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【YouTube】「授業料」(1940) 日本統治下朝鮮の貴重な映画 複雑な涙を誘う名作

<概要>

名作として語られながら、つい最近まで消失したと思われていた作品。2014年に中国で完全なフィルムが発見され、ニュースになった。珍しい日本統治下朝鮮の映画である(当時の朝鮮映画の9割方は消失している)。

製作者、監督(チェ・インギュとパン・ハンジュン)など主なスタッフは朝鮮人だが、日本人も協力し、日本人(内地や満州)の観客を想定して作られた。興行的にも成功したらしい。

現在、YouTubeのKorean Film Archiveチャンネルで、日本語字幕付きで無料で見ることができます。この時代の映画のベスト作とも言われる。お勧めです。↓


<あらすじ>

日本(大日本帝国)統治下の朝鮮。

京城(現ソウル)に近い京畿道・水原(スウォン)に住む小学校4年生の禹栄達(ウ・ヨンダル)たちは、日本人教師の田代(日本人役者の薄田研二)から、日本語で日本の歴史などを習い、皇民化教育を受けている。

日本人学校は義務教育で授業料はタダだが、当時、朝鮮人は義務教育ではなく、学校に授業料を払わなければいけなかった。

しかし、栄達の家は貧しく、授業料(2円)が払えない。行商に出た両親から半年連絡がなく、留守を預かる廃品回収業のおばあさんは病気で働けなくなる。授業料どころか、家賃も、日々の食費にもことかく状態だった。

払えないのは栄達の家庭だけではなく、田代先生は黙って見逃してくれている。しかし、真面目な栄達は、学校が大好きなのだが、授業料を払えないのが恥ずかしくて、欠席しがちになる。

栄達を心配した級友たちはお小遣いでカンパを募り、田代先生は密かに栄達の家を訪ねてお金を渡す。だがそのお金も、家賃などでたちまち消えてしまう。

栄達は仕方なく、遠くの親戚の家に金を無心するため、一人で旅に出るのだったーー


<評価>

どうしても歴史的興味が先に立ってしまうが、純粋に映画として見て、見どころが多い。確かに名作だと思う。

監督は人情を敏感に捉え、繊細に演出している。大げさなセンチメンタリズムは避け、リアリズムが基調だが、視線に常に温かみがある。

とくに主人公の男の子は名演で、健気な振る舞いに泣けてしまう。この映画は、韓国映画で初めて少年を主人公にした作品とされる。

名カメラマンと言われたイ・ミョンウの撮影も美しい。1997年に世界文化遺産に登録される「水原華城(李朝の名城)」が舞台の一部になっているのが見どころだ。きれいに復元される前の荒廃した風景に、かえって詩情が漂っている。

クライマックスとなる少年の一人旅。淋しい街道の風景、「愛馬進軍歌」、森永のキャラメル・・1コマ1コマに意味を込めるような情感あふれる映像はちょっと忘れがたい。

小津映画の常連、伊藤宣二の音楽も立派で、いまでも十分に楽しめる映画です。


しかし同時に、日本人も、韓国・北朝鮮人も、居心地が悪く、複雑な思いを抱かざるを得ない映画だろう。

まず、当時の朝鮮が、日本語と朝鮮語の二重言語であった事実に、改めて衝撃を受ける。

日本人は戦後、米軍に占領されたといっても、英語を強制されたわけではない。しかし、朝鮮人は日本語を強制され、学校では「日本史」を習わされていた。

主人公の少年が、日本語で教科書を読み上げている場面がある。

「我が国は、アジア州の日本列島および朝鮮半島より成る。その他、満州国より借りたる関東州、諸国より預かれる南洋諸島があり・・」


この映画の中の日本人は優しく、権力的に朝鮮人を抑えつける場面は一切ない。日本の統治の寛容さと、温情を見せるのが映画の目的の1つだろう。

しかし、「貧しいのは恥ずかしいことではないんだよ」と日本人から優しく諭される朝鮮人の屈辱感は、いかほどであったか。


この映画について、韓国の映画評論家・李英一は、こう書いている。

私は小学校3年生の時に、中国の天津で、この映画を見た。幼かった私は「授業料」を見て、主人公の少年が悲惨なまでに貧しい暮らしを営む姿に涙を流した。そして涙を流す一方で、憤りがこみ上げてくるのを抑えることができなかった。


この映画の原作は、「京城日報」に投稿され、朝鮮総督賞を受賞した光州の小学生の作文だった。

「京城日報」は当時の朝鮮最大の新聞で、国民新聞社主(のちに毎日新聞社賓)だった徳富蘇峰が監督していた。

その蘇峰は戦後、日本人が大きな勘違いをしていたことに、ようやく気づいた。

「終戦後日記」にこう書いている。

「日本人は朝鮮から、取る事も取ったが、与うる事も与えた。しかし朝鮮人は誰一人、日本に向って感謝する者もなく、常に日本人の手から、自由ならん事を、祈って已(や)まなかった」

「一言にしてこれを言えば、(占領は)物質的には成功に邇(ち)かかったが、精神的には、全く失敗した」


<参考>



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