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ファラ・フォーセットの死の真相 がん治療の実際

「ファラ・フォーセットのガン死の真相は?」というYouTubeの番組を、つい見てしまった。

What Caused Farrah Fawcett's Fatal Cancer? (Our History)


代表作「チャーリーズ・エンジェル」に出たのは1シーズンだけだったが、爆発的人気を得て、世界中の女性が彼女の髪型を真似た。「1970年代のマリリン・モンロー」と言われたポップアイコンだ。

ど真ん中で彼女を体験した我々の世代は、ファラ・フォーセット・メジャーズという名で覚えている。当時、俳優のリー・メジャーズと結婚していたからだ。

学生時代、友人の家に麻雀をしに行くと、部屋に彼女のあの大きなポスターが貼ってあった。史上最も売れたと言われたポスターだ。

彼女は腹に子供時代の「幽門狭窄」の手術跡があったのでビキニにならなかった


ゴージャスな彼女の姿を眺めながら、むなしく野郎ばかりで麻雀していたのが、私の青春だった。


ファラは2009年6月25日、62歳で亡くなったが、偶然にマイケル・ジャクソンの死と重なった。

それもあって、亡くなったときの記憶が薄い。

ガンで闘病中だったことは有名だったので、それが死因なのは知っていたが、もう少し詳しく知りたいと思ったのだ。

人の死の詳細がやたら気になるのは、私が年をとった証拠でもある。


まず、彼女の3年間の闘病を年譜にしてみる。

日本語Wikipediaの「ファラ・フォーセット」にも闘病のことが書いてあるが、食い違う点が少なくない。どちらが正しいかを私は判断できないが、以下は、上記のYouTube番組によるものである。

重要な食い違いについては後で触れる。


ファラ・フォーセットのがん闘病史(年譜)


(2005年 ファラのTVショーが始まる。ドラマ・映画俳優としてより、タレントとして仕事を続けていた)

2006年6月 テキサス州ヒューストンの実家で、トイレの便器が血で赤く染まる(59歳)

2006年9月22日 カリフォルニアの病院で「肛門癌であり、転移する恐れがある」という検査結果を聞く

2006年10月13日 同病院で化学療法開始

2007年2月2日 彼女の60歳の誕生日、「がんが寛解した」という検査結果が届き、喜ぶ姿がニュースになる

2007年5月14日 3カ月検診で「がんが肝臓に転移。ステージ4」と告知される

このとき、「腹会陰式直腸切断」手術により、原発の肛門とその周辺を切除することを医師から勧められるが、拒否する。人工肛門になるのを嫌ったと言われる

2007年5月30日 ドイツの病院で、アメリカで当時未認可だった「Laser abolition」など複数の最新治療を開始

2008年2月7日 ドイツの病院で、腫瘍がinactiveになったという検査結果を知らされて喜ぶ(61歳)

2008年4月 腫瘍が再びactiveになったことを告知される

2008年8月29日 ロサンゼルスの病院で、未承認の強い抗がん剤治療を始める。ナノ分子の微細な薬剤を血管に注入し、従来では届かなかった細胞まで届かせるというもの

2008年10月 薬の強い作用により髪が抜ける

2009年2月9日 腫瘍が拡大したことを告げられ、周囲は死を覚悟し始める(62歳)

2009年4月25日 鎮痛のモルヒネにより朦朧状態になる。このころには、肝臓の腫瘍が9つから40に増えていた

2009年6月3日 緊急入院、その後、集中治療室へ

2009年6月22日 昏睡状態となり、病院から手の施しようはないと告げられる

2009年6月25日 午前9時28分死去 享年62


晩年のファラ・フォーセット(CNAより)


なぜガンになったのか


この番組は、論議を呼んだ著名人の死について、ベテラン検死官が検証する、という内容だ。過去に、キャス・エリオット(ママス・アンド・パパスのママ・キャス)、ジョージ・ハリスン、ブリタニー・マーフィーらを取り上げている。

ファラは肛門ガンで亡くなったわけだが、彼女について問題になるのは、次の2つだ。

1 彼女は健康オタクとして知られていた。なぜガンになったのか?

2 健康体だった彼女がガン発見から3年で亡くなった。治療法は正しかったのか?


まあ、いくら健康な人でもガンになるから、完全な理由がわかるわけではないだろう。

ただ、彼女はノンスモーカーで、野菜中心の健康的な食事で、常に運動をかかさなかった。肥満には無縁、健康的な魅力が売り物の女優だった。

そして、彼女は比較的若かった。


また、肛門ガンは、かなり珍しいガンである。悪性腫瘍の0・1パーセントと言われ、全米でも年間8000人程度しかいないそうだ。

それでも、原因として最も可能性があるのは、子宮頸がんと同様、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染だそうだ。性体験のある女性の50パーセントが感染すると日本の厚労省サイトにもあった。

いくらノンスモーカーでも、健康オタクでも、それだけではウイルス感染は防げない。ただし、ワクチンが効くはずだが、ファラがワクチンを打っていたかどうかの情報はなかった(多分打っていなかったのだろう)。


テレビのショーなどで、ファラはときにボケた反応をするので、アル中かヤク中に違いない、と言う者もいたようだ。

アル中やヤク中からガンになる可能性がなくはないだろう。

しかし、彼女にそうした依存はなかった。テレビでファラは「ブロンドのバカ女」役を求められがちで、彼女もそれがわかって演じていた面があるという。


彼女の特殊事情として、抗生物質の常用が取り上げられていた。健康オタクの延長だと思うが、彼女は風邪薬の「Z-packs」という抗生剤を、サプリ感覚で飲んでいた。抗生物質の常用は、腸ガンの可能性を高めるデータがあるという。

ただ、肛門ガンとの関連を示すデータはないので、関係ないだろうという結論だ。


結論としては、彼女がいくら健康に気をつけていたとしても、肛門ガンを防ぎようがなかった。(番組では言われないが、防げたとすればHIV予防接種だったろう)


彼女のガン治療は適切だったのか


彼女のガン治療で論議を呼ぶのは、切除手術を避けたこと、そして、ドイツでの代替治療の影響だろう。

日本語Wikiでは、

「2006年10月、肛門癌と診断され、摘出手術を受ける。」

と書かれている(以下、wikiはすべて5月21日時点)が、番組を信じればこれは誤りで、摘出手術を受けていない。

また、確かな証拠はないが、最初の化学療法では、トレードマークの髪の毛が抜けないように、あまり強い抗がん剤は使われなかったことが番組で暗示される。

肛門ガンは、この番組によれば、早期発見の場合は予後のいいガンだという。

そして、番組の中でも言われるが、女優であるファラが、髪の毛が抜けることや、永久人工肛門を避けたい気持ちが人一倍あったとしても理解できる。


腹会陰式直腸切断手術は、罹患者の多い腸ガンでも使われる。直腸ガンの渡哲也が人工肛門だったし、大腸ガンの漫画家の内田春菊さんは手術を受けて人工肛門になった次第を漫画に描いている(私も読んだ)。

それで命が助かるとわかれば、ファラもそうしたと思うが、上記の年譜でわかるとおり、2007年の5月、肝臓への転移がわかるまで、彼女は比較的楽観的になれる状況だった。

後知恵で、最初の2006年9月の時点で切除手術をしていれば、と考えても、詮無いことだろう。この時点で、医師から切除手術を勧められてもいない。

肛門ガンは予後がいいと言われていたし、「チャーリーズ・エンジェル」の共演者含めて、彼女の周りにはガンサバイバーが多くいた。何とか乗り越えられると思っていたと思う。


だが、2007年の5月、肝臓への転移がわかり、いきなりステージ4になる。「寛解した」と言われたあと、わずか3カ月で暗転したのだ。

日本語のWikiでは、肝臓への転移は2009年になってわかったように書かれている。

「2009年4月、肝臓へ転移したためカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)付属病院へ入院する」

が、これもどうも誤りである。それがわかったのは、この2007年の段階だった。

ここで、彼女は肛門の切除手術を勧められるわけだが、番組の解説者によれば、ここで手術をしても、寿命が伸びたかは微妙だという。

なぜなら、その解説者によれば、肛門ガンが他臓器に転移した段階で、いずれにせよ5年生存率は20パーセントまで落ちる。

肛門のガンを取っても、肝臓に腫瘍がある限り、厳しかっただろう、と。


また、ドイツで受けた代替治療について、日本語Wikiには以下の記述がある。

「(2007)年9月ライアン・オニールに伴われ幹細胞治療のためにフランクフルト大学病院へ転院する、合衆国で違法なヒトES細胞を使用することに対する批判を受けることになる」

このWikiに書いてあるようなことを、番組では言っていなかった(「フランクフルト大学病院」というのも番組では登場しない)。

当時ドイツは最先端治療で定評があり、ファラが受けた、アメリカでは未承認だった治療も、その後アメリカでは一般化したという。

ドイツで受けた代替治療が、治療として誤りであったり、ファラの寿命に悪影響を与えたりしたとは考えられない、というのが番組の結論だった。


結論と感慨


今のガン治療の考え方は、生存率や寿命だけではなく、クオリティオブライフや、本人の選択を重視すると思う。

その意味では、ファラのその都度の選択は正しかったし、結局のところ、それでもガン死は避けられない運命だったと言うしかない。


むしろ嘆かわしいのは彼女の「男」運の悪さだ。

リー・メジャーズと離婚したあと、ファラはライアン・オニールと事実婚状態で子供もいたが、この男はプレイボーイとして有名だった。

それで浮気のトラブルが絶えなかったし、そのストレスがファラのガンの原因だという説まで番組で検討される(もちろん医学的因果関係は証明され得ないが)。

それでも彼女は彼を熱烈に愛していたというから、まあこれも仕方ない。

ライアン・オニールは、ファラのガン闘病ドキュメンタリーの中では献身的な姿を見せ、死の直前に正式な結婚をプロポーズしたという美談も披露した(ファラの死により結婚は実現しなかったが)。しかし、ファラの死の数カ月後には若い女とねんごろなところをスクープされている。


そして、もう1人の「男」は、ライアン・オニールとの間に生まれた息子だ。こいつもロクでもない。

ファラは彼を溺愛し、その成長を生きがいとしていたが、ファラの闘病中に薬物所持でつかまり、矯正院に入れられたので死に目にも会えなかった。


あんなに健康的に眩しく輝いていたファラに、こんな悲しい運命が待っていたとは、気の毒で仕方ない。

改めて彼女のご冥福を祈りたい。

そして、彼女のポスターをぼーっと見て麻雀ばかりやっていた役立たずが、彼女の享年を超えてぼーっと生きていることに、申し訳ないとは思わないが、人生の無常や不条理を感じるのは確かである。



<参考>


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