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小説『くちびるリビドー』/3.まだ見ぬ景色の匂いを運ぶ風【PDF公開】

2020年12月22日に発売した小説『くちびるリビドー』の縦書き原稿を、【全3回】に渡って公開中☺︎/* ステイホームのお供に、ディープでポップな物語の世界を味わってみませんか?


「秘密なんて、どこにもないよ」と母は笑うだろう。「ママは単なる『酒の飲み過ぎ』で、肝臓をやられちゃったのよ~ん」と。「ばかでゴメンネ。ゆりあを残して逝っちゃって、ゴメン!」と。たとえそこに彼女が墓場まで持っていくことにした「答え」があるとしても、それを永久に掘り起こそうとしないことが娘としての「正しさ」なのだろう……。//ここは未知なる小惑星。この世の終わりみたいな景色の中に佇んで、あなたの声に耳を澄ます。もっともっと、光すら届かない銀河の果てまで、私を連れ去って。大丈夫。どんなに遠く離れても、きっとふたりなら戻ってこられるから――。//旅の夜。物語はさらなる深みへ。


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 夕日を見た、久々に。本物の太陽が本物の海へと呑み込まれていく瞬間を。
 語り続ける私たちに「時間」なんてものは存在しなかったけれど、高く晴れ渡った空に真っ白な光を放っていた昼の神は、西に傾くほど巨大化し赤みを帯びながら、確実に私たちの頭上を移動し続けていた。
 そして、それを待ち構えるこの海の何者にも媚びることのない厳しさと激しさを前にしていると、嘘の言葉なんて口にするより先に風に吹かれて消えてしまう。沈黙さえ、岩に打ちつける波の音が(それは砂浜に寄せては返す平穏な波音とはまるで異なる)容赦なく剥ぎ取っていってしまう。
 やっぱり、ここの海は特別だった。
 砂浜から眺める遠浅の海は、レースの縁取りみたいに薄く伸びた「海の裾」のようだけど、岩場の海はいつだって、いきなり深い「海の腹」なのだ。
 油断すると危険がいっぱいで、簡単には触れさせてもらえなくて、だけどどんなに醜態をさらそうと全部丸ごと受け止めてもらえて、なのに慰めなんて微塵もなくて。
 せいぜい100年ぽっちの寿命しか持たない私たちなど、この圧倒的な自然の脅威の前では皆、ちっぽけで均一な「単なる人間」なのだ。どんな人生も必ず終わり、最後は誰もが死んでゆく――そう思い知ることの、心地よさ。
 知らず知らずのうちに麻痺してしまったセンサーを呼び覚ますように。寝ぼけたままの魂を、揺さぶり起こすように。
 私たちはただ在りのままに佇み、心のままに想いを吐露した。
 潮風に吹かれ続けた髪はまるで塩蔵わかめ、顔も手も服さえも塩辛くなったままで。
 太陽が完全に姿を消し、どちらからともなく「そろそろ戻ろうか」と腰を上げるまで。



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下記の有料エリアに【PDFファイル】を添付しています。
「縦書き原稿」をダウンロードしてお読みいただけます。

(やっぱり小説は“縦書き”で、読みたい&読んでほしい派の私です♪)

1』と『2』はこちら↓↓↓




◎「長編小説『くちびるリビドー』を楽しROOM」というマガジン内では、〈創作こぼれ話〉も綴っています。




それでは、小説『くちびるリビドー』

3 まだ見ぬ景色の匂いを運ぶ風

はじまり、はじまり~☆



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note版は【全20話】アップ済み(【第1話】は無料で開放&解放中☺︎)。全部で400字詰め原稿用紙270枚くらいの作品です。ここでしか読めない「創作こぼれ話」なども気ままに更新中☆ そして……やっぱり小説は“縦書き”で読みた~い派の私なので、「縦書き原稿(note版)」と「書籍のPDF原稿」も公開中♪ ※安心安全の守られた空間にしたいので有料で公開しています。一冊の『本』を手に取るように触れてもらえたら嬉しいです♡ →→→2020年12月22日より、“紙の本”でも発売中~☆

「私がウニみたいなギザギザの丸だとしたら、恒士朗は完璧な丸。すべすべで滑らかで、ゴムボールのように柔らかくて軽いの。どんな地面の上でもポン…

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“はじめまして”のnoteに綴っていたのは「消えない灯火と初夏の風が、私の持ち味、使える魔法のはずだから」という言葉だった。なんだ……私、ちゃんとわかっていたんじゃないか。ここからは完成した『本』を手に、約束の仲間たちに出会いに行きます♪ この地球で、素敵なこと。そして《循環》☆