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神様の前で禊をする|明治神宮で禊(みそぎ)の日々 3

神道文化学部のすすめ【神社実習編】
神社実習は、御神域での合宿であり、実習という名の修行だった— その体験を通して、神社の向こう側にある世界の一部をご紹介します。助勤(アルバイト)の話もあり。トップはこちら

早期退職後、47歳で大学に入学した年の夏休み、明治神宮で初めての神社実習に臨んだ私(第2回

1日目の夕方、ついに禊行をすることになった。舞台は研修所のほど近くにある禊場である。

禊について

禊は、身体を洗いすすぐことで、身についた凶事や罪穢(つみけがれ)を取り除いて清めることである。

古事記や日本書紀で、イザナギが死後の世界である黄泉国(よもつくに)から帰ったとき、その穢を祓うために行ったことが神話的起源とされる。

御神前で奉仕するには、心身が清浄であることが求められる。そうなって初めて神に近づく資格を得るのだ。禊はそのための方法の一つである。

なお、参拝の前に手水をするのも、禊を簡略化したものだと言われている。

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「朝夕に神の御前にみそぎして」

禊行について説明を受けてすぐ、私たち実習生は禊場の正坐室に向かった。祭壇のある部屋だ。

禊行にあたり、神前で修祓(しゅばつ、お祓い)を受けるのである。祓詞(はらえことば)、大祓詞(おおはらえのことば)の奏上も行う。

その後、いったん研修所へ戻り、白の禊装束に改服する。頭には白鉢巻だ。

すばやく着替えて、急いで禊場へ戻らなくてはならない。それなのに、着替えが遅い私は、あっという間に取り残されてしまった。

慌てて皆の後を追う。掛け声をかけながら行くのだが、指導員の方に「声が小さい!」と激を飛ばされる。

指導員は、神道研修事務課の職員の方である。普段は手続きなどで何かとお世話になっている。

だが、今日はいつもの「親切な大学職員」の顔ではない。全くの別人である。その豹変ぶりに驚きながらも、何とか禊場に着く。

先ほどいた正坐室の前にある広場のような場所。鎮守の杜に囲まれ、深閑な空気に包まれている。

そこに、越中褌(えっちゅうふんどし)に白鉢巻をキリリと結んだ、先導役の道彦(みちひこ)がひとり立っている。その方も神道研修事務課だ。

彼は大きな声を発しながら先導を始めた。その姿に再び驚く間もなく、鳥船(とりふね)行事が始まる。水で身を清める前に行うものだ。

和歌を唱いながら、船を漕ぐような所作をする。和歌は次の三段である。

【第一段】
朝夕に 神の御前(みまえ)にみそぎして
すめらが御代(みよ)に仕へまつらむ

【第二段】
遠つ神 固め修めし大八洲(おおやしま)
天地(あめつち)共にとはに栄えむ

【第三段】
天神(あまつかみ)地祇(くにつかみ)等
みそなはせ 思ひ猛びて我がなす業(わざ)を

天上の神だけでなく、地上にも神がいるという世界観。天上の神がつくり固めたこの国が、双方の神と共に永遠に栄えることへの願い。

この和歌の根底には、そうしたものがある。

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神が遥か遠くではなく、すぐそばにいると考える。それが神道の良さだと私は思っているが、この和歌にもよく表れていると感じた。

特に第三段の、禊をする自分の姿を見てくださいと神々に願う場面が好きである。

魂を呼び覚まし、神と一体になる

和歌と和歌の合間には、姿勢を戻し、振魂(ふるたま)を行う。

振魂は、丹田の前に掌を組み合わせ、連続して上下に振り動かす。正坐室での御祓の前にも行う所作だ。

「祓戸大神(はらえどのおおかみ)、祓戸大神…」

御祓の神様の名を連唱しながら振魂をしていると、いつもの自分がどこかへ行ってしまったような、不思議な気持ちになる。

まるで、魂が呼び覚まされているかのようだ。

鳥船行事の後は、雄健(おたけび)行事、雄詰(おころび)行事、気吹(いぶき)行事と続く。いずれも、神と一体となるための所作である。

4つの行事が終わると、ついに禊場の建物の中に入る。水を被り、身を清めるのだ。

各々が手桶に水を汲み、「エーイッ」と気合の声を出しながら、勢いよく水を被る。40名以上の実習生が一斉に水を被る光景は壮観である。

その後は、濡れた状態のまま、再び鳥船行事から始まる4つの行事を行う。終了後は、研修所に戻り、急いで着装して、また正坐室である。

この禊行を、明日からは朝と夕方の2回行う。

夜の明治神宮

禊行の後、国旗降納、夕食を終えた私たちは、夜の神拝行事に向かった。

参拝者のいない夜の明治神宮。いつもとはまるで違う、神聖な空気に圧倒される。

その中を、列になり、無言で進む。夜の闇に玉砂利の音が響く。

長い一日はまだ終わらない。だが、この後、私は一生忘れられない体験をすることになる。

つづく

参考文献:國學院大學日本文化研究所編『縮刷版 神道事典』弘文堂

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