーパンク:エッジランナーズ』のネタバレが含まれる。 主人公のデイビッド・マルティネスは希有な男だ。自ら欲するところは「他者の夢を背負って(ep.7)」生きることであり、それを自明のこととして受け入れ、あまつさえ強烈なインプラントに違和感なく同期する器として機能する。ジェームズ・ノリス中尉が耐えきれずに狂う軍事用インプラント”サンデヴィスタン”を皮切りに自らの肉体を拡張し、メインの形見であるキャ

      • 記憶に入り浸る危険性を知る男は、如何にして過去に閉じ籠もるのか―『レミニセンス』“Reminiscence”

        *扉絵:コグニティブ・フォートトーク、イマジンアート生成 *この論考は映画『レミニセンス』“Reminiscence”のネタバレが含まれる。 主人公のニック・バニスターは相棒のワッツと共に過去の記憶を引き出す機器を操り、客が自身の記憶に浸る機会を提供する。戦争の尋問装置が過去を懐かしむ(nostalgia)ための手段や犯罪捜査の手法として確立する近未来のフロリダは、水没に瀕するディストピアとして描かれる。そして「記憶は香水と同じで少量がいい」と装置の危険性を十分認識するニッ

        • 『攻殻機動隊 SAC_2045』における「解脱」と「混ぜるな危険」

          *扉絵:コグニティブ・フォートトーク、イマジンアート生成 *以下の論考には『攻殻機動隊 SAC_2045』のネタバレが含まれる。なお本論は、藤井道人監督『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』(2021)並びに『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』(2023)の論評を含まない。 筆者は前稿『経験の並列化をし難いヒトという、この厄介で七面倒臭く屈折する愛すべき存在』にて、『攻殻機動隊 SAC_2045』が示す構図と「解脱」という用語の用法を巡る疑念を呈した。 こ

        飲み食い喫い打ち溺れる怠惰な恒常性は斯くも強かで、その無間地獄から抜け出す契機は斯くも僥倖なり―『ガチ★星』

        • 鋼の体躯に鋼の心たり得ぬならば狂うか死ぬか、何れにせよヒトであることを辞めますか―『サイバーパンク:エッジランナーズ』

        • 記憶に入り浸る危険性を知る男は、如何にして過去に閉じ籠もるのか―『レミニセンス』“Reminiscence”

        • 『攻殻機動隊 SAC_2045』における「解脱」と「混ぜるな危険」

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        • “BLACK MIRROR”視聴ガイド
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          経験の並列化をし難いヒトという、この厄介で七面倒臭く屈折する愛すべき存在―『攻殻機動隊 SAC_2045』

          *扉絵:コグニティブ・フォートトーク、ビジョンクリエーター生成 *以下の論考には『攻殻機動隊 SAC_2045』のネタバレが含まれる。なお本論は、藤井道人監督『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』(2021)並びに『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』(2023)の論評を含まない。 *本稿末尾に筆者が呈する疑念についての詳細は以下を参照。 以下本文。 自律型思考戦車:通称「タチコマ」が互いに戯れる様子はいつもコミカルで、しかしその愛らしさに似つかわしくない

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          『スカイ・クロラ』に見る「いき」の構造

          *扉絵:コグニティブ・フォートトーク、ビジョンクリエーター生成 *以下の論考には映画『スカイ・クロラ』のネタバレが含まれる。 九鬼周造の『「いき」の構造』が解き明かす「いき」の何たるかを以てこの作品を読み解くならば、正しくそれは草薙水素の「生き(行き/粋)様」だろう。読み解く手がかりは九鬼の提示する「いき」の内包的構造と、外延的構造から導き出される直六面体構造にある。 九鬼に拠れば、「いき」の内包的構造とは「媚態」「意気地」「諦め」である。 「媚態」は異性との関係に深

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          正しさと虚構と良心―『THE GUILTY/ギルティ』“Den Skyldige”

          *扉絵:コグニティブ・フォートトーク、ビジョンクリエーター生成 *以下の論考には映画『THE GUILTY/ギルティ』(Den Skyldige)のネタバレが含まれる。 主人公のアスガー・ホルムは犯罪現場の捜査中に未成年を射殺し、正当防衛を主張して翌日の公判を控える身である。彼が所属する部隊で事件に関わった人員は事態が終結するまで現場から外れており、アスガーは緊急ダイヤルのオペレータとして勤務する。上司はコペンハーゲン司令室の内勤におり、偶然にもアスガーが司令室に繋いだ際、

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          「実写版が『カウボーイビバップ』である必要性」が見当たらない

          *以下の論考にはNetflix制作の実写版『カウボーイビバップ』に関するネタバレが含まれる。 まず、吹き替えが原作そのものであり豪華だ。20年の時を経て変わらない山寺宏一、林原めぐみ、若本規夫は驚嘆に値し、亡き石塚運昇に代わる楠大典は違和感が無い。しかし、そうであるが故に、洋画の吹き替えがアニメと共鳴することも相まって、このドラマは原作を想起し続ける。 フェイの属性に関する違和感は後に述べるとして、主要人物の3人が織り成すやり取りは正に原作を踏襲し、しかし宿敵にしてかつて

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          日本語における中相表現と方言―アフォーダンス・唯識・空からのアプローチ

          2021.07.21 2021.07.23(二訂版) 2021.07.24(三訂版) 2021.07.31(四訂版) 2021.08.01(五訂版) 2021.08.19(六訂版) 2021.08.28(七訂版) 2021.09.20(八訂版) 2021.09.23(九訂版) 2022.05.20(十訂版) 中田 耕  北海道弁には不思議な言い回しがある。前を歩いている人が突然止まり、自分が咄嗟に手で相手の背中を押してしまった時、故意ではないという意味で「手が押ささった」と

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          超人に対するアンチテーゼとしての『刑事グロムvs粛正の疫病ドクター』

          *以下の論考には映画『刑事グロムvs粛正の疫病ドクター』のネタバレが含まれる。  DCコミックスやMARVELの超人を主役に据えたハリウッド映画が人気を博す昨今において、そのスーパーヒーロー(ヒロイン)に対して当て擦るかのような風刺や諧謔を散りばめたこの作品は、主人公に「型破り」を据える。  何れの超人も、超人であるが故に軍隊に匹敵する力を持ち、その力を発揮するが故に社会に混沌を巻き起こすのだが、「型破り」がもたらす混乱はせいぜい現金輸送車が路面電車に突っ込み、ゴミ収集車

          超人に対するアンチテーゼとしての『刑事グロムvs粛正の疫病ドクター』

          外を見た者たちの行き着く先と、閉じた世界に取り残される者たち―『マッドバウンド 哀しき友情』“Mudbound”

          *扉絵:コグニティブ・フォートトーク、ビジョンクリエーター生成 *この論考には映画『マッドバウンド 哀しき友情』“Mudbound”のネタバレが含まれる。  この映画では第二次大戦前後、中産階級に属する或る一家の崩壊を通して、様々なモチーフが描かれる。戦前から終戦直後におけるミシシッピの片田舎で展開する困難は、夫婦間の亀裂や、因習として根付く黒人差別と白人至上主義、医療や社会保障などという仕組みの無い自然の過酷さや、配慮が危機となり危機が好機となる悲哀で溢れている。  物

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          映画とゲームの狭間で

          *扉絵:コグニティブ・フォートトーク、ビジョンクリエーター生成  映画は操作出来ない。視覚と聴覚を通した受動的疑似体験の映画は、その受動性を超えるには見る側に要求する部分が多い。その一方、仮想構築された世界を操作するビデオゲームはその間口が広い上、作品の質が高ければ高いほどプレー体験の質も上がる。  マシンパワーの足りない過去の機器で展開された作品は、描画能力の低さ故に、ドット絵やポリゴンの描写をプレーヤーが解釈して脳内補完するコミットメントが発生することも相まって、一定

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          やむに已まれぬが故に―『悪魔はいつもそこに』“THE DEVIL ALL THE TIME”

          *扉絵:コグニティブ・フォートトーク、ビジョンクリエーター生成 *以下の論考は映画『悪魔はいつもそこに』“THE DEVIL ALL THE TIME”のネタバレが含まれる。 人生は数奇なものであり、人の結びつきもまた、数奇なものだ。この映画は、ラッセル家の息子・アーヴィンを主軸に、人々の数奇な繋がりが描かれる。 アーヴィンは数奇な関係性を背負っている。父・ウィラードと母・シャーロットの出会いそれ自体が偶然の巡り合わせであり、その偶然に関わったカールはサンディと出会い、最

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          少女の孤独に気付く少年は、幼さと拙さ故に度が過ぎて―『聲の形』

          *扉絵:コグニティブ・フォートトーク、ビジョンクリエーター生成 *以下の論考には映画『聲の形』のネタバレが含まれる。  善悪二元論は、一見すると複雑な事象を割り切って見せたようで、しかし物事を単純にするからこそ、逆説や逸脱、期待と行為の相違を都合よく塗り潰してしまう。  石田将也は好奇心旺盛な道化である。その旺盛な好奇心にとって、聾者の西宮硝子は関心を引きつける存在である。彼は思春期以前の男児が無邪気に放つ悪ふざけを書き記し、ちょっかいを出す。  しかし、時間の経過と共

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          『スパイの妻』における複層性と「毒を以て毒を制す」が如き策略

          *扉絵:コグニティブ・フォートトーク、ビジョンクリエーター生成 *以下の論考は映画『スパイの妻』のネタバレが含まれる。  黒沢清監督作品『スパイの妻』は、主人公の福原聡子が、盧溝橋以後泥沼にはまりゆく日中戦争下の日本で彼女が享受する与えられた幸福について、その幸福を与える夫の福原優作が自ら幸福を壊しに掛かるという認識から、彼は幸福を壊すのではなく狂気を終わらせるのだという認識へと変遷する物語である。  戦時下においても何不自由なく暮らす中で、優作と彼の甥である竹下文雄が満

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          直線的世界と円環世界の狭間を生きる―『この茫漠たる荒野で』"NEWS OF THE WORLD"

          *扉絵:コグニティブ・フォートトーク、ビジョンクリエーター生成 *この論考には映画『この茫漠たる荒野で』"NEWS OF THE WORLD"のネタバレが含まれる。 新聞を読み聞かせることで生計を立てる、トム・ハンクスが演じる主人公のジェファソン・カイル・キッド大尉は、読み書きの出来ない人々や新聞を読む暇のない人々のために世の中の出来事を伝える。彼が主催する集会には多くの人々が集まり、行政や立法の情報から鉄路の敷設計画、小さな町の笑い話など、街の人々が多岐にわたる話題を共有

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