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「役者は一日にしてならず」草刈正雄編

春日太一さんの著書「役者は一日にしてならず」の読書感想文を書いています。

この本の最後を飾る俳優は、見た目も華やかな草刈正雄。私には、かっこよくてお茶目な紳士、というイメージがあった。
インタビューされたのが2013年9月3日とのことで、それから約10年後である2023年の「ファミリーヒストリー」というテレビ番組では、ご本人も知らなかった父親のことが判明し、話題になっていたようだ。

機会が出来ればこの「ファミリーヒストリー」は見てみたい気がしている。
…なので、この本が出版された時点で、彼の出自についてはあまり触れられていない。

読み終わって、草刈正雄のプロフィールについて気になり、Wikipediaを読むと、生まれた時から母一人子一人。小学生の頃から新聞配達•牛乳配達で家計を助け、定時制高校のころ働いていたバイト先で、雑誌のモデルになった方が稼げるのでは?と言われてそうしようと思っていた矢先、スカウトされ上京した。
(2年後に母を東京へ呼び寄せた)

…苦労人なのである。

そして、ルックスの良さは、貧乏を脱却する力を秘めていると思う。貧しい諸君は、私含め、もちろん頂いてきたDNAによってどうにもならない部分はあるけれども、見た目を可能な限り[他人から見て不快な状態にしない]ことは肝に命じたい。
そして、DNAによって整ったルックスを頂いた者は、それを磨くと貧乏から脱却する可能性は上がると思う。

…草刈正雄も努力していた。
お金を稼ぐためにモデルになったけれど、モデルの仕事は自分に合っていないと感じていたそうだ。
初めての映画は篠田正浩監督の『卑弥呼』。
岩下志麻の相手役なんて、とんでもない大役を掴んだ。しかし演劇経験はもちろん無いし、
これまでインタビューで読んできた俳優たちは親なり養成所なり、舞台演劇、映画などで芝居というものを見たことがあり、それに憧れて役者になった者が多いなか、草刈正雄はルックスは抜群でも、バイトばっかりやっていてろくに映画も見ていなかったんじゃないだろうか。
それこそ立ち居振る舞いもわからずにいたんじゃないだろうか。
モデル時代にもかなりカメラマンに叱られていたようだし、この映画でも、アテレコのセリフがうまく言えずよく怒られた。

僕は俳優として基礎的なことをしてこなかった。それが今でもコンプレックスになっています。きっちりとした芝居のバックグラウンドがない。そのために、この歳になってもいろいろと落ち込んでしまいます。

気弱な発言は随所に見られる。
Wikipediaのプロフィールを読むと、若い頃の出演作でも、いくつか賞を獲得するなど評価をされているけれど、自分の中ではなかなか自信に繋がって行かなかった様子だ。

それでも、ご縁が繋がって、いくつもの作品で主役として抜擢され、メディアでも話題になり、おしもおされぬ売れっ子に。楽しい思い出も増えた。
そして時代劇にも出演させてもらえるようになって、殺陣を覚えるために道場へ通ったり。
そして1980年の超大作「復活の日」への主演起用。
この映画は、撮影期間も長く、海外ロケも多く、有名外国人俳優との撮影などもあり、危険な目にも遭って、そして上がってきた映像を見て、日本人と外国人の演技の違いに愕然とした。

僕らはフィルムがもったいないというのもあって、テンションを上げて『よーい、スタート』となったらパッと始めるんですが、向こうの人は監督の『スタート』がかかっても芝居をやらないんです。時間が経ってから、やおら動き始める。
彼らは自分のタイミングで演じている。
たえず中心に俳優がいる。
両者の違いをしばらく引きずってしまいましてね。それを励ましてくれたのが、夏八木勲さんでした。
人に対する思いやりが素晴らしくて、余計なことは喋らなくて、めちゃめちゃダンディで...…生き方のカッコいい先輩でした。


この本の、冒頭3人目が夏八木勲で、また読み返してみる。それが出来るのもこの本の魅力だ。

草刈正雄のインタビューには、楽しかったことももちろん沢山書いてあるけれど、アドバイスや提言のような文言は少ない。
迷いや、自信のなさ、苦しみ、大変だったことを語ってくれている。

どんな方でも、主役が難しくなってくる時期が来ます。僕にもその分かれ目がありました。でも、この仕事を続けていくしかないわけです。

大滝秀治さんも『僕は仕事を楽しんだことはない。苦しみだけだ』とおっしゃっていましたが、それがよくわかります。俳優座の楽屋裏で大滝さんがお祈りをしている写真を見たことがありますが、『あぁ、俺と一緒だ。みんな苦しんでいるんだ』と思いました。


無理だとか、苦手だ、と思っても、魂込めて打ち込んでみて、苦しみながらもそれを続け、段々と見えてくる自分の本当にやりたいことを模索してゆくと、そっちへ導いてくれる人と出会えるようになる…ということだろうか…。

 そして、なんとなく草刈正雄のインタビューでは、誰々さんにこう言われ、そうした.…というようなニュアンスが随所に感じられ、そういう従順さというか、周りが自分のために掛けてくれた言葉に素直に従うことで道が開けてきたような様子も伺えた。

「素直」でいることの重要性を、私も過去の誰かから説かれたことがある。自分の判断にこだわりすぎず、周りの勧めるやりかたに、自分を添わせてみる。
それは意にそぐわないこともあるし、苦しいことでもあるんだけれど、やってみると、出来たりする。

そのときどきに、自分に与えられた場所で、下手でも全力を尽くしてゆくことは大切だということを、柔らかい調子で教えて頂いたような気がした。

そして、御本人の評価とは乖離しているかもしれないが、やっぱり私達にとって、草刈正雄は昔も今も、大好きな俳優の一人であることに間違いはない。
私も、草刈正雄という俳優にはずっと好感を持っている。


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