[詩] 時系列
全てが霧に包まれた曇り空、こめかみが少し痛んで、小降りの雨がしきりに視界に入る。
どれだけ現実から離れてみても、猫みたいに帰り道だけは忘れない。夢からの帰り道、朝は暗闇から帰ってきた私を何も言わずに暖かい光で包み込んだ。
大きなあくびをした午前9時24分に意味なんか微塵もない。
あの時見た本棚のない部屋には、埃が被った本や資料があって、沢山の記憶が読みかけの本のように床に散らかっている。あなたは小説の中に出てくる顔を持たない登場人物の1人となった。読者として記憶を読み進め特徴や出来事を通してあなたの顔を想像する。あなたの想いに耽ることはもう既に本を読む事とさほど変わらないことをしているに過ぎない。私という本も半分以上読んだところで裏を向けてほったらかしにされて床に落ちている。ページに癖がついてもう元通りにはならない。事あるごとにそのページは開かれる。塞がりの悪い傷口みたいに。
電車を降りる午後7時14分に意味なんか微塵もない。
駅前の人たちは立ち止まると死んでしまうサメのように動き続けている。何を探してそんなに急いでいるのだろう。変わらないものなんて存在しないこと、彼らは気づいている。変えられない事実を知っていながら、日常の中に潜んでいるその普遍的な何かを彼らは探し続けている。この世界を牛耳っている色んな種類の欲望たちが色を合わせて虹色に光る油のように水溜まりに浮いていた。
避けようとして避けきれず水溜りで靴下が少し濡れた午後7時28分に意味なんか微塵もない。
夜になるとたまらなく不安になる。暗闇の中で迷子になって、夢からの帰り道をいつか忘れてしまうこと。帰って来る自信を失って夢を見ることを諦めてしまうこと。あなたが私を諦めたあの日、私の世界の色はワントーン暗くなった。あなたも立ち止まることを恐れる駅前のサメになってしまったのかもしれない。
サメの夢を見ないことを願った午前2時06分に意味なんか微塵もない。
心の奥底に散らかって集めようのない感情。
忙しい毎日の隙間に溜まった埃。
寝過ごして存在を忘れられた読みかけの本。
間違え探しをしなければ見つけられないその普遍的な何か。
私が気づいてあげたかった。
でも
今日も言葉が足りない。
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