日本に「銃」が足りない
国内の獣害の増加は、数年前から言われている。農作物が荒らされるだけでなく、最近は獣が人家に出て、危害を及ぼす例が多い。
昨年は北海道で、ヒグマによる死傷者14人と過去最悪となったし、今年になって本州各地でツキノワグマが出て福島で死者が出た。つい最近、11月9日は、徳島県でイノシシが出て6人がケガをした。
(タヌキやシカが街中に現れると「ほのぼのニュース」になったりするが、それも「野生」が拡大している兆候に思える)
獣害の増えている原因として、地球温暖化による生息数の増加などが挙げられているようだが、どうも釈然としない。
狩猟人口の減少と関係がある、と思っているのは私だけではないだろう。
狩猟人口の激減
私が住んでいる柿生(川崎市麻生区)は、50年前まで猟場だった、という話はnoteにも書いた。
この地で狩猟をしていた文芸批評家の河上徹太郎のエッセーを読むと、1960年代に「いまはガン・ブームであるが」という言葉がよく出て来る。
実際、1960年ごろからブームがあったらしい。狩猟人口の統計を見ると、1960年から1980年あたりまでがピークで、狩猟免許交付数で50万人くらいだった(1人で複数の免許を所有するので、実数はもっと少ない)。
狩猟をするのは圧倒的に男性だが、女性の狩猟人口もその頃1000人以上いた。柿生にも「若いカップル」が狩猟に来ていたことを、河上はエッセーで書いている。
現在の狩猟人口は、免許交付数で半減以下の20万人弱である。しかも、高齢化しているのは、ニュースに出てくる猟友会の顔ぶれを見るとわかるだろう。
スポーツとしての狩猟
狩猟というと、それを生業とする猟師を思い浮かべる人が多いだろうが、スポーツとして狩猟を楽しむ人も多かった。河上もその1人だった。
スポーツとしての狩猟は、おそらくゴルフと同じように、英米の貴族文化を真似て日本に入ったのだろう。麻生太郎が若い頃、射撃でオリンピックに出たのも、祖父の吉田茂以来の文化資産ではなかろうか。
明治以前の日本にも「スポーツとしての狩猟」はあった。銃は使わなかったが、鷹狩りなどの武芸である。柿生も、伝承によれば、源頼朝や徳川家康の猟場だった。
武士の狩猟には実益もあった、と吉田松陰が論じている(それを川上徹太郎が紹介している)。その1つが害獣の駆除であった。
低下する「銃器リテラシー」
最近の獣害を、狩猟人口の減少と結びつけるには、今のところ証拠不足のようだ。
しかし、獣害の問題だけではない。「銃」とあまりに縁遠くなった日本に、私は不安を感じるのだ。
日本がアメリカのような「銃社会」でなくてよかった、とほとんどの日本人は思っているだろう。アメリカでも、最近は「銃社会」への逆風が吹いている(今回の中間選挙でも争点の1つで、銃規制派の民主党に有利に働いたと思われる)。
ただ、例えば、徴兵制がある韓国の男性は、銃の扱いを心得ている。だから、韓国人YouTuberのウクライナ戦争の分析などを聞いていると、専門家でなくても、銃器に詳しかったりする。日本の男は銃を使えない。
国の防衛力というと、核やミサイルの数みたいなものばかりで比較されるが、国民の銃器についての知識や「慣れ」の差、つまり銃器リテラシーみたいなものも問題ではなかろうか。
サバゲーのようなものでも、もし、韓国人チームと日本人チームが戦うことになれば、日本人に勝ち目がないと思う。
女性ハンターの増加
実はコロナになって、欧米で、狩猟ブームが起きている。
それで、日本製の猟銃が売れている。ブローニング社と提携する高知の猟銃製造会社は、2024年に新工場を作ってさらなる量産を目指している。
このように、日本で猟銃は輸出できるほど製造されているのだが、国内にその使い手が少ない。
日本でも、「ジビエ」がブームになった10年ほど前、狩猟ブームと言われた。
「狩りガール」なる女性ハンターも話題になった。女優の杏も狩猟免許を取っている。
実際、最近の顕著な特徴は、女性ハンターが増えていることだ。狩猟総人口ピーク時の女性人口をはるかに超え、免許交付数で6000人、実数で3000人以上いる。
その結果、免許交付数で、かつては男500に対して女1の比率だったが、現在は30対1くらいにまでなっている。
1976(S51) 男性529569 女性1061 男500対女1
2018(H30) 男性203222 女性6328 男32対女1
しかし、いくら女性ハンターが増えても、男性の激減と高齢化により、日本では狩猟をする人は、どんどん減り続けるだろう。
これでは、クマやイノシシに襲われても、猟友会の人が来てくれなくなるかもしれない。
イメージの悪さ
現在、高齢化したハンターの中には、1960〜1980の狩猟ブームの時に免許を取った人がいるだろう。
狩猟人口を増やすには、またブームが必要かもしれない。
狩猟人口が増えない理由としては、日本の猟場が減りすぎたこと、狩猟免許は取れても銃所持許可は警察がからんで面倒なこと、などがあるようだ。
それらの問題の改善とともに、男を狩猟に呼び戻すには、イメージ的な「かっこよさ」が必要だろう。
しかし、「銃」の社会的イメージは、日本ではあまりに悪い。
最近の獣害の増加は、狩猟人口の減少の結果だと思っている人は、実際は多いだろうし、環境庁なども一部で狩猟人口を増やそうとしているらしい。
しかし、マスコミにタブーがあって、この問題をストレートに書いていないのではないかと思われる。それも、銃のイメージの悪さのせいだろう。
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実は、この文章を書き始めたのは、以下のような東京マルイのツイートを見たからだ。
エアソフトガンという商品は、実は結構前からTwitterなどでウェブ広告が出せなくなってしまったのです。 ネット全盛期にウェブ広告が出せないのは、弊社としても結構な痛手なのですが…
男よ、銃を取れ
思い返してみると、大人の世界で狩猟がブームだった頃、子供の私が見ていた子供用雑誌には、必ずかっこいいガンの広告が載っていた。
しかし、いつしかモデルガンすら規制が厳しくなり、現在は上記のようにネットでも広告規制されている。
銃をタブー視しすぎるのも問題ではないか。
アメリカのような銃社会になる必要はないが、国民全員が闘争本能や狩猟本能を忘れてしまうような「無銃社会」で、日本は大丈夫なのか、と思う。
男の子が銃や武器に関心を持つのは自然なことなのに、それを狩猟やスポーツの方に向けるルートがなくなると、かえって危険ではないかと思う。
日本の男よ、もっと銃を取れ、と言いたい。
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