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草笛双伍 捕り物控え一

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時は江戸。火付け盗賊改め方、鬼平こと長谷川平蔵のもと、2本の長大な十手を手に、元<風魔忍者>の岡っ引き、草笛双伍が活躍する、勧善懲悪痛快アクション時代小説です。
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草笛双伍 捕り物控え一

草笛双伍 捕り物控え一

時は江戸。火付け盗賊改め方長官・鬼平こと長谷川平蔵のもと、2本の長大な十手を手に、元<風魔忍者>の岡っ引き、草笛双伍が活躍する、痛快アクション時代小説です。

草笛双伍 捕り物控え一 天魔衆1

草笛双伍 捕り物控え一 天魔衆1

寛政元年2月16日、その夜は新月であった。

小伝馬町にある、油卸し問屋である宝月屋に強盗が押し入った。

時は丑の刻(現在の午前2時ごろ)のころであった。

入った賊は8人。それそれ黒ずくめにして、黒い頭巾で顔を隠していた。

その賊共の押し入り方は、他の盗賊とは異なる手口であった。

これまでの賊は裏戸を強引に押し開け、金品はもとより強姦し、

殺していくものがほとんどだったが、この盗賊集団は

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草笛双伍 捕り物控え一 天魔衆2

草笛双伍 捕り物控え一 天魔衆2

清水門外の役宅、その裏手の土間に双伍は、

膝をついてたたずんでいた。

「ほう、おめえの見立てでは、仏の刺し傷は

 忍び刀じゃねえかと?」

長谷川平蔵宣以はキセルの煙をくゆらしながら言った。

板の縁側にあぐらを構えている。

「へえ、侍の刀傷にしては、血の量が少ねえし、

 傷口も細い。それにどの仏も、たった一刺しで

 殺されているんでさぁ。もうひとつ言わせてもらえると、

 新月の闇夜

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草笛双伍 捕り物控え一 天魔衆3

草笛双伍 捕り物控え一 天魔衆3

江戸城下でもひときわ賑わいを見せる日本橋の近くに、

<あじさい屋>という食事処がった。

20人もはいれば手狭になるような、小さな店ではあるが

久平という主人の手打ちうどんと蕎麦には定評があり、

客足が途絶えることはない。

久平はすでに50を数える、たたき上げの職人だ。

その店にいくつも並べられている縁台のひとつに、

双伍の姿があった。足を組んでキセルを吹かし、

紫煙を吐いている。

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草笛双伍 捕り物控え一 鬼平暗殺5

草笛双伍 捕り物控え一 鬼平暗殺5

長谷川平蔵は八丁堀の官舎に常駐している

与力同心はもとより、非番の者も緊急招集して、

三ノ輪の廃屋へと向かった。総勢20余名。

同行する双伍を見て、怪訝な顔をしている者も

いたが、長谷川平蔵は、「ただの新入りだ」とだけ

答えた。

一刻ほどしてたどり着いた三の輪の廃屋は、

今にも崩れそうな様相だった。柱は曲がり、屋根は歪んでいる。

長谷川平蔵以下、部下たちは一気に屋敷になだれ込んだ。

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草笛双伍 捕り物控え一 風魔襲来1

草笛双伍 捕り物控え一 風魔襲来1

江戸城の東にある人形町は、火炎に包まれていた。

紙物問屋、備前屋が火元と見られた。

備前屋の周囲、八棟の屋敷が町火消したちによって、

取り壊されている。

備前屋の周りには、おびただしい数の人だかりができ、

町火消したちの怒号が鳴り響いた。

周囲の八棟の中で焼け出され、生き残った者は

全身煤だらけで、地面にへたり込み、

汗と涙で人相さえも判別できない。

それでもなお、備前屋は黒煙を

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草笛双伍 捕り物控え一 風魔襲来2

草笛双伍 捕り物控え一 風魔襲来2

「何?<風魔>の仕業だと?」

清水門外の役宅の裏戸の縁側。

そこには長谷川平蔵と双伍の姿しかない。

長谷川平蔵は双伍の言葉に驚いて、キセルを口から離した。

「その見立ての根拠は何なんだ?双伍」

「へい、それは殺された仏につけられた傷でござんす」

「あの、<几>という傷のことだな?」

「あの<几>という文字は、<風魔>の紋なんでさぁ」

そこで平蔵は思案深げに、双伍に訊いた

「すると

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