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井上達夫のメッセージ「戦争のない世界を作れればいいけれど」

昨日のYouTube番組で、もう1つ、憲法問題についての井上達夫(法哲学、東京大学名誉教授)のメッセージを、文字起こししておきます。番組の最後、憲法問題を論じた後に、「視聴者にメッセージを」と促されての発言。

井上は、「9条削除論」を主張していますが、削除が無理なら、少なくとも自衛隊を軍隊と認めて、その民主的統制規範を憲法に書き込むべきだという立場です。



(以下、井上の発言)


「戦争が起こったらどうするか」よりも、「戦争が起こらない世界を作るのが大事でしょ」とよく言われる。

一見これ、平和主義に聞こえるよね。

で、ぼくは「その通りだ」と。

戦争が起こらない世界をどう作るかが、本当は大事だ、と。

しかし、残念ながら、予測しうる将来において、それができるかといえば、難しい。

かつて、グローバル化とともに、経済的な相互依存を緊密にすれば、敵対する体制があったとしても、うまく共存共栄で、平和的にやっていけるだろうという考えがあった。

だから、天安門事件のあとも、中国に対してあまり制裁をしなかった。経済的協力を密にすれば中国はいずれ、中産階級が育って、民主化して平和になる、と。

ヨーロッパが、ロシアのプーチンから天然ガスをいっぱい買ったのも、こうやって欧州とロシアとの相互依存関係を緊密にすれば、平和になる、と思ったから。

本当にそうなったか、と。

結局、みなさんが見ているように、中国もロシアも経済力は飛躍的に伸びていった。プーチンのロシアも、2008年まではすごかったんだから。それで軍事力を増強して、国内の反対分子を抑えこんじゃって、独裁化をどんどん進めて、それを批判する欧米と対立して、今みたいなことになっている。

戦争がない世界は、いつかは来るかもしれない。だけど、近い将来ではない。それが来るまでに、何度か戦争が起こる。その中に、今もそうなんだけど、日本は巻き込まれるだろう。

だとしたら、そういう時に備えるべきだ。こんな巨大な軍隊(自衛隊)を、まったく憲法的、法的統制のないまま、「軍隊ではありません」という嘘のまま、放置している、こんな無責任さは、許せない。

戦争がない世界を作る方が重要だから、戦争になったらどうするかを考えちゃいけない、それはかえって危険なんだ、という発想こそ、無責任な軍事的膨張主義だ。それを自覚してほしい、と思います。



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