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「新聞・テレビ消滅」はいつ起こる?

佐々木俊尚が『2011年 新聞・テレビ消滅』(文春新書)を出したのは2009年のことだった。

私はその頃、現役だったから覚えているが、この「予言」には、その時点でリアリティがあった。

YouTubeやツイッターなど、SNSの世界的な勢いが、誰の目にもはっきりした時期でもあった。

本書はそれなりに影響力を持ち、本書を読んで業界をやめていった人もいたような気がする。(得をしたか、損をしたかは知らないが)

しかし、それから13年たって、日本の新聞・テレビは、弱ってはきているが、 まだ消滅する気配はない。


ところで先日、こんなチラシがポストに入っていた。

レジャー施設の利用券が当たるキャンペーンのようだが、どこの会社が主催しているのかわかりにくい。

よく見ると「YFC」とあった。「YFC」とは、読売ファミリー・サークルという読売新聞の関連会社だった。

そして、小さな小さな字で、

ご応募いただいた方のお名前、ご住所、電話番号、メールアドレス、性別、年齢などの個人情報は、読売ファミリー・サークル、応募者の地域を担当する読売センター及び読売新聞東京本社が共同で使用し(中略)ご購読のお勧め、ご購読の延長、集金業務の遂行、新聞以外の取扱商品のご案内(中略)に利用させていただく場合があります。

と、ある。

2カ月前に私は、「次は新聞・テレビがあなたのメールアドレスを取りにくる」と書いたが、いよいよ来たな、という感じだ。


読売新聞は球団、サッカーチーム、遊園地などを持つ。

レジャー事業に強い。だから、そこを突破口にしようとしているのが分かる。


一方、朝日・毎日は、昔から「教育事業」に力を入れている。

大学情報、高校野球、読書感想文コンクール、音楽コンクールなど、学校を巻き込んだ事業が多い。それがブランドイメージにマッチしていると思っているのだろう。

最近、イスラム学者の飯山陽氏が、朝日新聞がやたら「ビリギャル」を推しているのを批判していた。


その少し前、同じ飯山陽氏は、毎日新聞に載った、アグネス・チャンの教育自慢話も批判していた。


私は、どちらの記事にも、「教育に強い朝日・毎日」をアピールし、読者を教育事業に誘導しようとする、なりふり構わない姿勢を感じた。

朝日・毎日は教育事業を突破口にしようとしているのだろう。


新聞社の事業は、もともと、本業に余裕があるときに、読者サービスとして始めたものだ。

映画会、音楽会、展覧会、スポーツ大会など、それが日本の文化に果たしてきた役割は大きい。

それでも、それはあくまで「余技」であった。しかし、本業が苦しくなるとともに、「事業だのみ」になりつつあるのを感じる。

それは、テレビ界もそうかもしれない。

だが、レジャー業にしろ、教育・受験業にしろ、不況・少子化の中で、それほどの成長は見込めないだろう。

それはマスコミもわかっているだろうが、何かしなければならない。社員を減らし、給料を減らして、最低、その人件費をまかなう程度の稼ぎは必要だ。


佐々木俊尚の「2011年 新聞・テレビ消滅」の時と比べて、「変わったな」と思うのは、ネットとの関係だ。

あの頃は、ネットの覇権をめぐり、メディア各社が競争していた。

各社のニュースサイトがビュアー数を競ったり、読売、朝日、日経が手を結んでウェブサイトを作る、みたいな動きもあった。

『2050年のメディア』という本に詳しいが、この競争は、業界に成果を生まなかったようだ。スマホが主流になるとともに、それまでの戦略が無に帰した。

結局、勝者はヤフーであり、GAFAMだったようだ。

かつてMSNは産経がニュースを流していたが、いま、ウィンドウズのニュースは、朝日、読売、毎日、産経、日経が、なかよく平等に配信している。

その間の事情をよく知らない。

今のところ私の目には、リストラ以外の積極的な構造改革やイノベーションは見えない。

日経がデジタル版の読者を伸ばしていることは、私が現役の頃から言われていたが、他社はどうなのだろう。

レガシーメディアのネット事業が今どうなっているか、誰か取材してほしいものだ。


リストラで人件費を減らし、産経のように全国紙体制を放棄し、毎日のように減資して中小企業となりながらも、「新聞・テレビ」はなんとか消滅せず、既得権者でがっちりスクラムを組み、それなりに安定しているように見える。

コロナが明けると、広告も少しは持ち直してくるだろう。

しかし、長年政治的に守られてきた日本のマスコミの、「どうせつぶれない」という意識から起こるモラルハザードは、まだ現場に濃厚に残っていると思う。

「事業」を突破口としようとする新聞社の戦略が、大成果を生むとは思えないが、新聞業界が拡張期に見せた「アニマル・スピリッツ」がよみがえるなら、それはそれで期待したい。

そして、佐々木俊尚氏には、再度取材していただき、「新聞・テレビ消滅」が本当は何年ごろになりそうか、改めて教えてほしい。




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