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バイブスってなに?? — すばる文学賞/三島賞受賞作・大田ステファニー歓人「みどりいせき」の読書会をした

みなさんどう読みました?

「一番最初に思ったのが、読みづらすぎる……」
「それはね、そう。これを大人たち……大人たちというのは四十歳以上の文学の側にいると自負している大人たちね。彼らが『バイブス』と表現するのは、そうとしかいえない、そう置き換えることで安寧を得ている感じがした
「バイブスとかでもないんじゃないか?」
「なんなんだろう」
「本当に気になったのが、2,3ページ目くらいで明らかになる『語り手の想定されている知能』の低さと語彙のレベルが釣り合ってないってこと。語り手が状況を理解してなくて、周りからも『は? なにこいつ』みたいな扱いを受けている。これはなんかアルジャーノンっぽさというか、ボーダーの人間っぽさだと思うんですけど、そうじゃない。ボーダーっていうか、自閉傾向のある人を書くならあえて堅苦しく書くような気もして、でもそうじゃない。ただ状況を理解してないだけ」
「語り手のクラス内のカーストの低さと、語り手のもってる『陽キャ感』が釣り合ってない感じはしたかな。それって、いまの高校生をリアルに書いたときに、このくらいの陰キャでも、脳内ではこのくらいの陽キャノリってこと?
「わ、わからん……」
「我々って、この小説内に書かれている高校生たちを語ることは本質的にはできないんですよ。だって身の回りにいなかったもの。こう……言い方悪いけど『頭悪い側』の子達と関わってこなかったもの」
「本当に言い方が悪い」
「ギリ『空気が読めなくて、よくない朗らかさをもってて、オタク気質な子』はいたけど、そっち側の人でもないしなあ。なんか……周りの子がすごく親切! あと前半と中盤で語りの質感がすごく変わりますよね。けだるげな高校生から、物事をなんにも理解しない鈍感主人公に変わるから、全体を通して見たときどういう人間なのかってところが理解できなかった」
「春っていう人間に固執していて、野球の思い出が強く残ってる」
「それはね、わかる」

好きだったシーン

「自分が好きだなと思ったのは、台詞が互換性ある感じで書かれていた場面」
「あ〜あれ好き!」
「あれって、ノリで喋ってて、だれがなんのセリフを喋ってるか認識しないまま会話をしている感じの表現?
「だと思う! うまい」
「ああいうときって、なんなら相手の話を文字として受け止めてないっすよね」
「そうそう、ノリ」
「鳴き声の交換」
「言葉のニュアンスだけを捉えてる感じね」
「うん、そういうノリで小説全体を読んだらよかったのかなあ」
「なんかね、そう。世の中のひとって小説をこうやって読んでいるのかなって思った。適度に読み飛ばして、それこそ『バイブス』を感じて読んでいる?」
「怖いことを言う……」

物語についてはどうでした?

「ざっくり言うと、このままじゃ不登校になるな〜と思ってる高校2年生の語り手が小学生の時にバッテリーを組んでいた春と再会して、怪しい闇バイトに巻きこまれる話なわけですが」
「はい」
「これ、物語としての強さはそこまでないというか。川上未映子の『黄色い家』みたいなカード犯罪の出し子の擬似家族の話……いや、なんだろうな。わたしは『黄色い家』に対しては貧困家庭の女の子が生き抜くために闇バイトに手を染める過程の感情の話として価値を感じているわけなんですが……まあ、そういう話よりも物語のおもしろさは落ちるというか」
「純粋におもしろさって意味で言うとね。それが悪いわけじゃなく」
「そうそう」

「ぼくは、映画でいうと『THE CROSSING~香港と大陸をまたぐ少女~』が物語としては素晴らしいと思っていて。大陸部の深センと香港を越境通学する女子高生がスマホを密輸入する闇バイトに手を染める話なんですが。あそこにはドキュメンタリーっぽさがあったのがよかった! ほら、基本、闇バイトってフィクションっぽさがあるじゃないですか。闇バイトってあんまりお金と考えのない若い子を都合のいいストーリーで騙くらかして犯罪の片棒を担がせるわけだから。それってフィクショナルというか。だから、それをちょっと派手に書いたらすごく嘘っぽくなると思うんですよね」

「『みどりいせき』は嘘っぽかったですか?」
「う〜ん、嘘っぽいというよりも、派手だなと思いました」
「嘘っぽくはない。すごくリアルだとも思わないけど」
「わたしは、闇バイトをしている側の視点からの話だなと思った」
「あ〜わかる」
「外側から見ている感じは少ないですよね。あんまり主人公が自分のやっていることを認識していないし、絆の話とかするし。上の人の受け売りのキラキラした言葉を口にして、その犯罪から抜けられなくなる感じとか……」
「闇バイトって聞いてイメージする物語としてそこまで突飛な感じはしないと思った」
「おもしろくないわけではなく、ね」
「そう」

薬物の描写について

「薬物を摂取したときの描写として、下品にラリるか上品にラリるかって話があるじゃないですか」
中島らもの『アマニタ・パンセリナ』の中にね」
「うん。あれでいうと、若干の上品さがあると思った」
「宇宙を見てるからね」
「キタキタ〜って言ってる下品な女がでてくる感じじゃないのがよい」
「そう! ラリってる描写がでてくる小説ではダントツで好きかも
「春樹より?」
「ふふ、春樹も書いてましたっけ? うん、それよりも好き」
「世界の神秘を見たってことを書いているのがいいですよね。でも、この子たちって海馬って言うんですか? 本当に?」
「言うでしょ。海馬はだいぶ厨二用語だよ」
「ええ〜それは我々みたいなボカロでメカクシがうんたらしてる時代の人間じゃないですか? ティックトック世代ってそれじゃないでしょ〜」
「そうか」
「あのドラッグパーティの描写もよかったし、主人公がよくわかんないうちにクッキー食ってストーンになっちゃうところすごいよかった。これをティックトック世代とか呼ばれている人間たちが読んだ時の反応が切実に知りたくなった。中島らも経由の人間しかここにはいないから……

闇バイトグループの絆というおもしろさ

「なんかこう小説全体を見たときに、前振りとして言われていた『バイブスが〜』とか『闇バイトが〜』とか、そういう部分と自分がこの小説を読んで面白いなと思った部分が結構ちがったかもしれない。もちろん、闇バイトのログラインにも文章にも自分は案外乗れたんですけど、それよりも薬物のパートとそれによって起こってくる登場人物たちのつながりの方がおもしろかった」
「ああ、闇バイトグループの絆ができていくところいいですよね。絆なのかは知らないけど」
カラっとした青春っぽい闇バイトさと、テキトーに薬物のパイプ回してる感じがすきだったなあ」
「わかる」
「あと、わたしは語り手のことを結構離れた位置から見てたんですけど、最終的に『ちょっとかわいいかも……』って思って見てた
「ああ〜みんなかわいいですよね」
「そう。みんなのこと、ちょっと好きかもしれない……ってなる。わたし、動物っぽい仲のよさってすきなのかなあ」

バイブスって、なに??

「これは若者言葉なのかというのは審議」
「う〜ん、我々って一応若者ではあるんだけど、若者を語ることができないからね」
「でも作者より5歳若いですよ」
「作者の話するのきらーい」
「はいはい」
「そういえば前にYouTubeのコメント欄読んでて『全然意味が通じてないコメントを書いてる……!』って衝撃を受けて」
「ほう」
「なんかね、覚えてないんですけど、あるサイトで買った商品に盗撮のカメラがついてるかもみたいな動画へのコメントで『同じの買って、見てみたらカメラないから、たしかに盗撮されてるかも』みたいなコメントなんですね」
「意味がわからないな」
「そうなんですよ。で、これ『私も同じ商品を買ったのですが、動画の商品にくっついているようなカメラ状のものがわたしの商品にはないから、あなたの商品についているものはきっとカメラで、たしかにあなたは盗撮されているかもしれません』ってことらしくて」
「あ〜でも、こういう喋り方する人っている」
「いる」
主語がないとか、非言語コミュニケーションを前提とした喋り方とかの人ね
「そう。それに近い会話文がところどころにあると思った」
「例え話が長くて結論が短いタイプの話だ」
「でした。なので、我々が読んでも『バイブス……か……』って言っちゃうわけです」
「悲しい……」
「悲しくないよ。ぼくは乗れましたから」
「お、乗れた人間もいる。ティックトック世代の感想を検索しよう
「まずティックトック世代とかいう言い方すらきしょいけどね」
「読書会の規模を拡大して現代の若者文化に精通した若者をいれなければ」
「上村さんのもとに集まってくる若者はだいたいティックトック見てないよ。そんなやつ読書会に来ないよ」
「無慈悲な……」

次回の読書会は『新潮』の最新号をやりたいなあ〜と思っているけれど未定😶😶😶

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