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生活者という賢者たち

行政や企業ではなく地域住民が自ら発案し、街や場を作っていく。そんな2つのプロジェクトを通して、ひとりの生活者としての自分と、クリエイティブディレクターやコンサルタントとしてデザインを提供する役割の自分、という目線で得た学びを綴ってみたいと思います。

●始まりは自宅の隣に公園ができる不安からだった


私の自宅は世田谷区の玉川野毛町公園に、もしかしたら世界一近い場所にあります。隣の空き地が公園の拡張エリアになるという噂を聞いた時は、正直不安が先走り、区の職員の方にクレームを伝える気満々で、公園計画スタートのシンポジウムに参加しました。

その日から早、4年近く経ち、今ではこの新しくできる公園予定地で、ひとつの自分の夢を実現させるために、区の方々や事務局のみなさん、同じ地域住民の方々と交流しながら活動をする日々です。当初はクレーマー脳だった私の脳内に、この数年で何が起きたのか?今何が起きているのか、、

玉川野毛町公園拡張計画では、玉川野毛町パークらぼという住民参加型のプロジェクトが発足しています。

初回から参加している私は、この数年の経緯を見てきたわけですが、本当に住民発案型のプロジェクトで、何回かのワークショップの中で出てきた、複数の小さいプロジェクトが走っています。エリア内にある古墳をテーマにしたものや、植物や生き物をテーマにしたもの、池を作りたい!という目的を持ったものなど様々ですが、私はその中で、家庭でコンポストを使ってできた堆肥を公園に持ち寄って、公園内や近隣農家で使ってもらい、そこでできた作物をまた地域住民に還元するという、公園を地域循環型社会のハブにしたい!という夢を持って進めています。このチームの名前は文字通り、【チーム循環】です。

まだどうなるかわからないけど、現段階でイメージしているステップ
循環のイメージ
現在実験的に作っている拡張予定地入り口の花壇とハーブガーデン
現在実験的に作っている拡張予定地入り口の花壇とハーブガーデン

●自分の中で起きたクレーマー脳からプレーヤー脳への変化

まず、本当に住民が発案したアイデアの実現に向けて、事務局や区の方々、デザイン設計会社の方々が真摯に取り組んでくださることに心から驚き、感謝してやまないのですが、何よりも地域住民から出てくる考えや知識、アイデア、その熱量に本当に驚くばかりの日々。。

普段の自分の本業は、デザイン会社でクライアント企業に制作物やブランディングサービスを提供することであり、プランニングやデザインディレクション、ブランディング、マーケティング、という領域の事を25年もやってきていて、そんな仕事の場面では、住民発案のような状況に出くわした事がほぼないので、この新鮮な驚きは一種のカルチャーショックでした。

実際の拡張予定地で目の前の景色がどう変わっていくか?のプレゼンテーション
古墳の周辺の模型 わかりやすさも配慮されています

初期のワークショップの中で参加者の方々が付箋に記していた言葉は、「余白のある公園」「大きな建物じゃなくて原っぱで寝転がりたい」「いろんな人が目的なくいられる場所」「そこにある自然を大切にしたい」というような内容が多く、そこからの流れで現在掲げられている、100年後を考えた、余白のある公園づくりというコピーが生まれたわけです。なんという素晴らしい価値観、先見性。行政や企業ではなく、住民の方々が共通して持つ想いの高度さと豊かさに驚き、その頃から私の脳みそはクレーマーから、自ら意志を持って参加するプレーヤーに変化していった気がします。

●ウェルビーイング、というキーワード

そして数年にわたり、このパークらぼの取り組みが進むにつれ、最初にみんなで付箋に書き記したたくさんの想いやアイデアが、ひとつの大きな潮流みたいになってきた!!というのが現段階の実感で、それを勝手に言語化するとしたら、"みんなが潜在的に欲していたものはウェルビーイングな自分、ウェルビーイングな場だったんだ!"という表現がしっくり来ています。

このウェルビーイングというワードは、東京都市大学の坂倉杏介先生がパークらぼでお話されていて知ったのですが、この言葉を聞いた時は目から鱗が落ち、私の中でこれまでの点が一気に繋がって線になった瞬間でした。

そうか!!みんなが心の中で無意識に望んでいたものはこれだったんだ、、人ってみんな、実はウェルビーイングでいたいんだなぁ。。と感じたのです。
ウェルビーイングという言葉が、なんだか妙な流行り言葉のようになっていて、本来の意味や、こうあるべきだ、という議論が起こりがちですが、私はそんな定義や流派みたいなもの、どうでもいいなと思っています。ひとりひとりが思う、少しづつ違うかもしれないウェルビーイングが折り重なって、何かを確実に変えていけば良い気がするのです。

●おやまちウェルビーイングリビングラボという、夢の拠点

そして今日、隣町の尾山台にある、おやまちウェルビーイングリビングラボ、という場所に関するシンポジウムに参加してきました。ここも坂倉先生のプロジェクトのひとつで、尾山台の商店街の中にある二階建ての味わい深い建物で、いろんな住民の方々がフラリと立ち寄り、様々な夢がプロジェクトとして動いている拠点です。

二階に上がると秘密基地みたいな雰囲気
登壇された坂倉杏介先生のスライドから

このシンポジウムを聴いていて、野毛町パークらぼで気がついた事を、さらに確信しました。それは、生活者が持つ力の高度さです。パネルディスカッションの際、「このリビングラボが成立しているのは、たまたま尾山台の人たちが良い人たちだったからなのか否か?」というような議論がありましたが、この問いに私が思ったのは、人の性善説について。これはもちろん、国や文化、経済、教育の水準などによって違いはあると思いますが、でも、やっぱり人間が持つ性質の根底にあるものは、善であり、綺麗事ではなく、生きるためにそれを欲するのが人間という生き物なのではないか?と、思うのです。(性善説については昨今書籍などでも話題ですね)
そして、生活者が持つ善や、知や、賢が、これまでの長い時代、その社会構造によって封印されてしまっていたように思えます。ひとりの生活者同志が気軽に夢や未来について語り合う場が乏しい社会では、彼らが持つ可能性は、自ずと閉じ込められてしまいます。その封を解く役割を果たしているのが、おやまちウェルビーイングリビングラボのような、いわゆるサードプレイスなのではないでしょうか?

登壇された坂倉杏介先生のスライドから


登壇された坂倉杏介先生のスライドから

●デザインの提供側であり、同時に生活者でもある自分

普段、自分は仕事で長い間、納期や予算やクライアントの要望や利益や会社の信用など、いろんな条件や制約の中で、完成形を描いてまっすぐにプロジェクトをゴールさせる事が癖のように身についているので、生活する人々のいろんな想いやアイデアを取り入れて形にしていく、そんなデザインとして当たり前の事、ある意味デザインの本質のようなことを、会社ではない場で、ひとりの生活者として体験してみたいのかもしれません。

それにしても、私は企業の一員であり、デザインのプロであり、同時にひとりの生活者であり、編み物や歌や着物やヴィンテージが好きな、そんな区民である。なんだかたくさんの自分がスイッチのように切り替わる毎日だけど、だんだんこのスイッチのオンオフが馬鹿らしくなってきてて、その全部をごちゃ混ぜにしたい衝動にかられています。

そうして、あらゆる場面で得た学びや経験をグルグル循環させて、スパイラルが上昇していくような、そんな進化ができたら面白いし、会社の仲間も友達も家族も区の職員の方々やパークらぼのみんなや事務局の方々も、とにかくみんなと、ひとりの人間として関係していけたら良いのにな、と純粋に思うのです。

●課題解決がすべてではない、という信条

シンポジウムのスライドで、とても嬉しくなった1枚が、課題解決型ではなく、やりたいことをやる、と書かれていたスライドでした。これは私がデザインについて思っている原理原則のような事で、よく会社のスタッフにデザインとは何か?を説明するとき、課題解決すりゃいーってもんじゃないし、そもそも課題が無いとデザインできないなら、課題を作るのがデザインみたいになっておかしい!価値創造こそがデザインの本質だ!Fu●●課題解決っていうTシャツを作りたい。笑 と、言っているので、本当に嬉しかったです。理想を描くこと、夢を持つこと、そこに向かってワクワク進んでいけば、昨日まで課題だと思っていたことが大切なアイデアの源泉になり得る、それがデザイン思考だと私は考えます

生活者の夢からイノベーションが生まれるということ、その夢を共有することから、連携や交流や理解が生まれる。そしてまず、夢を持てるということの大切さ、その環境を作るのが行政や教育期間や企業のミッションであり、またそこには、コミュニティマネージャーのような存在も必要なのだと、腹落ちした有意義な1日でした。

登壇された坂倉杏介先生のスライドから

玉川野毛町パークらぼも、おやまちウェルビーイングリビングラボも、まだまだ日々変化の最中にいるんだろうなと思うと、私も目が離せないくらい今後の展開が楽しみです。いつの日か、完成した公園に堆肥を持参し、地元のお野菜を手にしたり、地域の方々や友人、仲間たちと関係性を紡ぎながら歳を重ね、パークらぼで生活者として体験した学びを経て、デザインの提供者としての自分に還元し、そのオンオフもごちゃ混ぜにしながら人間として成長していくことが、私にとってのウェルビーイングなのかな。。。と、今はぼんやり想像しています。がんばろーっと。。

おやまちウェルビーイング・リビングラボ
開設記念シンポジウム&内覧会・交流会


・東京都市大学 総合研究所 ウェルビーイング・リビングラボ研究ユニット

・一般社団法人おやまちプロジェクト
 
・東京都市大学 都市生活学部 コミュニティマネジメント研究室

・この記事作成において考えの参考になっている書籍です

わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために その思想、実践、技術
アブダクション―仮説と発見の論理
Humankind 希望の歴史 上 人類が善き未来をつくるための18章

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