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宮城・南三陸ホテル観洋が毎日運行する「語り部バス」とは?|東日本大震災の記憶の伝承|予約方法・料金・評判

2021年、東日本大震災から10年が経ちました。
復興は着実に進み、東北の被災地は少しずつその姿を変えています。

震災によって壊された町は、新たな防波堤建設や土地整備が進みゆく反面、かつての町の姿を想像することは難しくなりつつあります。

あの震災を風化させない。

「震災遺構」として被災した学校等を残す活動が続いています。
その一方で、 "言葉" にしなくては途絶えてしまうような教訓を「語り部」として伝え続ける人たちがいます。

今回はそんな活動を続ける、宮城・南三陸町の「南三陸ホテル観洋」をご紹介します。

◆南三陸ホテル観洋とは?

南三陸町にある「南三陸ホテル観洋」。
志津川湾に面したこのホテル。温泉からも海を眺めることができ、もちろん部屋からの眺望も抜群!三陸海岸最大級の海のリゾートホテルです。

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あの日このホテルも、津波により2階までが浸水する被害を受けました。
それでも、強い地盤に建てられたホテルは大きな被害を免れ、震災直後から多くの避難民を受け入れる側となりました。

その南三陸ホテル観洋が長年続けてきたのが「語り部バス」です。

◆南三陸ホテル観洋|語り部バスとは?

「南三陸ホテル観洋」が毎朝運行しているのが「語り部バス」です。
これまでの参加者は、のべ40万人を超えます。修学旅行などの団体や個人など、多くの人に震災の教訓を伝え続けてきました。

あの震災を風化させない。
ホテルのスタッフがバスのマイクを握り、ホテル所有の貸切バスで南三陸町を巡ります。

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◆語り部バス
・参加費:500円(大人)
・要電話予約(宿泊者は前日21時までの申し出でも可能)
・宿泊者以外でも参加できます
・最少催行人数:1名

① 通常コース
・約60分間(8:45~9:45)
・ホテル → 戸倉地区 → 高野会館前 → 防災庁舎 → ホテル
② 高野会館特別コース
・約90分間(10:15~11:45)
・ホテル → 戸倉地区 → 高野会館前(入館あり) → 防災庁舎 → ホテル

語り部バスツアーは2パターンで展開されています。
「通常コース」「高野会館特別コース」ともに訪れるルートは同じですが、「高野会館特別コース」は高野会館の入場が含まれています。

バスツアーの間は、各スポットでバスを停車させての案内がありますが、下車はできません(高野会館特別コースの高野会館を除く)。

▼語り部バス・ルート▼

◆南三陸ホテル観洋|語り部バス|①戸倉地区・戸倉中学校

それでは、語り部バスで訪れる場所をご案内します。
参加予定の方も、事前勉強としてお読みいただくことで、現地での学びがより深いものになると思います。現地でもっと話を聞いてみたい、という思いに繋がれば幸いです。

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ホテルを出発すると、まずは南に位置する「戸倉地区」へ向かいます。
バス車内では早速、スタッフさんがマイクを通して車窓の景色を解説してくださいます。天気が良い日は、左手に志津川湾が美しく見えてきます。

はじめにバスが停まるのは、戸倉地区の戸倉中学校
十分高台にあるように思える中学校ですが、ここにも津波は襲来しました。

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この場所には、子供たちだけでなく周辺の町民も避難をしてきました。

「山から津波が押し寄せてきた」
始めは、ゆっくりと海側から海水がグラウンドに流れ込んできました。避難してきた住民を手助けしながら、2名の教師が体育館へと急ぎます。

しかしその直後、建物の1階部分が見えなくなるほどの津波が、山の方から一気に流れ込んできました。海とは逆の方角に山がそびえる戸倉中学校。津波は予期せぬ動きを見せたのです。

1名の教師と避難してきていた2名の町民は津波に巻き込まれ、離れ離れになってしまったといいます。

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戸倉公民館となったこの場所。
時計はあのときの時間を指したまま止まっています。

◆南三陸ホテル観洋|語り部バス|②戸倉地区・戸倉小学校

次に訪れるのは、戸倉小学校です。いまはその校舎がどこにあったのかさえ、教えてもらわなければわかりません。

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戸倉小学校は、当時校舎内にいた全ての児童が高台に避難し、助かりました。
その背景には、繰り返し行われてきた避難訓練や、避難マニュアルの見直し、町の人々との日頃からの連携がありました。

当時の戸倉小学校の校長・麻生川敦先生は、埼玉県出身。この小学校に赴任してきたのは約2年前のことでした。

海のすぐそばにある小学校。津波が起きた場合、どこに避難するべきか?
この町出身の教師たちと日頃から話をしていました。「学校の屋上」への避難を想定していた校長先生。しかし、代々地元の教えを受け継ぐ教師たちの答えは「高台」でした。

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震災の日、校長先生は「高台への避難」を早々に決定。全生徒を高台まで避難させました。しかし、その安全と思われた高台さえも危険を感じ、さらに神社の奥へと避難。その直後、さっきまで集まっていた高台は津波に飲まれました。

冷え込んだその夜、生徒たちは卒業式で歌う予定だった、川嶋あいさんの「旅立ちの日に・・・」をみんなで合唱し、励まし合ったといいます。

校舎にいた全ての生徒たちを救ったのは、避難マニュアルだけに頼らず、緊迫した状況の中でも臨機応変な判断をし続けた「人」の力でした。

◆南三陸ホテル観洋|語り部バス|③志津川地区・高野会館

戸倉地区を出発し、バスはホテル前を通過して北に位置する志津川地区へ。
バス右手に「高野会館」が見えてきます。

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高野会館はブライダルのための施設として建てられました。その日は、町の高齢者が集い、芸能発表大会が行われ賑わっていました。

大きな揺れが起き、高野会館のスタッフは屋上への避難を呼びかけます。
結婚式場として建てられていたため、通常の建物よりそれぞれのフロアの天井が高かった高野会館。多くの町の人々を救いました。

それでも建物の入口では、自宅を心配して戻ろうとする人や、海のすぐそばにある高野会館に不安を感じ高台への移動を試みる人たちが続きました。
スタッフは両手を広げて制止し、ここの屋上なら安全だ、と避難を呼びかけ続けましたが、建物をあとにした人もいたと言います。
「あのときもっと強く制止していれば。」
なにが正解かもわからなかった状況下。それでも悔やむスタッフがいたといいます。

震災がいつ襲来するのか、私たちにはわかりません。
もしも、地震があと少し遅い時間、芸能大会終了後に起きていたとしたら、さらに多くのお年寄りが自宅に戻っていて、避難が間に合わなかったかもしれません。
様々なシチュエーションを想定することの必要性を感じる場面でもありました。

現在、高野会館は「震災伝承施設」に登録されています。

高野会館特別コースでは、建物内を見学するプログラムが含まれています。一般では立ち入りが禁止されているため、貴重な機会になるでしょう。

◆南三陸ホテル観洋|語り部バス|④志津川地区・南三陸町旧防災対策庁舎

高野会館のすぐそばに、「南三陸町震災復興記念公園」はあります。
そこで見えるのが、かつての「南三陸町旧防災対策庁舎」です。現在は、その赤い骨組みだけが残されています。

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大きな揺れが発生した直後から、町には避難を呼びかける防災無線が繰り返し放送されました。

「津波が迫っています」「避難してください」

その放送の発信元が「南三陸町防災対策庁舎」。
2階にある「危機管理課」から、職員が呼びかけを続けていました。

防災無線が響くこと約30分。庁舎にいよいよ津波が迫り、職員たちは屋上へと避難しました。しかし津波は、予想をはるかに超え、3階建ての建物よりさらに2m高く、庁舎を襲いました。

屋上へ逃げた職員約30人は、屋上のフェンスにしがみつきました。しかし、そのうち助かったのは10人だけでした。

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あの放送により、多くの町民が避難を試み、命が救われました。
この町の人たちは、あのときの放送の声を忘れることはできないだろうと、語り部さんは話しました。

◆南三陸ホテル観洋|語り部バス|震災を風化させない。とは?

志津川地区をあとにし、バスは来た道をホテルへと戻り、語り部バスツアーは終了となります。

「この語り部バスは、参加者が1名だけでもご案内している」
ホテルスタッフの伊藤さんは話をされていました。

震災を風化させない。
それは、あの日から学び、いつかわからない次の震災に備える、ということ。

・大きな揺れが起きたら、高台を目指す
・近所の人へ声をかける
・避難用カバンに、防寒具・ラジオ・充電器・筆記用具も
・家族と緊急時の避難場所を日頃から確認する

南三陸町周辺では、過去にも大きな地震が何度もありました。それを教訓に、避難マニュアルが作り直され、日頃から避難訓練が行われてきました。

それにより、救われた命がありました。
それでも、救えなかった命がありました。

同じ悲劇を起こさないために、未来の大切な人たちを守るために、私たちは伝え続けていかなければならないと思いました。

ぜひ、自分の足で南三陸町を訪ねてみてください。目で耳で、感じてみてください。

南三陸ホテル観洋では、常設で震災当時の資料も展示しています。
そしてこの語り部バスは、未来の大切な人を救う手助けになると確信しています。

◆南三陸ホテル観洋
公式ホームページ
語り部バス・予約ページ
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